「演劇教育」とは?【知っておきたい教育用語】
子どもたちのコミュニケーション能力を高める取組として、「演劇教育」が注目されています。演劇を通して、具体的にどのような能力が養成されるのでしょうか。
執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム
目次
「演劇教育」は、コミュニケーション能力を育む
【演劇教育】
演劇を通じた教育活動のこと。演劇の鑑賞による活動のほか、ワークショップなどを通じて実際に演じる活動も指す。表現力はもちろん、集中力や想像力、コミュニケーション能力を活性化させるはたらきがある。
欧米では、日本における音楽科や美術科のように、演劇の授業が一般的に行われています。これは、さまざまな人種や国籍をもつ人々によって社会を形成する欧米諸国において、コミュニケーション能力や表現力が必要不可欠であるからです。
なお、「演劇」と聞くと、台本に沿って演じることを目的とするように感じますが、実際の演劇教育は、自分の感情を他者に伝達する方法や相手の感情の受け取り方を考え、実践する、他者とのコミュニケーションにおける学びを目的としています。
そのため、欧米の演劇教育には、有効な教育手法や学びのサイクルが数多く存在します。一般社団法人日本グローバル演劇教育協会によれば、世界の演劇教育の手法には、次のようなものがあります(一部、抜粋して紹介します)。
●シアターゲーム
演劇教育のなかでもベーシックな手法。多彩なゲーム内容によって、遊び感覚でコミュニケーション能力を育てる。
●インプロ
即興的にシチュエーションを演じるもの。場と状況と人を理解して、その場で次々とコミュニケーションが生まれるため、人前での表現力が磨かれる。
●シアター・イン・エデュケーション
プロの劇団が学校で上演する取組。ただ観劇するだけでなく、作品と連動したワークショップが行われるなど、子どもたちが積極的に参加できるプログラムになっている。
以上のように、海外では演劇が教育現場に多彩な形で取り入れられています。グローバル化が急速に進み、日本でも外国にルーツをもつ子どもたちが増えてきています。そうした状況のなかで、演劇教育による多文化理解、多文化共生の教育の機会も増やしていく必要があるでしょう。
日本における演劇教育
一方、日本の教育現場においても演劇をはじめとした芸術分野によるコミュニケーション能力の養成が注目されています。平成22年度には、文部科学省が「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」の促進によって、「芸術家による表現手法を用いた計画的・継続的なワークショップ等の実技指導を実施することにより、芸術を愛する心を育て、豊かな情操を養うとともに、コミュニケーション能力の育成を図る」ことを掲げました。
また、日本国内で演劇教育の研究・実践を古くから行っている一般社団法人日本演劇教育連盟によれば、学校現場だけでなく、地域社会においても演劇教育の必要性が求められているとともに、演劇教育を広く普及していくための指導者の育成も重要であることを示しています。
子どもの表現活動(劇をはじめ、声とことば・からだによる)を活発にし、表現とコミュニケーション、そこから生まれる感動の共有を創り出すことが、今日では学校教育にとどまらず地域社会においても、切実に求められていることのあらわれでもあります。
そこで、劇づくりや演劇鑑賞の場、教員あるいは指導するおとな自身の表現力を磨く機会を設けて、それの具体的な展開を図っています。
一般社団法人日本演劇教育連盟(ウェブサイト)「活動紹介」
演劇教育は、子どもだけでなく、大人もコミュニケーション能力や表現力を磨く機会の創出につながります。
日本において演劇教育は、いまだ浸透していないのが現状です。しかし、他者との対話を通して理解を深める、つまり他者理解につながる演劇教育は、探究的な学びを重視する今日の教育現場において、今後積極的に取り入れていくべきであるといえるでしょう。
▼参考資料
文部科学省(PDF)「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」平成22年
一般社団法人日本グローバル演劇教育協会(ウェブサイト)「演劇教育の手法」
一般社団法人日本演劇教育連盟(ウェブサイト)「活動紹介」
東洋経済オンライン(ウェブサイト)「自分の気持ちを表現し合う『演劇教育』が子どものコミュ力を育てる訳 子ども創作舞台演出家・むらまつひろこに聞く」2022年12月12日
東洋経済オンライン(ウェブサイト)「平田オリザ、なぜ『演劇教育』が主体的・対話的で深い学びの実現に有効なのか 演じる、フィクションの力を使った学びの効能」2024年9月2日