小5特別活動「目指す自分になるための自主学習」指導アイデア
前文部科学省視学官監修による、小5特別活動の指導アイデアです。11月は、<学級活動⑶ウ「目指す自分になるための自主学習」>を紹介します。
自己の将来を思い描いて、改めて自主学習や学ぶことの意義について考え、よりよい学び方について学級で話し合います。話合いを生かして、自分に合った具体的な学習内容や学習方法を意思決定し、実践を目指します。
執筆/滋賀県公立小学校教諭・古川 龍
監修/前文部科学省視学官 帝京大学教育学部教授・安部恭子
滋賀県特別活動部会顧問 元滋賀県公立小学校校長・鈴木靖彦
目次
年間執筆計画
4月 学級活動⑴ 5年〇組の係を決めよう
5月 学級活動⑴ 学級の歌をつくろう
6月 学級活動⑵ ウ 地震のときの正しい行動の仕方
7月 学級活動⑴ 1学期がんばった会をしよう
9月 学級活動⑵ イ 互いのよさの認識
10月 学級活動⑴ 5年〇組の運動会のめあてを決めよう
11月 学級活動⑶ ウ 目指す自分になるための自主学習
12月 学級活動⑴ 来年の1年生を学級に招待しよう
1月 学級活動⑶ ア 最高学年に向けて取り組むこと
2月 学級活動⑴ 6送会で感謝の気持ちを伝えよう
3月 学級活動⑴ 5年〇組の一年を振り返る会をしよう
1 自主学習について
5年生になると、子供たちは自らの得手、不得手な学習を客観的に理解できるようになります。また子供によっては地域のスポーツクラブなどの準拠集団で活動する機会が増えるなど、学校での学習だけでなく、学びについての興味・関心の幅が広がっていきます。そのため、教師から出された課題で家庭学習をするだけでなく、将来の夢や身近な目標を意識して「自主学習」に取り組み、自分に合った学習内容を選んだり、学習方法を工夫して課題を追究したりすることも可能になってきます。
2 学級活動⑶ウ「主体的な学習態度の形成と学校図書館の活用」について
小学校学習指導要領解説「特別活動編」においては学級活動⑶「一人一人のキャリア形成と自己実現」について、「個々の児童の将来に向けた自己実現に関わるものであり、一人一人の主体的な意思決定に基づく実践にまでつなげることをねらいとして」とあります。また特別活動は、総則で、学校教育全体を通して行うキャリア教育の要として位置付けられており、学級活動⑶はその中心とも言えます。
ここでは学級活動⑶ウ「主体的な学習態度の形成と学校図書館等の活用」に係る題材において、なぜ自主学習に取り組む必要があるのか、また自分に合った自主学習はどのようなことかなどについて考え、具体的なめあてや方法を意思決定して実践する取組を紹介します。
2学期が始まって半分が過ぎる11月になると、学年当初に一人一人が目標を決めて取り組んでいる自主学習について、モチベーションがやや下がり気味になる子供も見られます。そこで、自己の将来を思い描いて、改めて自主学習や学ぶことの意義について考え、よりよい学び方について学級で話し合うようにします。話合いを生かして、自分に合った具体的な学習内容や学習方法を意思決定して実践します。事後では、実践したことを目標に即して振り返り、次の課題解決や新たな取組に生かすなど継続的な学びとなるようにしていきます。
3 本時のねらい
本題材では、子供たちがこれまでの自主学習の取組を振り返り、自主的に学習をすることの大切さに改めて気付いたり、現在の学びと将来との結びつきを見いだしたりすることができるようにします。学級での話合いを生かして現在の自分に合った学習方法や学習内容を意思決定し、実践することで、進んで学習しようとする態度を身に付けることができるようにします。
4 よりよい意思決定に向けた学習過程
本時の学習では、「つかむ」「さぐる」「見つける」「決める」の4つの段階の学習過程を基本とします。子供たちが互いの成長や考えのよさを認め合ったり、学級での話合いを通して個々の考えや可能性を広げたりして、強い決意をもって実践することができるようにします。
5 事前の指導
学級活動⑶は、年間指導計画に即して設定した題材について、担任が意図的・計画的に指導します。そのため、学級活動⑴と異なり、事前や本時の指導は、原則として学級担任が中心になって進めることになりますが、アンケートの集計や本時での説明などを子供たちの手で行うことで、子供たちにとって題材がより身近になったり、自分事として考えられるようになったりすることも考えられます。
自主学習に関する事前アンケートを行う
子供一人一人の状況や題材についての思いや考えを事前に調査することで、課題意識をさらに高めます。本実践では、下の項目でアンケート調査を行います。
【アンケート質問例】
●自分から進んで自主学習に取り組んでいますか。
●自主学習で、どんな内容の学習をしていますか。(自由記述)
●自主学習にどんな工夫をして取り組んでいますか。(自由記述)
●自主学習は自分にとって大切だと思いますか。
●大切だと思うと答えた人に聞きます、それはなぜですか。(自由記述)
●自主学習の取組について悩みや不安と感じることはありますか。
●あると答えた人は、どんなことですか。(自由記述)
アンケート調査は、ワークシートに記入する方法のほかに、ICT端末を活用して調査する方法があります。これにより、集計作業を効率よく行うことができます。また、アンケート項目の自由記述についても板書に示すのではなく、ICT端末でも見ることができるようにすると、友達の記述を参考にして自分の考えを広げたり深めたりすることができます。
6 本時の指導
板書例
【つかむ】
事前アンケートの結果から、気付いたことを話し合い、自分たちの自主学習の現状や内容、方法について振り返ります。
事前アンケートの結果を見て、気付いたことや感じたことを出し合うことで、題材への関心を高めます。さらに自分の学習の内容や方法をアンケート結果と比べながら振り返ることで、自らの取組の課題に気付くことができるようにします。
アンケート結果を見て、気付いたことや分かったことはありますか?
自主学習で漢字や計算をしている人が多いです。
家の人に「自主学習やった?」と言われ、どんな学習をしたらよいのか困ったことがあったのですが、同じ思いの友達がいることが分かり、ちょっとほっとしました。
私もそうですが、自主学習が自分にとって大切だと考えている人が多いことが分かります。
みんながどのようにして自主学習に取り組んでいるのか気になっていました。同じ悩みをもっている人がいることが分かり、一緒に考えたいと思いました。
自主学習が大切だと感じている人が多いことは素晴らしいですね。でも、人それぞれに何をどのように自主学習で取り組んだらよいのか、困っていることが多いということも分かりました。今日は、これまでの自主学習の取組について振り返って、これからどのように取り組むのかを考えていきましょう。
【さぐる】
自主学習に進んで取り組むことができなかったり、内容が不十分だったりしている原因を考えるとともに、自主学習に取り組む意義や、自主学習に取り組んでよかったことを話し合う。
アンケートから分かったことや、みんなから出てきた悩みの原因とは何でしょうか。
僕は漢字が苦手なので、とりあえず漢字を書く練習をたくさんしようと思っていましたが、ただ書いているだけだったので、身に付いていなかったように思います。
私はいつも計算ドリルと漢字ドリルをやることが多くて、早く終わらせるために自主学習の内容についてはあまり考えたことがありませんでした。
私は1学期にはインターネットで興味があることを調べていましたが、ただ調べただけだったし、調べたいことを調べつくしたように思えることが、自主学習が楽しくない理由の1つかなと思いました。
みんなの意見には、自主学習の内容についての悩みの原因とは「やってみたい!」と思う内容が見つからないことが多いのではないでしょうか。また、取り組む時間が限られていることもあるようですね。では、まずどうして自主学習をするのか、みんなで考えてみましょう。
僕にとって自主学習は、苦手な学習を克服するためです。算数が苦手なので「頑張れ」とよく家で言われます。
私は1学期からの目標にしているように、得意なことを伸ばすためにあると思います。だからいろいろな課題にチャレンジしています。
僕は将来に役立つからだと思います。僕は計算が得意だから将来それを生かす職業に就きたいと思っていて、難しい計算にチャレンジするようにしたら、前よりももっと得意になりました。
何を目指すにしろ将来に役立つという考えをもつことができていて、素晴らしいですね。ではこの機会に「キャリア・パスポート」を開いて、みなさんが1学期に決めたそれぞれの5年生の目標を書いたカードを見ながら、「これまで頑張ってきたこと」や「目指す自分」について考えてみましょう。
僕は以前よりも集中して自主学習に取り組むことができるようになりました。これは「計画を立てて勉強する」「気が散るゲームは近くに置かない」という、目標に向けて頑張った成果だと思いました。だから、目標をしっかり立てることが大切だと思いました。
私は将来小説家になりたいので「毎日15分読書」と書いています。これは今でも頑張っていますが、ただ本を読んでいただけでした。これからは毎回一言感想を書いたり、読み終わったらあらすじをまとめたりするなど、もう少し工夫できるかもしれません。
「キャリア・パスポート」を活用する絶好の機会です。
「キャリア・パスポート」にはこれまでの学年での自分自身の目標や、目標に向けて頑張ってきたことなどがたくさん詰まっています。これを見返すことで自分自身の成長を振り返り、頑張ってきたことや継続的に努力が必要なことを再確認するようにします。
自主学習に取り組む際の悩みの原因についても、子供たちの思いや考えを出し合います。話合いを通して、自主学習に主体的に取り組むことが将来の自分につながることを確認します。そして、これまでの自分の取組について「キャリア・パスポート」を活用して振り返りながら、「目指す自分」について考えていきます。
【見つける】
自主学習をよりよいものにするためにはどのような工夫が必要か話し合う。
「目指す自分」を再確認できたところで、それに向けての具体的な内容や方法について小グループで考えてから全体で共有していきます。このとき、事前アンケートでの自由記述や事前に集めておいた自主学習ノートの写真などを紹介すると参考にして話し合えます。例えば方法に関しては、事前アンケートを活用し、「自分の興味があることや将来の夢に関係することを調べてまとめる」や「取り組む時間を決めてメリハリをつける」など、何のために、どのように学習に取り組むのかを具体的に考えやすくなります。
【ICT端末の活用例】
子供たちの意見を一覧表示できるツールを使うことで、友達の考えをヒントにしながら、より自分の考えを広めたり深めたりすることができます。また、より多くの子供たちの考えや解決方法を紹介することができます。【見つける】で多くの解決方法を取り上げることにより、【決める】で自分に合った自主学習の計画づくりが一層進むことが考えられます。
自主学習をみなさんが自分に合ったものにするために、これからどのような工夫が必要かを考えてみましょう。グループで話し合ったことを発表してください。
私のグループでは毎日時間を決めて自主学習をしたらいいという考えが出ていました。僕は読書が好きだから、自分なりの読書時間と目標の冊数を決めて頑張ろうかな、と思いました。
今までは毎日漢字の書き取りをしていました。ただノートに何ページ書く、ではなくて、漢字の成り立ち調べとか、漢字を使った文章作りなど、工夫したいと思います。
自分の得意なことをさらに伸ばすこともいいですね。頑張れそうな目標を決めて少しずつ伸ばしていく方法もあります。また、学習を振り返って自分で点検することもとてもよい工夫です。
私は将来プログラマーになりたいと思っているので、算数の計算だけでなくICT端末でプログラミングに挑戦しようと思います。
なぜ学習するのかは人それぞれで考えが異なりますが、将来の夢がある人はそれに向けた自主学習を工夫することも大切ですね。
【決める】
これからの自主学習の内容や方法について意思決定する。
次のような「学習カード」を使って、「目指す自分」になるために、これからの学び方について意思決定します。「いつ」「学習内容」「どんな工夫をするのか」など自主学習の具体的な実践目標を記入して、これからの自分に合った学び方を決めて実践への意欲をもつことができるようにします。実現可能な計画を立てるために、友達とも交流しながら意思決定するとよいでしょう。
では、これからの自主学習でどのような自分に合った工夫をしますか。決めたことを発表してみましょう。
私は苦手な算数の学習を克服できるようになりたいです。そのためにまず、算数の何が苦手なのかを見つけて、そこを繰り返して学習して得意になりたいです。
僕は、習った漢字をまずしっかり読めるようにするために、これまでは漢字ドリルをやっていたけれど、これからはニュースを見たり、本や新聞を読んだりして分からない漢字があったら、辞書でしっかり調べようと思います。
私は英語に興味があって将来は通訳になりたいと思っています。だから英会話の学習を続けて、外国の人に出会ったら自分から話しかけたいです。
それは具体的な目標で素晴らしいですね。では、これまでやってきた学習に工夫をしようと考えている人はいますか。
僕はこれまでは自主学習ノートを1日に1ページやっていたけれど、これからは毎週目標を決めて計画を立てて、振り返りながらやっていくことにします。
なるほど、目標を決めてより計画的に取り組むのはとてもよいですね。「目指す自分」に近付くために。みなさんがそれぞれで具体的に決めたことを振り返りながら、自分に合った自主学習に取り組んでいきましょう。
7 事後の指導
本時で意思決定した自主学習の計画をもとに家庭で実践します。一定の実践期間が終わった段階で、「学習カード」の振り返りを記入し、帰りの会や子供同士で感想を交流するのもよいでしょう。また、「計画した内容は自分には難しかった」「うまく取り組めなかった」といった課題があった場合はその改善点を考え、自分にできそうな計画に修正するように助言しましょう。
子供が自主学習ノートを提出した際には、教師からコメントを書き加えたり、全体で参考にしたい学習内容などのノートをスキャンし、ICT端末で共有したりしながら子供たちの実践意欲が継続できるようにすることも考えられます(ただし、そうした際には一部の子供だけがいつも紹介されることのないように、十分留意します)。
自主学習は、目標を立てて、計画的・継続的に取り組むことで成果につながるものです。そのため、本実践が終わったあとも、子供自身で計画づくりをできるように、時々声をかけて頑張っていることを認めたり、行き詰っている場合は改善するように助言したりするとよいでしょう。
また、家庭との連携を図ることが学習効果を高めることに大きくかかわります。学級だよりや学年だよりなどで取組について知らせたり、保護者から実践後にコメントをもらったりすることで、家庭との連携を図り、実践の継続と家庭での実践意欲の向上につなげていきます。
取組の結果を評価するのではなく、目標の実現に向けた活動の過程や努力を見取り、「以前の自分よりよくなっている」「自分なりに頑張った」と子供が感じられるように肯定的に捉えて子供に返していくという視点が重要になります。これらの頑張りを「キャリア・パスポート」としてポートフォリオしていき、5年生の終わりや卒業前に振り返ることで、次の学年や中学生に向けた学び方を考え、自身の成長を感じたり、新たな意欲につなげたりすることができるでしょう。
構成/浅原孝子 イラスト/高橋正輝
監修
安部 恭子
前文部科学省視学官 帝京大学教育学部教授
埼玉県さいたま市の小学校に勤務後、さいたま市教育委員会、さいたま市立小学校教頭勤務を経て、2015年より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官、2022年より文部科学省初等中等教育局視学官を務める。
特別活動の魅力をすべての教師に伝える本!
楽しい学校をつくるには、具体的にどのようにすればよいか。コロナ禍の新しい学校生活様式を踏まえた小学校での特別活動の基本がよく分かります。特別活動を愛する3人による、子供たちとの学校生活を充実させるための「本質」が語られています。
著/安部恭子 著/平野 修 著/清水弘美
ISBN9784098402106