小1図画工作科 滑らせる動きから感じて表す「すいすい びゅんびゅん」
今回のテーマは「工作」です。低学年の子供は体全体で材料と関わり、発想や構想を展開させていきます。今回は、教室の高いところから斜めに張った紐に紙コップや空き箱などをぶら下げ、滑らせて遊ぶものをつくる活動を紹介します。
執筆/北海道教育大学附属札幌小学校・三浦真奈美
監修/文部科学省教科調査官・小林恭代
北海道教育大学教授・花輪大輔
目次
本題材について
低学年の子供は手だけでなく体全体で材料と関わり、自分の感覚や行為を通して形や色に気付き、自分のイメージをもちながら、発想や構想を次々と展開させていきます。工作に表す題材においても、まずは手や体全体で存分に仕組みや動く面白さを味わい、そこから表したいことを見付け、表し、もう一度動かしては「もっとこうしたい」と、さらに表すような繰り返しの過程で、子供は発想や構想をしたり、技能を働かせたりするなどして資質・能力を発揮しています。
ここでは、教室の高いところから斜めに張った紐にクリップを使って紙コップや空き箱などをぶら下げ、滑らせて遊ぶものをつくる工作に表す題材を紹介します。実践では、子供が「すいすい」「びゅんびゅん」「ゆらゆら」「速い」「気持ちいい」などの感覚を存分に働かせられるように、滑らせて遊ぶための環境や時間を十分に保障しました。そうすることで、子供が動く面白さから広がる想像の世界に浸るなどして、対象と一体となりながらつくりだす喜びを味わうことができると考えたからです。作品を完成させるだけではなく、自分や友達のつくったものが「すいすい びゅんびゅん」と滑っている様子を楽しく味わったという経験が、その形や色とともに子供の心に残るよう意図した題材です。
題材の目標
滑らせて遊ぶものをつくるときの感覚や行為を通して感じたことから表したいことを見付け、紙コップやはさみ、のり、ペンなどに十分に慣れ、手や体全体の感覚などを働かせ、表し方を工夫して表すとともに、作品の造形的な面白さや楽しさ、表したいこと、表し方などについて感じ取ったり考えたりし、進んで工作に表したり鑑賞したりする活動に取り組む。
題材の評価規準
●知識・技能
知 身近な材料を使って滑らせて遊ぶものをつくるときの感覚や行為を通して、いろいろな形や色などに気付いている。
技 紙コップやはさみ、のり、ペンなどに十分に慣れるとともに、手や体全体の感覚などを働かせ、表したいことを基に表し方を工夫して表している。
●思考・判断・表現
発 いろいろな形や色などを基に、自分のイメージをもち、滑らせたいもの・材料を滑らせて感じたことや想像したことから、表したいことを見付け、好きな形や色を選んだり、いろいろな形や色を考えたりしながら、どのように表すかについて考えている。
鑑 いろいろな形や色などを基に、自分のイメージをもち、滑らせて遊びながら、自分たちの作品などの造形的な面白さや楽しさ、表したいこと、表し方などについて、感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を広げている。
●主体的に学習に取り組む態度
主 つくりだす喜びを味わい、楽しく滑らせて遊ぶものをつくる学習活動に取り組もうとしている。
材料や用具
《子供》はさみ、クレヨン、カラーペン、水のり、セロハンテープ など
《教師》画用紙、紙コップ、紙皿、空き箱、凧糸または紐、クリップ など
題材の指導計画
指導のポイント
低学年の授業では、友達同士のトラブルや危険な動きへの対応をすることに教師の手が取られてしまう場面も少なくありません。スタート位置や順番を守るなどの行動が自然と促される環境かどうかを吟味することで、安全性の面だけではなく、子供が表現する時間を確保するという面においても「教師の目が行き届く」授業にしたいものです。オープンスペースの学校であれば、ワークスペースと教室の両方を広く使った環境構成も考えられるでしょう。
・子供が手を上に上げたくらいの高さの場所を滑らせるときのスタートと考えて凧糸を張ります。安定性があり安全な高さの椅子などを踏み台として置いておくとスタート位置の目安にもなります(写真1)。今回は、余った机を椅子の後ろに配置し、次に滑らせる子供が待つ場所としました。
・滑り終わりとなるゴール部分は、製作用の机の脚にしっかりと結びました。つくる場所から真っ直ぐにスタート位置へ向かう子供の動線を想定しながら紐と紐の隔を十分に取り、子供が紐につまずかないようにしました(写真2)。
活動の流れと指導上の留意点
図画工作の多くの題材は、描いたりつくったりする活動そのものが子供にとって魅力的に映ります。今回も、滑らせて遊ぶものをつくるということへの期待をもち、どの子供も題材の導入からどんどん表し始める様子が見られました。しかし、このようにおのずと表し続ける子供に対して、最後まで見守るだけの教師の関わりでは子供の表現の深まりを促すことはできません。そこで、実践では第1時と第3時に学級全体での話合い場面を設け、板書に子供の考えを整理しました。
①動きから表したいことを見付ける(20分)
・なにも装飾のない状態で紙コップ、紙皿、空き箱、芯材などを滑らせ、いろいろな材料の動きを楽しみます。
・一度着席して、これから表したいことを言語化したり板書に残したりします。こうすることで、表したいことが見付かっていない子供も、友達の考えを参考にすることができます。
すいすい びゅんびゅんの動きでどんなことをしたくなったかな?
かっこよくしたい。
かっこいいのはたとえばどんなもの?
飛行機! 車!
かっこいい感じの他にはどんな感じにしてみたいかな?
かわいい感じ。うさぎとか。
様々なアイデアを交流した後、教師が「ただ滑らせるだけではなくて自分の思う『いい感じ』にしたいって考えているんだね」と言いながら板書しました。動きから思い付いたことを基にして紙コップなどに材料を付けながら、表したいことを表すという題材の目的を全員で共有するためです(写真3)。
②表したり滑らせたりしながら表し方を工夫して表す(70分)。
・白い毛糸を長い髪の毛のように付けています(写真4)。画用紙の他にも毛糸などいろいろな材料を選ぶことができるよう教師が準備しておくと、表現の幅が広がります。
・細長い箱を三角柱の形に変えたり、赤い翼を付けたりして飛行機らしくしました。「かっこいいかな」と、少しつくっては滑らせて、またつくって、と繰り返しながらこの形を思い付きました(写真5)。
③友達と表現を見合って楽しさや面白さを感じ、表現の工夫を考える(15分)。
・第3時の導入ではうさぎという同じものを表した3人にそれらを滑らせてもらい、学級の全員でその様子を見て話し合いました(写真6)。
3人ともうさぎをつくっていたのは同じだったね。でも、違うところもあったかな?
あった。顔の向きが違う。
飾りも違う。
では、違うところに注目してもう1回滑らせてもらおうか。
もう1回滑らせると……。
〇〇さんのは、こっちを向いて降りきていてかわいい。
△△さんのは、リボンがひらひら揺れてきれい。
自分の工夫があるともっとかわいくなったりきれいになったりするんだね。
そして、板書に「もっと(いいかんじ)にするには?」と書き足しました(写真7)。このように題材の中盤で友達と表現を見合う場面を設定すると、自分の工夫をもっと加速させたり、視点を広げて新しい工夫をしたりする子供の姿を引き出すことができます。
④もっとよく表したいことに近付くように工夫して表す(55分)。
・最初は天井を向いていた流れ星を横向きに変えて、滑っているときに友達からよく見えるようにしました(写真8)。
・「テープをつけたら速く動いているみたいに見えるね」などの会話が弾んだのは、「すいすい びゅんびゅんをもっといい感じにするには?」という共通の目的をもっているからでしょう(写真9)。
⑤今日の作品に名前を付けて学習を振り返り、片付けをする(20分)。
・作品カードに名前を書いて展示しながら友達と「なんて名前なの?」「面白いね」と自然と表現の交流が始まります。全員の展示が済んだら、席に着いて学習を振り返りました。
どうやってもっといい感じにしたの?
箱を細くしてもっと速く見えるようにしたよ。
魚の口を大きく開けて面白くしたよ。
いろんな色のひらひらを付けてもっとかっこよく滑るようにしたよ。
全員の工夫を聞き取ることはできませんでしたが、子供たちがそれぞれに自分なりのいい感じを深める工夫をしていたことは活動の様子から捉えることができました。本題材は、表したものを教室の高いところから滑らせるというダイナミックで子供の胸が高鳴るような魅力があります。その魅力は、ただ楽しいということだけではなく、空を駆ける流れ星や、颯爽(さっそう)と海を泳ぐ魚などの自分のイメージを自分の手で目の前に表す喜びによるものでもあります。そして、その表現の喜びを引き出すのは教師の関わりや題材構成、環境の工夫なのです。
構成/浅原孝子