小5理科「物のとけ方」指導アイデア
執筆/福岡県那珂川市立片縄小学校教諭・長田彩峰
監修/文部科学省教科調査官・有本淳
福岡県那珂川市立安徳北小学校校長・白水隆暢
福岡県那珂川市立南畑小学校教頭・大園亨
目次
単元目標
物が水に溶ける量や様子に着目して、水の温度や量などの条件を制御しながら、物の溶け方の規則性を調べる活動を通して、それらについての理解を図り、観察、実験などに関する技能を身に付けるとともに、主に予想や仮説を基に、解決の方法を発想する力や主体的に問題解決しようとする態度を育成することがねらいである。
「物質・エネルギー」を柱とする本単元は、自然事象を主として「質的・実体的」な視点でとらえていく点が特徴です。食塩などの物が水に溶けていくと、目に見えない小さな粒子となり、広がっていきます。しかし、なかには「目に見えなくなったから、存在自体がなくなったのではないだろうか」と疑問をもつ子どもも出てくるはずです。そこで、3年生「ものと重さ」で学習した内容(物は形が変わっても重さは変わらないこと)を振り返り、溶かす前後の様子を比べることで、「目に見えないけど、この中に存在するのではないか」と考えることができるように指導しましょう。溶けた食塩を絵で表すことも考えられます。また、条件制御の考え方が5年生では重要となります。実験方法(ものが溶ける量を調べる)を考える際には、変える条件(溶かす物の量)と変えない条件(水や、一度に溶かす物の量など)を明確にして実験することができるように指導しましょう。
評価規準
知識・技能
①物が溶けても、水と物を合わせた重さは変わらないことを理解している。
②物が水に溶ける量は、水の温度や量、溶ける物によって違うこと。また、この性質を利用して、溶けている物を取り出すことができることを理解している。
③物の溶け方の規則性について、観察、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択して正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。
思考・判断・表現
①物の溶け方の規則性について、問題を見いだし、主に予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。
②物の溶け方の規則性について、観察、実験などから得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。
主体的に学習に取り組む態度
①物の溶け方の規則性についての事物・現象に進んで関わり、粘り強く、他者と関わりながら問題解決しようとしている。
②物の溶け方の規則性について、学んだことを学習や生活に生かそうとしている。
評価計画
総時数 12時間
第1次 物を水に溶かしたときの重さについて調べる。
1 食塩や砂糖が水に溶ける様子を観察し、問題を見いだす。
思考・判断・表現①
物の溶け方の規則性について、問題を見いだし、主に予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
2~3 食塩などを水に溶かしたときの重さを調べる。
知識・技能①
物が溶けても、水と物を合わせた重さは変わらないことを理解している。〈発言分析・記録分析〉
主体的に学習に取り組む態度①
物の溶け方の規則性についての事物・現象に進んで関わり、粘り強く、他者と関わりながら問題解決しようとしている。〈行動観察・発言分析・記述分析〉
第2次 物が水に溶ける量には限りがあるか調べる。
5~6 決まった量の水にとける食塩やミョウバンの量を調べる。
知識・技能②
物が水に溶ける量は、水の温度や量、溶ける物によって違うこと。また、この性質を利用して、溶けている物を取り出すことができることを理解している。〈記述分析〉
知識・技能③
物の溶け方の規則性について、観察、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択して正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。〈行動観察・記録分析〉
7~8 溶け残った食塩やミョウバンをさらに溶かす方法を考え、水を加えたり、容器を温めたりして、溶ける様子を調べる。
知識・技能②
物が水に溶ける量は、水の温度や量、溶ける物によって違うこと。また、この性質を利用して、溶けている物を取り出すことができることを理解している。〈記述分析〉
思考・判断・表現②
物の溶け方の規則性について、観察、実験などから得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
第3次 食塩やミョウバンの水溶液から溶けている物を取り出す。
9 水溶液の温度が下がったときに、とけていたミョウバンが出てきた現象を基に、ろ液から溶けた物を取り出す方法について考える。(授業の詳細①)
思考・判断・表現①
物の溶け方の規則性について、問題を見いだし、主に予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。〈記述分析〉
10~11 ろ液の中に溶けている食塩やミョウバンを取り出す。(授業の詳細②)
知識・技能②
物が水に溶ける量は、水の温度や量、溶ける物によって違うこと。また、この性質を利用して、溶けている物を取り出すことができることを理解している。〈記述分析〉
思考・判断・表現②
物の溶け方の規則性について、観察、実験などから得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
12 ろ液のミョウバンの結晶作りやまとめをする。
主体的に学習に取り組む態度②
物の溶け方の規則性について、学んだことを学習や生活に生かそうとしている。〈行動観察・発言分析〉
授業の詳細①
第3次 食塩やミョウバンの水溶液から溶けている物を取り出す。
9 水溶液の温度が下がったときにとけていたミョウバンが出てきた現象を基に、ろ液から溶けた物を取り出す方法について考える。
物の溶け方の規則性について、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現することができる。
①問題を見いだす【自然事象との出合い】
水の量は減っていないのに、とけていたはずのミョウバンが出てきているよ。
ミョウバンは見えるようになっているけど、食塩は出てきていないね。食塩はどうしたら出てくるのかな。
では、水よう液から食塩やミョウバンを取り出す方法を考えて、実験していきましょう。
前時で行った水よう液をそのまま残しておく(必ずラップなどをし、蒸発を防ぐ)ことで、水の温度が下がり、とけたミョウバンが出てきます。ビーカーに油性マジックで印を付けておくと、水の量が減っていないことに気付くきっかけになります。ビニルテープで印を付けると加熱したときに溶けてしまうので、使わないようにしましょう。
前時の水溶液の状態をICT端末で撮影しておき、比較できるようにしましょう。
水よう液に溶けている物を取り出すには、どうすればよいのだろうか。
②予想する
ミョウバンは、加熱したらたくさんとけたよ。(前時の実験を踏まえて)水よう液が冷えてミョウバンが出てきたなら、もっと冷やせばさらに出てくると思う。
前回の実験結果から予想をすることで、仮説を立てることができます。前回の実験結果を振り返ってから、予想に入るとよいでしょう。
食塩は水の量を増やせばたくさんとけたよ。だから、反対に水の量を減らせば、とけたものが出てくると思う。
解決の方法として、「そのまま置いておけば水だけが蒸発するのでは」という子どもの意見も想定されます。自然蒸発の実験は時間がかかることを子どもたちと確認し、教師実験として行うようにするとよいでしょう。実験時間が限られていますが、教師実験として行うことによって、子どもたちの意見を大切にしていることにつながります。
③解決方法を考える
前時の実験では、お湯を使って温めたから、氷を使って冷やしてみるのはどうかな。
水の量を減らすには、どうしたらいいのかな。
4年生の時の実験で、水を沸騰させたら水の量が減ったよ。同じように加熱したら、水だけが蒸発して水の量が減るんじゃないかな。
前回の水よう液は粒が出てきているので、そのままでは使えませんね。ろ過をして取り出したものを分けましょう。
④観察・実験をする
1.水溶液をろ過する。
〈ろ過の手順〉
前時で使用した水溶液は、食塩やミョウバンの粒が見えています。本実験では、溶けている物を取り出す実験であるため、ろ過をし、残った物と水溶液とに分けましょう。
2.温度を下げる
以下の2つの方法で実験をしましょう。
A 氷水をいれた容器の中に、ろ液(ろ過した水よう液)が入ったビーカーを入れ、冷やす。
氷水を作るときには、大きめの発泡ポリスチレンの入れ物(例:カップ麺の容器など)にしましょう。温度が下がらない場合は、食塩を混ぜてもよいですが、過冷却によってビーカーが割れないように注意しましょう。
温度計を水溶液の中に入れておき、温度ごとの水溶液の変化を写真で記録しましょう。
B ろ液を蒸発皿に少量(約1ml程度)取り、実験用ガスコンロで熱して水の量を減らす。
教科書によっては、ビーカーのまま加熱していることがあります。加熱しすぎるとビーカーが割れたり、沸騰した水溶液が体にかかったりと危険があることをしっかり確認したうえで行いましょう。
3.ミョウバンも同じように調べる。(安全指導)
授業の詳細②
10~11 ろ液の中に溶けている食塩やミョウバンを取り出す。
物の溶け方の規則性を利用して、溶けている物を取り出すことができることを理解できるようにする。
⑤結果の処理
●温度を下げた結果
●水の量を減らした結果
食塩やミョウバンの析出は、複数の実験となるため、子どもの実態によっては順序立てて行った方がよい場合があります。順序立てて行う場合は、「水の量を減らす→温度を下げる」の順で行うとよいでしょう。「どちらの実験でも溶けている物が析出する」と予想している子どもが多い場合、水の量を減らす実験の方が食塩もミョウバンもはっきりと析出するため、納得した結果が得られます。しかし温度を下げる実験では食塩が析出しにくいため、先に水の量を減らす実験を行い、溶けている物が析出することをおさえる方が子どもが混乱しにくいです。
食塩とミョウバンの実験を同時に行ってもよいでしょう。その場合は、
A 温度を下げる方法 ミョウバングループ 食塩グループ
B 水の量を減らす方法 ミョウバングループ 食塩グループ になります。
結果の処理では、他の班の結果を見やすいようにICT端末を活用してまとめることをおすすめします。複数の実験結果を分析する力が必要になりますので、子どもの実態に応じて結果シートを作成しましょう。
〈結果のまとめ方の例〉
〈各班を共有するときの例〉
⑥結果を基に考察する
食塩もミョウバンも温度を下げたり水の量を減らすことで取り出すことができたよ。
食塩とミョウバンでは、とけ方と同じように、取り出し方にも違いがあったよ。
⑦結論を出す
水よう液にとけているものを取り出すには、水の量を減らしたり、温度を下げたりするとよい。
⑧振り返る
自然蒸発させた結果はどうなるかな。
安全指導
実験にあたっては、次のことを確実に指導するようにしましょう。
【水の量を減らす方法】
●水を蒸発させるとき、粒が飛び散ることがあるので、安全めがねをかける。
●実験用コンロと蒸発皿の間に加熱用の金あみを敷く。
●実験用コンロは必ず弱火にする。
●液体が残っているうちは、熱しない。
●蒸発皿などは熱くなるので、冷めるまで触らない。また、熱いままの蒸発皿を濡れぞうきんの上に置くと温度差で蒸発皿が割れるので注意する。
【温度を下げる方法】
●液が顔にかかるおそれがあるので、ビーカーを真下からのぞきこまない。
【実験用コンロの使い方】
●換気を必ず行う。
●ガスボンベが正しく取り付けられているか確認する。少しでもガスのにおいが発生した場合は、全班の火を止め、換気を行う。
●ガスボンベを外してからもう一度火をつけることで、実験用ガスコンロの中に残っているガスを使い切るようにする。
【ピペットの使い方】
●ゴム球だけをつまんで持たない。
●ゴム球まで液体を入れない。
●ゴム球が痛む原因にもなるため、液体が入ったままピペットの先を上に向けない。
イラスト/難波孝