「防災教育」とは?【知っておきたい教育用語】
2024年1月1日に能登半島地震が起き、8月8日は南海トラフ地震臨時情報が出されました。日本列島では、東日本大震災(2011年)以降も御嶽山火山噴火、熊本地震、豪雨、台風などの被害が続いています。子どもの生命を守る、防災を含む安全に関する教育の必要性がより高まっています。
執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明
目次
「防災教育」とは、生きる力を育てる教育
【防災教育】
防災教育は、さまざまな危険から子どもの安全を確保するために行われる安全教育の一部をなすものです。被災時の備えとして防災の知識を身につけるほか、自発的、能動的に考え、行動する力を養うことにもつながります。
防災教育のねらいは、文部科学省の「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」によれば、安全教育の目標に準じて3つにまとめられています。
①自然災害等の現状、原因および減災などについて理解を深め、現在および将来に直面する災害に対して、的確な思考・判断に基づく適切な意志決定や行動選択ができるようにする。(知識、思考、判断)
②地震、台風の発生などに伴う危険を理解・予測し、自らの安全を確保するための行動ができるようにするとともに、日常的な備えができるようにする。(危険予測、主体的な行動)
③自他の生命を尊重し、安全で安心な社会づくりの重要性を認識して、学校、家庭および地域社会の安全活動に進んで参加・協力し、貢献できるようにする。(社会貢献、支援者の基盤)
次に、文部科学省「『生きる力』を育む防災教育の展開」では、防災教育には主に2つの側面があるとされています。一つは、「防災に関する基礎的・基本的事項を系統的に理解し、思考力、判断力を高め、働かせることによって防災について適切な意志決定ができるようにする側面」。もう一つは、「当面している、あるいは近い将来予測される防災に関する問題を中心に取り上げ、安全の保持推進に関する実践的な能力や態度、さらに望ましい習慣の形成を目指して行う側面」です。防災教育は、「児童生徒等の発達の段階に応じ、この2つの側面の相互の関連を図りながら、計画的、継続的に行われるもの」なのです。
教育課程で考えると、主として前者は体育科・保健体育科をはじめ、社会科(地歴・公民)・理科・生活科などの関連した内容のある教科や総合的な学習の時間などで取り扱い、後者は、特別活動の学級(ホームルーム)活動や学校行事などで取り上げられます。
なお、道徳教育は「生命の尊重をはじめ、きまりの遵守、公徳心、公共心など、安全な生活を営むために必要な基本的な内容の指導を行うこととされており、安全にとって望ましい道徳的態度の形成という観点から、防災を含む安全教育の基盤としての意義」をもちます。
また、学習指導要領には、その総則において、安全に関する指導について規定しています。学校においては、子どもの発達の段階を考慮して、学校の教育活動全体を通じて適切に行われるよう、関連する教科、道徳、総合的な学習の時間、特別活動などにおける教育内容の有機的な関連を図りながら行う必要があります。
そして、家庭や地域社会との連携を図りながら、日常生活において安全に関する活動の実践を促し、生涯を通じて健康・安全で活力ある生活を送るための基礎が培われるよう、開かれた学校づくりおよび家庭や地域社会と連携した防災活動の展開に努め、地域ぐるみで防災教育を推進することも重要です。
防災管理と組織活動
学校において防災教育を効果的に推進することだけではなく、防災管理の徹底を図ることも重要です。「『生きる力』を育む防災教育の展開」によれば、次のようにあります。
学校における防災管理は、学校長のリーダーシップの下、自然災害の発生を想定し、事故の原因となる学校環境の危険を速やかに除去したり、災害発生時や事後に適切な応急手当や安全措置がとれる体制を確立したりするなど、児童生徒等の安全を確保することを目指して行われるものである。
文部科学省(PDF)「学校防災のための参考資料『生きる力』を育む防災教育の展開」平成25年
普段から、子ども一人一人の心身の状態を把握することはもちろん、個人に応じた安全指導や、想定される被害などを踏まえた避難経路の確保が大切です。また、施設・設備などの安全点検および改善措置を行うと同時に、危険が予想される場合には教職員がとるべき措置の具体的な内容や、手順を定めた対処要領を作成し、災害発生時や事後の体制整備などについて、研修により教職員の共通理解の徹底を図ります。
次に、防災教育と防災管理を円滑に行い、その充実を図るためには、災害安全に関する組織活動にも重きを置く必要があります。校内の教職員の防災教育や防災管理における役割を明らかにするとともに、平常時および災害発生時の防災体制の確立を図ることが大切です。
大きな災害後には、専門家と連動した心のケアに配慮することも求められます。また、すべての教職員の安全に関する意識や知識・技能を向上させるため、学校安全計画に校内研修などを設け、事前、発生時、事後の三段階の危機管理に対応した研修も実施しましょう。
さらに、地域への学校の教育活動の理解や地域との情報交換など、日ごろから開かれた学校づくりを意識することで、保護者や地域住民、教育委員会や防災担当部局、消防署や自主防災組織などの地域の関係機関・団体との密接な連携を図り、計画的な防災教育や防災管理の充実に努めることが重要です。
防災教育新時代の実現のための提言
内閣府(防災担当)の「防災教育新時代の実現のための提言について」によれば、「防災・減災、国土強靭化新時代」の中で、「防災教育を第3次学校安全の推進に関する計画」の柱に位置付け、全ての子どもが災害から生命を守る能力を身につけられる防災教育の全国展開を目指し、次のような「政策の方向性」を提言しています(一部抜粋して紹介します)。
●全ての小・中学校で、地域の災害リスクや正常性バイアス(※)等の必要な知識を教える実践的な防災教育や避難訓練を実施(※正常性バイアス…リスクや危険を過小評価し、楽観的な見方を維持する思考傾向のこと)
●全国の小・中学校における定期的な防災教育の実施内容を調査、公表
●現行教員に加え教職課程の学生にも防災教育の指導法を教授
●地域と学校が連携した防災教育を支援する防災教育コーディネーター(仮称)を育成
●幼保の段階から、小、中、高とシームレスな防災教育を実施
そして、「防災教育の幅広い効果」も提言しています。
〇全ての子どもたちが災害時に自らの生命を守ることができる
●主体的・内発的に避難する態度、他人を思いやる態度を育てる
⇒非認知能力、生きる力を育成
●地域住民の防災活動、地域の自然の恵み、災いを教える
⇒郷土愛、地域を担う意識を育成
●子どもと共に地域の大人が防災を学ぶ
⇒大人が心を動かされ、主体的に生命を守る防災意識を涵養
物理学者で随筆家の寺田寅彦は、「天災は忘れた頃にやってくる」という名言を残しました。内閣府(防災担当)の提言には、自分が主人公の発災シナリオを作成し、災害を自分ごと化する取組を挙げています。子どもたちが災害時に自らの生命を守ることができるよう、教職員も自分ごととして考え、支援していくことが大切です。
▼参考資料
文部科学省(PDF)「『生きる力』をはぐくむ学校での安全教育」平成22年
文部科学省(PDF)「学校防災のための参考資料『生きる力』を育む防災教育の展開」平成25年
文部科学省(PDF)「文部科学省における防災教育の現況について」令和3年6月23日
内閣府(防災担当)(PDF)「防災教育新時代の実現のための提言について」令和3年6月23日