ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #32 「Goal 16 平和と公正をすべての人に」の授業|丸山雄志 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~
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北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #32
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全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回からは「平和と公正をすべての人に」について学ぶ授業実践提案です。ご執筆は、神奈川県の丸山雄志先生。小学6年生、道徳科での実践例です。

執筆/神奈川県公立小学校教諭・丸山雄志
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

神奈川で公立小学校教諭をしております。丸山雄志と申します。昨年度は6年生を担任していました。
私の勤務校は駅に近く、SDGsトレインが走っているのが校舎からも見えます。自主学習でSDGsについて調べる子もいて、子どもたちのSDGsに対しての関心も高いです。

2 Goal 16「平和と公正をすべての人に」について

SDGs Goal 16 ロゴ

SDGs、Goal 16は、「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルに置いて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」をテーマとして「平和と公正をすべての人に」が掲げられています。
みんなが安心して参加できる平和な社会をつくる、公正な法律に基づいた暮らしをみんなができる、地域・国・世界といったあらゆるレベルで公正な司法制度を利用できることを目指しています。
授業に落とし込む上で、平和や公正といった大きなテーマを子どもたちにどう身近に感じられるようにするか、平和と公正をどのようにして一緒に扱うかに注力しました。
Goal 16について自主学習で調べてきた子がいるので聞いてみると「人を差別しないということが平和に繋がるんじゃないかな」と答えてくれ、そこから着想を得て授業を構想していきました。

3 SDGsのGoal 16を扱った授業の実際

⑴ 対象学年:第6学年

教科及び領域 特別の教科 道徳

ねらい B(11)相互理解、寛容
自分と異なる意見や立場を尊重する態度を大切にし、他者とよりよく関わろうとする心情を育てる。

教材 「平和のためにできることってなんだろう」(オリジナル)

<資料>
①「長篠合戦図屏風」
②YouTube動画 ロシア軍死傷者数31万5000人に 87%の兵力が失われた計算(2023年12月13日)テレ東BIZ
③YouTube動画 イスラエル ハマス戦闘員ら500人拘束「戦意失っている」レバノン攻撃の際に米国提供の白リン弾使用と米紙(2023年12月12日)
④神戸新聞(2022年2月25日朝刊 P.3)
⑤神戸新聞(2023年10月9日朝刊 P.1)
⑥YouTube動画 プーチン大統領に聞いて欲しいウクライナ国民の悲痛な叫び(TV TOKYO international 2022年3月11日)テレ東BIZ
⑦YouTube動画 黒人少女だけメダルをかけず “人種差別” と批判相次ぐ アイルランド体操協会が謝罪(2023年9月27日)ANNnewsCH
⑧YouTube動画 女性から男性に…「幅広い理解を」LGBT当事者たちの苦しみ RSKイブニングニュース
SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」とは?事例解説付き!
⑩絵本『Red あかくてあおいクレヨンのはなし』マイケル・ホール作、上田勢子訳、子どもの未来社

授業展開
①戦争から平和について考える
まずは、戦争、争いから平和について考えていきます。
はじめに社会科で学習した戦国時代を取り上げました。
資料①「長篠合戦図屏風」をTVに映し出しながら

資料1 長篠合戦図屏風

社会では戦国時代を学習してきましたね。戦乱の世の中を織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と繋いで、争いのない江戸時代へとなりました。

資料2 白地に黒い文字で「今、平和ですか」と大きく書かれたパワーポイント画像

では、今は平和ですか?

平和。国によっては平和。

次に、ニュース動画から、世界では今もなお戦争が起きていることを想起するようにしていきます。
資料②(ロシアのウクライナ侵攻関連の動画)、資料③(イスラエルとハマス紛争に関する動画)を視聴する。

もう一度聞きます。平和ですか? 平和ではありませんか?

平和じゃない。争いがあるから。

資料④、資料⑤見る。
資料⑥(「ウクライナ国民の悲痛な叫び」の動画)を視聴する。

平和ってなんだろう。

こう問いかけた後、自分の考えをjamboardで共有し、発表していきました。

白地に黒い文字で「平和ってなんだろう?」と大きく書かれたパワーポイント画像

戦争が起きない公正で公平な世の中。

争いがない安全な社会。

差別がない社会。

その他にも、jamboard上には、

安心して生活できる
穏やか
戦争で問題を解決しないで、話合いで解決し、みんなが平等に暮らせる

などと意見を書いていました。

②目に見える違いによる差別から平和について考える
次に人種差別から平和について考えていきました。子どもたちは道徳の学習で黒人差別には触れていて、既にある程度知識があります。
資料⑦の動画を視聴する
体操の大会で、黒人の少女だけ、表彰式でメダルがかけられず、人種差別として問題になったという動画の内容を確認後、問いかけました。

平和ですか、平和ではありませんか。

すると、子どもたちは全員平和ではないと答えました。

どうして?

平和はみんなが楽しいと思える世の中だと思うので、その人だけ差別されるというのはその人は楽しいとは思えないから。

平和ってなんだろう?

再度そう問いかけた後、子どもたちは自分の考えをjamboardで共有していきました。

その後、

誰もが幸せに暮らせる、協力できる。
人種差別や他の差別がない。
偏見で差別されることがない。
認め合える。

と意見を取り上げ共有しました。

③目に見えない差別から平和について考える
資料⑧の動画(LGBTQ当事者達の苦しみに関する動画)を視聴する。
視聴後、LGBTQという、見た目の性と心の性が一致せず、そのために周りから非難されている人がいるという動画の内容を確認後、問いかけました。

平和ですか、平和ではありませんか。

すると、子どもたちは全員平和ではないと答えました。

(自分の考えを)言ったら自分の居場所がなくなってしまうから平和ではない。

認め合えていないから。

男の人が男の人が好きって言って、それで差別されたらそれも差別だと思う。それだったら差別されているから平和じゃない。

自分の好きを周りに伝えられないことの理由として考えられるのが、「周りに伝えたらいじめられる」ってことが平和じゃない。

自分のありのままでいいという生活を送れないから平和じゃない。

平和ってなんだろう。

そう問いかけた後、子どもたちは自分の考えをjamboardで共有し、発表しました。

自分は自分らしくいられる。少しは嫌なことも生きていたらあると思うけれど、その中でも、自分が自分らしくいられたら平和って言えると思う。

さっきの動画で出てきた人が、自分を押し殺してたって言っていた。それは自分のなりたい自分じゃない。だから、自分で自分を壊さなくていい、自分の考えを止めてまで人に合わせるんじゃなくて、自分の考えが他の人に認められるってこと。

「平和って何だろう」という問いに対する子どもたちの意見を整理した板書

④平和のためにどんなことができるかを考える

みんなは平和のためにどんなことができるかな

白地に黒い文字で「平和のためにどんなことができる?」と大きく書かれたパワーポイント画像

相手が言っていることを認める。

大きい規模のことはできないけれど、身近な差別や偏見から少なくしていきたい。

⑤絵本『Red あかくてあおいクレヨンのはなし』の読み聞かせを行い、さらに平和のために何ができるかを考える
「平和のために何ができるか」について一度考えたあと、他者とのよりよい関わり方について考えをさらに深められるように、絵本『Red あかくてあおいクレヨンのはなし』(マイケル・ホール著、子どもの未来社)の読み聞かせを行いました。
読み聞かせ後、さらに「平和のためにどんなことができるか」について考える時間を取り、発表しました。

(絵本に出ていた)パープルくんのようにあなたが輝けるところはここだよって伝えられるようになりたい。その人の個性を見つけて、その人が受け入れやすいように工夫して伝えたい。

⑥今までのクラスの歩みを動画で視聴し、SDGsのGoal 16の内容について知る
発表後、今までのクラスの写真などをまとめた動画を視聴し、資料⑨の資料からGoal 16について触れました。

Goal 16について解説したパワーポイントのスライド。戦争と平和についての各種統計が整理されている。

そして、今までの子どもたちの姿を振り返り、クラスでいろいろなトラブルも起きたけれど、そのたびにクラスで話し合い、みんなでいいクラスをつくりあげてきたこと、一人一人が確実に成長してきていることを、担任の実感として伝えました。
その後、授業の感想を書き、授業を終えました。

4 授業の成果と課題、他教科・領域とのつながり

今回の授業は社会科で学んだ江戸時代までの流れと関連させながら学習しました。また、道徳では黒人差別の学習を通じて、どのような社会が望ましいのかを考えていました。特に、平和は社会科から学ぶ歴史的な流れと、差別や偏見といった目に見える争いはないが、苦しんでいる人がいるという、今を多角的に見る視点が重要だと考えました。大きなテーマだからこそ、そういった様々な教科的視点から捉えていくことが大切だと今回改めて感じました。
児童の振り返りをいくつか紹介します。

平和というのは、お互いを認め合うだけじゃなくて、お互いの良さや個性をわかろうとする人がいたり、辛い時があってもおかしくないと言ってくれる人が周りにいて、みんなが楽しいと思えたり、安心できる事が平和なのかなと思いました。
また、先生が最後に見せてくれた動画を見たら、本当にいろんな人がいていろんな個性があるなと思いました。
私ははじめ、場所によって「平和」かどうかは変わるので世界の大半は平和なのではないのかなと思い、「世界は平和だ」という方に手を挙げました。
でも、スライドを見ていく中で、戦争のようにとても派手ではっきりと見ることができるものだけではなく、性の問題などで見えないところで苦しんでいる人たちもいるし、身の安全が確保されるだけが平和なのではないんだなと気付かされました。また、絵本を聞いて、その人にあった居場所を見つけてあげることは、その人にとってはそのことがきっかけで毎日が楽しくなるかもしれないのでとても大切なことなんだなと思いました。

その他の児童からは
「他の人のことを認める」「差別をしない」「その人が輝ける道に気付かせてあげたい」というような意見が多くあり、全体の92%の児童の記述にそういった内容の記載が見られました。
ねらいであった「自分と異なる意見や立場を尊重する態度を大切にし、他者とよりよく関わろうとする心情を育てる」はある程度達成できたかと思います。

課題は、平和と公正という大きなテーマから、クラスなど身近な出来事について考える記述がそこまで見られなかったことです。資料が多く、子どもの考える視点が多くなってしまいました。
また、jamboardやgoogleformなど、様々な媒体を使用したことで子どもの思考が途切れがちになってしまいました。
ねらいに合った内容や発問を精選し、より身近な場面まで考えられるゆとりをもたせた方が良かったと感じています。

【参考文献】
外務省 JAPAN SDGs Action Platform
公益財団法人日本ユニセフ協会「持続可能な世界への第一歩」『持続可能な世界への第一歩SDGs CLUB』

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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