ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #29 「Goal 14 海の豊かさを守ろう」の授業・その2|川本 敦 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #29
タイトル

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「海の豊かさを守ろう」について学ぶ授業実践提案の第2回です。ご執筆は、立命館小学校の川本 敦先生。4年生での、大規模なカリキュラム・マネジメントによる教科横断的な実践です。

執筆/立命館小学校教諭・川本 敦
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

はじめまして。立命館小学校の川本 敦と申します。今年度で教職20年目となります。今までに2つの公立小学校と4つの私立小学校に勤務した経験があります。そのうちの8年間は3校の国際バカロレアの初等教育プログラム(IB-PYP)候補校、認定校に勤務していました。
昨年度より、探究学習を軸とした新カリキュラムづくりの仕事をしています。

2 SDGsのGoal 14についての解説

Goal14「海の豊かさを守ろう
私たちの生活において、水は必要不可欠な存在です。水は私たちの生活と古くから密接につながり続けています。水は、地球上を循環しており、海も当然その一部です。
その海の豊かさが人間の生活の影響により、失われつつあります。
海の豊かさを守るためには、水が自然の恵みであること、私たちの生活を支え続ける資源であること、また水が循環していることを理解しなくてはなりません。そして、人間の生活と自然とのバランスがどのような状態であるかに着目して考え、行動につなげなければなりません。
本授業プランは、そのような単元設計にしました。

3 SDGsのGoal 14についての授業の実際

⑴学年:4年

⑵教科及び領域:社会

⑶単元名:「わたしたちと水

⑷ねらい
①「水は、自然の恵みであり、様々な人々の工夫と努力によって、私たちの生活を支える資源として活用され続けている」という探究学習の中心となる考えの理解を深める。
②「水」は、浄水場や水質保全センターなどで適切に処理・管理され、私たちのもとに届けられていることを理解する。
③  北垣国道や田辺朔郎などの先人の様々な苦心や努力により琵琶湖疏水が作られ、衰退した京都の街の再生・飛躍につながったことを理解する。
④  水の循環を理解し、自然の人工のバランスに着目し、「水」に対しての自分の考えを持ち、行動につなげたり、表現したりする。

教材:副読本「わたしたちの京都」
くらしと水(P9〜P16)
使った水のゆくえ(P26〜P31)
用水のけんせつ(P45〜P57)

評価
学習した内容を新聞にまとめることをパフォーマンス課題とした。ルーブリックは以下の通りである。

⑺授業展開:全30時間

①Tuning In (単元の興味づけ)

問い:「水って何だろう」

1時間目:プレアセスメントで子どもたちの水についての事前知識を測る。そして、今回の探究学習の中心の考えである「水は、自然の恵みであり、様々な人々の工夫と努力によって、私たちの生活を支える資源として活用され続けている」を児童が共有する。
2時間目:絵本「水とはなんじゃ/かこさとし」の読み聞かせを行い、感想を共有する。

②Finding Out(情報収集)

問い:「水って何だろう」

3〜5時間目::水についての問いを立て、本やインターネットを用いて調べる。

問い:「わたしたちが使っている水は、どこからどのようにしてくるの?」

問い:「わたしたちが使っている水は、どこにいってどうなるの?」

子どもたちによる調べ学習のレポート
子どもたちによる調べ学習のレポート

6時間目:学校の水に関する設備から、学校の水がどこから来ているか考える。
7・8時間目::浄水場の見学を行う。

浄水場の見学場面(写真)
浄水場の見学場面の写真

9時間目:水質保全センター(下水処理場)の学習を行う。

③Sorting Out(情報の整理・分析)

課題:「学んだことを一度整理して、新たな疑問についてさらに調べよう」

10時間目:浄水場と水質保全センターで学んだことをまとめる。
11時間目:まとめたことを共有し、新たな疑問について考える。
12時間目:インターネット書店を用いて、新たな疑問について調べる。

④Going Further(考えをさらに深める)

問い:「他にも京都の水のために努力したり、工夫したりした人はいないのだろうか? だれがどんなことをしたのだろう?」

13時間目:京都の水の歴史と北垣国道と田辺朔郎が活躍したことを知る。
14・15時間目:北垣国道と田辺朔郎について調べる。
16時間目::琵琶湖疏水アカデミーの方に琵琶湖疏水についての出前授業を行っていただく。
17〜19時間目::琵琶湖疏水記念館で学び、琵琶湖疏水についてのフィールドワークを行う。
20時間目:国指定の名勝 七代目小川治兵衛の作庭である「無鄰菴」を見学し、人工と自然のバランスについて考える。

国指定の名勝 七代目小川治兵衛の作庭である「無鄰菴」の見学(写真)
国指定の名勝 七代目小川治兵衛の作庭である「無鄰菴」の見学(写真)

21時間目:日本の海洋教育に関わる研究者である佐藤達也先生(ざっこくらぶ)から水問題の現状について学ぶ。
22・23時間目:サントリー「水育」の出前授業で、水の循環について学ぶ。

サントリー「水育」の出前授業
サントリー「水育」の出前授業

⑤Making Conclusions(自分なりの解を導き出す)

問い:「私たちはその水の問題に対してどうするの?」

24〜26時間目:自分の考えを新聞にまとめる。
27時間目:考えをクラスで共有し、ルーブリックに照らし合わせて、自己評価と他者評価を行う。

⑥Student Action Project(探究の成果を発信する)

問い:「私たちはその水の問題に対してどうするの?」

28・29時間目:学習発表会の練習を行い、発表する。
30時間目:学習の振り返りを行う。

まとめとしての学習発表会

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

⑴  他教科・他領域とのつながり
本学習は、本校で進めている教科横断型の探究学習の取組として行った。私が学年4クラス中、3クラスの社会科を担当していたので、社会科を中心とし、「水」をテーマとして行った。
この原稿で執筆したのは、教科横断型の社会科で扱った部分だけである。また、学校行事である学習発表会をゴールにし、学年教員全員で協力して取り組んだ。
学習発表会では、「海のふしぎ」というミュージカルを発表し、社会科で学んだ内容をもとに国語科の時間にプレゼンテーションと台本を作成した。音楽科や体育科や図工科では表現活動を行った。
また道徳科では、学年の道徳科担当教員がオリジナル教材を作成した。英語科や理科とも連携した。横断した教科や内容は、以下の図の通りである。

今回の教科横断の一覧図

※体育科3時間・理科2時間・国語科4時間・図工科2時間・英語科1時間・社会科30時間・音楽科6時間・道徳科2時間(計50時間)

⑵ 授業の成果
社会科の学習として水をテーマとし、カリキュラム・マネジメントを行い、教材をつなげてダイナミックな学習に取り組むことができた。また教科横断型の学習にすることにより、学年教員全員で取り組むことができた。
本学習は2022年度の一学期に取り組んだ。学習発表会という学校行事を含め、一学期に1つのテーマにしぼることで、教員も子どもたちも無理なく探究学習に取り組むことができた。校外学習を実施し、多様なゲストティーチャーと連携できたことも子どもたちの学習を深める上で、大変効果的であった。

また子どもたちがこの学習を楽しいといい、進んで学習に取り組んだこと、実際の生活場面でも水を大切にして過ごそうとする姿、変容が見られたことが大きな成果であった。

⑶ 授業の課題
教科をいかにつなげるかということを意識してカリキュラム・マネジメントを行い、学習を計画し、実施した。
しかし、学習を終えた後、本当にこの教科や学習を全てつなげることがよかったのだろうかという疑問が残った。様々な教科や学習をつなげてわかったことは、ただつなげるのではなく、本当に子どもたちの学習内容に必要なものを精選してつなげ、カリキュラムデザインすることの大切さである。
また本学習では、多様な教科、学年教員全体で取り組んだが、学習のねらいや育てたい子どもたちの力の共有や評価課題については、まだまだ不十分であった。それらをさらに共有したり検討したりする時間をとり、学年全体、学校全体で子どもたちのコンピテンシーを育んでいきたい。

【参考文献】
国際バカロレア機構、(2016)、「PYPのつくり方:初等教育プログラムのための国際教育カリキュラムの枠組み」

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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