夏休み明け、教室に入るのをためらっている子にどう向き合う? 不安な気持ちを子どもに表現&共有してもらおう。「色と形」を活用した新学期のリスタート。

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「色と形」で子どものアタマとココロが見えてくる!! タイトル

長い夏休み明け。久しぶりの登校で、どうしても教室に入るのをためらってしまう子がいます。「1学期は問題なく学校に通えていたあの子がどうして?!」といったことも起こります。そのような時、学級担任としてどんな手助けができるのでしょうか?
子どもの気持ちを「色と形」で表してみれば、外から見えない隠れた気持ちが見えてきます。
そして、周りの子と気持ちを共有できて、あれ、いつの間にか、ふさいだ気持ちが消えている。
そんな夏休み明けの子どもの心のケアにも役立つ学習方法をご紹介します。

【連載】「色と形」で子どものアタマとココロが見えてくる!! #02

執筆/茨城大学大学院教育学研究科教授・打越正貴
   茨城大学全学教職センター助教・宮本浩紀

1.誰だって、自分の気持ちは伝えにくい

夏休み明けの初日、間もなく登校時間というタイミング。ある子が昇降口で、「どうしても教室に入りたくない」と言っている様子です。
一緒に登校してきた友だちが、職員室にいる私を呼びに来てくれました。

あれ、どうしたんだろう? かおり(仮名)は、1学期はそういう気配はなかったんだけど。

そう思いながら昇降口に行ってみると、一目見てびっくり。顔が真っ黒に日焼けしているのです。
私は思わず、「おーすごく焼けてるね! 海でも行ったの?」と聞きました。
できるだけ、普段通りの雰囲気で声をかけました。
でも、それは失敗でした。かおりがふさぎ込んでいたのは、その日焼けが原因だったのです。
話を聞いてみると、真っ黒に日焼けしているのは、夏休みの間、海の側にあるおばあちゃんの家に行っていたからだそう。

『生徒指導提要』には、「児童生徒理解は…(子ども)の気持ちを敏感に感じ取ろうとする姿勢が重要です」と書かれています。
だから、ひざを折って「どうしたの?」と聞いてみました。すると、かおりはぽつりぽつりと語ってくれました。どうやら、日焼けした姿をクラスのみんなが変に思うんじゃないかということを心配していたようなのです。

一緒に登校してきた友だちは大の仲良し。彼女に対しては、かおりはそれほど気にせず自分の夏休みがどんなものだったか伝えられたのでしょう。
でも、当たり前ですが、誰だって仲の良い友だちは特別な存在です。
その子と同じように、他のクラスメイトと話をするわけではありません。仲の良さには温度差があるのが普通です。
要するに、かおりの不安な気持ちは「それほど仲の良くないクラスメイトは、自分のことを変に思うんじゃないか……」というところから生まれたものだったのです。

2.子どもの見えない気持ちを「色と形」で表してみる

こんなとき、学級担任として大切なことは、子どもの不安な気持ちをそのままにしないことです。
ただし! 「大丈夫だよ。みんな気にしないよ!」といった、その場しのぎの言葉はむしろ逆効果です。だって、クラスメイトたち個々人の感じ方は、学級担任である私に決められるものではないからです。

そこで私は、クラスで起こることを想像しました。
かおりがクラスに入るや否や、きっと周りの子は「え、どうしたの!? その日焼け!」といった反応をするはず。そして言わんこっちゃないと、かおりは落ち込んでしまうはずです。
それを見越して、前もって行動しておくべきでしょう。

不安な気持ちが、これ以上高まらないようにはどうするか。

頭をひねった結果、私は、かおりたちに、ゆっくり教室に来るよう言いました。かおりの目を見て、「大丈夫。先生が、みんなに話しやすい雰囲気つくってあげるから」
と伝えました。
足早に教室に向かって真っ先に行ったのは、黒板に「6年2組のみんな、どんな夏休みだった?」と大きく書くことでした。
さりげなく、ヤシの木の絵や強い日差しの太陽も描いておきました。
そして、かおりたち2人が席に着くのを見て、黒板の言葉を読みました。
すると、クラスの子どもたちは、口々に自分の夏休みを語り始めました。
それを見て、
「ちょっと待った!」
と、私は教室中央に向けて手の平をかざし、発言の一時中断を促しました。

「みんな色々な夏休みを過ごしたようだね。
久しぶりに会ったのだから、今日はそれを発表してみましょう。
まずはみんなの夏休みがどんなだったか描いてもらいます。
みんな色鉛筆は持ってるよね。
これから配る画用紙に、『夏休み』という文字を、好きな色、好きな字体で描いてください。漢字、ひらがな、カタカナ、どれを使ってもいいよ!」

1学期の授業の作品例

このように、子どもの中にあるイメージを、見える化する活動を行いました。
クラスの子どもたちは、1学期の間に「色と形」の学習をすでに何度か体験していました。それで、戸惑うことなく活動に取り組みました。

本活動では、「色と形」をこう使いました
.色鉛筆など、何か色を塗れるものを用意する
.絵を描く画用紙を用意する
 (今回は、【縦5㎝×横10㎝】 くらいの小さめの紙を用意しました)
.描くテーマを決める
 (今回は、キーワードに「夏休み」を選びました)
.画用紙に絵を描くよう伝える
.4.を終えたら、画用紙の裏に絵の説明文を書くよう伝える
.まずは班で、続いてクラス全体で、自分の「夏休み」を紹介し合う
.クラスメイトから自分の作品に関する質問を受け、自分の思いや考えを伝える

3.思いのこもった素晴らしい発表に

10分ほど経って、多くの子どもたちが描き終わったのを見計らい、教卓に立ちました。

「それじゃあ、そろそろ描くのは終わりにして、みんなに発表してもらうことにするね」

かおりの表情は、登校時よりも大分落ち着いていました。他の子たちが発表している間に、私はこっそり「あとで発表してもらうね」と伝えました。
かおりは少し戸惑いながらも、首を縦に振ってくれました。
次々と挙手した子が発表を終える中、私はかおりに目配せをしました。目が合って、「いけます」というかおりの気持ちが感じ取られられました。
そんなかおりが発表した「夏休み」は次のようなものでした。

「夏休み」の「夏」は、カタカナで「ナ」と「ツ」と描かれています。あとは、漢字の「休」とカタカナの「ミ」が描かれています。
個々の文字にどんな思いや考えが込められているか、おわかりでしょうか。

一目でわかるのは、全体的に海で過ごす様子が描かれているということです。「ナ」は、カラフルなビーチパラソル、「休」の右側はヤシの木が表されています。よくわからないのは、その間にある「ツ」と「休」の偏の「にんべん」です。これは何を表しているのでしょうか。

私はおばあちゃん家に行きました。「ツ」は椅子に寝ている自分で、「にんべん」は一緒に行った弟です。海で遊んで日焼けしています。

こうして、かおりはクラスみんなにスムーズに、自分の肌の色がこんがり日焼けしているわけを伝えることができました。クラスメイトからは「あ~それでか~」「楽しそう」という声が聞こえています。もう誰もかおりの日焼けのことは気にしていないようです。
発表を終えて自分の席に戻ったかおりは、ほっとしたようでした。口元があがった笑顔の表情が思い出されます。

夏休み明けの子どもたちは様々な気持ちを抱えて登校してきます。学級担任はそれを敏感に汲み取ってあげたいものですね。
不安や心配は、クラスメイトと気持ちを伝え合えることで解消することが多いです。どうぞ、夏休み明けのクラスのリスタートに、「色と形」を活用してみてください。

イラスト/難波孝


打越正貴教授

打越正貴●うちこし・まさき 茨城大学大学院教育学研究科教授

民間企業、公立小学校・中学校の教諭、教育委員会指導主事、公立中学校校長を経て現職。

校内研修講師として、主に茨城県内の公立小・中学校を訪問し、教育方法の観点から各教科の授業づくり・授業実践について指導・助言を行っている。 著書に『主体的な学びを育む思考指導の理論と実践』(単著、青簡舎、2021年)、『イメージからことばをひきだす「色と形」の授業づくりアイデア』(共編著、ネクパブ、2022年)、『ことばをひきだす授業論』(共編著、PUBFUN、2024年)等


宮本浩紀助教

宮本浩紀●みやもと・ひろき 茨城大学全学教職センター助教

信州豊南短期大学幼児教育学科助教・同専任講師を経て、現在、茨城大学全学教職センター助教。

講師として、茨城県内の各公立小・中学校、茨城県教育研究会道徳教育研究部等において各教科の授業づくりの助言・指導を行っている。 著書に『モラルの心理学』(共著、北大路書房、2018年)、『イメージからことばをひきだす「色と形」の授業づくりアイデア』(共編著、ネクパブ、2022年)、『ことばをひきだす授業論』(共編著、PUBFUN、2024年)等


打越先生と宮本先生の共著

『「色と形」の授業づくりアイデア』

『ことばをひきだす授業論』

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