学級じまい:小五に決定権を渡し次のリーダーを育てる教師の戦略
高学年を何度も担任する教師は口を揃えて言います。「小五は後半が一番楽しい!!」いよいよ次のリーダーは私たちだ、という自負を刺激し、 学校・学級イベントや学級じまいに向けた準備などを子どもたちに任せてみるのに絶好の時期です。そのためには、教師のダンドリも超重要。三学期当初から予定しておきたい、エンディング計画のアイディアを紹介します。
執筆/神奈川県公立小学校教諭・尾野繁史
目次
小五担任の醍醐味はこの時期!
私は五年生を担任することが好きです。子供たちは、4月の中学年の雰囲気を残したあどけない姿から、3月には最高学年を意識した少し大人の姿に変わります。そして、五年生を担任している年は、冬休みになると「ここからが楽しいんだよなぁ」といつも思います。
今回は、五年生の1~3月に焦点を当て、この時期の子供への仕掛け方や仕事の進め方、そして五年生が企画する最大のイベントである「六年生と遊ぶ会」の具体的なアイディアについてご紹介します。
リーダー育成のゴールデンエイジ
「ゴールデンエイジ」という言葉があります。子供の運動能力が著しく発達する時期のことで、スポーツの育成現場ではよく使われる言葉です。体の動かし方や技術を短期間で覚えることができ、本格的なアスリートを目指す場合、この時期の過ごし方がその後の競技人生に大きな影響を与えるとも言われています。
私は小学五年生の1~3月はこのゴールデンエイジによく似ているなぁと思います。この時期の五年生は、六年生になることにワクワクしていて、最高学年への自覚やリーダーとしてのスキルを身につけるのに絶好の状態です。このやる気のある時期に適切な働きかけをすることで、六年生の一年間をずっと充実したものにすることができると考えています。
忙しい三学期の教師。仕事の効率化は必須
とはいうものの、この1~3月の時期は教師たちも忙しく、時間もあっという間に過ぎてしまいます。だからこそ、職員間のコミュニケーションが大切です。
特に私がこの時期大切だと思うことは次の二つです。
① 他の教員と情報を早めにシェアする
一つ目は、忙しい時期ですのでいつも以上に、早めに仕事を進め、情報を他の職員とシェアすることです。仕事をしていて、きついなぁと感じたり、ストレスを感じたりするのは、急に仕事をお願いされ、さらにその締め切りが早いという、まさにダブルパンチの状態です。
見ていると「六年生と遊ぶ会」など職員会議で提案すべき案件は会議の期日があるおかげで、漏れは少ないのですが、個別にお願いする細々した仕事はどうしても漏れがちです。全体を見通して、早め早めに「仕事を振る」感覚がいつも以上に重要な時期だと思います。
②「五年生を育てる」というコンセンサスを全職員でとる
二つ目は、「五年生を育てる」というコンセプトを全職員で共通理解することです。五年生の学年主任や特活主任が中心となって、「1~3月は五年生を育てる」という考えを明確に打ち出していくべきでしょう。
学校として「次の担い手を育てていく」という共通理解があれば、特別な行事の時だけでなく、縦割り活動、クラブ活動、委員会活動など五年生担任以外の教師が見る場面において、六年生から五年生への役割シフトが進み、自然と五年生が力をつける土壌ができます。
五年生は「最高学年に向けて頑張る」、六年生は「最後の意地を見せる」。このような雰囲気こそが1~3月の学校には必要だと考えます。
【関連記事】縦割り活動についてもっと知りたいなら、この記事もチェック!→異年齢交流活動で子どもは育つ
子供が自発的に動くための教師の仕掛け方
忙しい五年生のこの時期ですが、子供主導で進めていかなければ、価値がなくなってしまいます。子供が自発的に動くための教師の仕掛け方として、以下の三つを紹介します。
「教師が決めること」「子供に委ねること」を明確にしておく
この最初の線引きは当然のことではありますが、とても大切です。この線引きがしっかりとしているからこそ、子供の意見を尊重することができます。日々の教育現場では、意外にも後から教師が「それは駄目」と言っている場面によく出くわします。
大人でもそうですが、これはやる気が削がれます。逆に線引きが明確で、認められる経験が連続すると、次も意見を言いたいと思うようになり、プラスの循環が働き始めます。
縦割り活動(一~六年生の異学年集団での活動)を有効活用する
私は縦割り活動がある学校とない学校それぞれに勤務したことがありますが、縦割り活動はリーダーとしての経験を積みやすいと率直に思います。五年生の子供たちは、学校を引っ張っていく恰好いい六年生になりたいという気持ちがありますが、具体的にどう行動すればよいのか分からないことがたくさんあります。
縦割り活動で六年生の「お別れ給食」や「お別れ集会」などの企画運営をすれば、一通りリーダーの経験を積むことができます。リーダーとしての動き方を体験すれば、少しずつ自分から動ける子供が増えていきます。
卒業関連の行事を毎年違う内容にする
卒業関連の行事は五年生の子供が企画運営を担うことが多いですが、そこに「自分たちだけのオリジナル企画」という言葉が加われば、さらにやる気になります。たとえマイナーチェンジだったとしても、自分たちの代でこんなことを考えて、昨年とは違うことをやっているという感覚は子供を自発的にさせます。
この時期は忙しいので、少し大変ですが、教師も頑張って、少なくとも例年と全く同じ内容の繰り返しというのは避けたほうがよいでしょう。
以上の三点に加えて、先に述べた「1~3月の時期は、次の学校の担い手である五年生を育てる」という全職員のコンセンサスを大切にし、自発的な行動を通して、五年生の成長に繋げていけるとよいでしょう。
では、五年生が企画運営する中でも、メインイベントとも言うべき「六年生と遊ぶ会」の具体的なアイディアについて二つ紹介します。
アイデア① 六年生と在校生の真剣三本勝負
「六年生と遊ぶ会」の目的は、卒業を控えた六年生と在校生が最後に楽しく遊ぶことですので、六年生が主役となり六年生に喜んでもらう内容をお膳立てするのがよいと思います。私が五年生担任で特活主任だった年に、「六年生と遊ぶ会」で実施したのが「六年生と在校生の真剣三本勝負!!」です。
〈六年生と在校生の真剣三本勝負!!〉
卒業する六年生に在校生が挑戦し、六年生に勝とう!!
【プログラム】
①綱引き勝負(六年生VS一、二年生連合軍)
②玉入れ勝負(六年生VS三、四年生連合軍)
③長縄勝負 (六年生VS五年生)
在校生が、六年生に各種目で挑戦するという内容です。先に二勝したほうが勝ちとなります。種目は勝敗が明確で、運動会などで経験がある、説明が必要のないものがよいでしょう。
全員参加なのでプログラム①番「綱引き勝負」、②番「玉入れ勝負」は圧倒的に在校生の人数が多くなります。人数の多い在校生が束になってかかるのが演出です。強い者に弱い者が挑むという構図は盛り上がります。三本勝負のうち、綱引きや玉入れなどは六年生も懐かしいといって、楽しんで取り組む姿が見られます。
プログラム①番の綱引きでは、力が違いすぎるので、どんなに一、二年生が頑張っても六年生が絶対に勝ちます。あっという間に勝負がつき、「やっぱり六年生はすごい!!」となります。
プログラム②番の玉入れ勝負でも、綱引きほどではありませんが、絶対に六年生が勝ちます。投げる力もそうですが、身長が違いすぎるので、六年生が負けることはありません。ここまでくると、「やはり六年生はさすがだなぁ」という雰囲気になります。そこで最後に、五年生が登場し、長縄で勝負します。
以前、3分間の八の字跳びをクラス対抗でやりました。これは接戦になります。すでに六年生が二勝していて、六年生の勝利は決まっているのですが、在校生も一矢報いたいという気持ちがあります。これは、正直なところ、どちらが勝つかわかりません。
長縄は練習をすれば上達しますし、必ずしも六年生が有利ということはありません。プログラム①番、②番は、勝負する前に並んだ時点で、六年生の勝利がほぼ予想されますが、プログラム③番は、まさに真剣勝負で、会場がドキドキした期待感に包まれます。
結局、その時は五年生が勝ちました。五年生は大喜び、六年生は苦笑いです。五年生が勝てば、「さすが次の最高学年、なんとか一勝して在校生の意地を見せましたね。でもトータルのスコアは二勝一敗で六年生の勝ちです!!」となります。もし長縄も六年生が勝利すれば、「五年生も頑張りましたが、さすが六年生。三連勝で六年生の完全勝利です!!」とすればよいと思います。
実施に際しての留意点は三つあります。
一つ目はプログラムの順序と内容です。六年生が楽勝する内容から、接戦になる流れだと盛り上がります。プログラム内容もだんだんと難易度が上がるようにしますし、対戦相手もだんだんと大きくなっていくようにします。そのようにするとプログラム三番の八の字跳びの時には、会場が心地よい緊張感に包まれます。
二つ目は段取りです。段取りには教職員間で確認することと子供と確認しておくことがあります。教職員とは、綱や玉入れの籠などの出し入れを簡単に確認しておけばよいでしょう。「六年生と在校生の真剣三本勝負!!」は盛り上がりますが、当日の準備、入れ替えが大変という難点があります。この点は教職員間の連携でカバーしたいところです。
一方、子供とは、何度も練習をします。これはもう各学校で行われていることなので、私がとやかく書く必要のないことですが、とにかく練習すること、言い換えると教師が手間ひまをかけることに尽きると思います。「六年生と遊ぶ会」は、全校の前で話すことも多く、緊張する場面が多いものです。他のものよりも余計に練習が必要です。
運営委員会の子供だけでうまくいかない時は、他の委員会に積極的に仕事を振ります。個人の責任範囲を少なくしたほうが確実に進行できますし、五年生全員で運営している感じが出ます。子供の集会でよくある、進行がうまくいかず、流れが止まってしまい、だんだんとザワザワし始めるみたいなことがなくなります。
三つ目は安全に十分に留意することです。特に、今回ご紹介した内容では、プログラム一番の綱引きは十分に気をつける必要があります。私の経験では、六年生が本気を出すと、一瞬で勝負がつき、一、二年生の子供たちが前に引きずられます。あらかじめ六年生に「最初は本気を出さないで」「ゆっくり引いて」等と声をかけておくことが大切だと思います。
アイディア② 卒業していく六年生にサインをもらおう
場所は校庭です。在校生が卒業していく六年生にサインをもらうという活動です。一年生から五年生にあらかじめサイン用紙を配っておきます。サイン用紙には、十個くらいの質問とその横にサインを書く欄を作っておきます。
例えば、「給食が好きだ」「○○小のことが大好きだ」「中学校の生活が楽しみだ」等です。そして合図とともに、一~五年生は六年生のところに行き、自分が選んだ質問を六年生にします。
お互いに「よろしくお願いします」と言った後、下級生が自分が選んだ質問をします。「○○小学校のことが大好きですか?」そして、その質問に当てはまれば、六年生は自分のサインを書くという流れです。
下級生たちは(特に一~三年生位までは)サインを集めたくて仕方ありません。六年生のところに群がります。また人数は圧倒的に下級生が多いので、自然と六年生が取り囲まれることになります。想像してみるとわかるのですが、自分のサインが欲しい人たちに囲まれると、なんだかとてもうれしく、誇らしい気持ちになります。
その① 質問項目を五年生が考える
この活動は、質問のできがよければ盛り上がります。私がやった時は、五年生全員から募集して、実行委員で選定しました。全員から募集することで、関わっている感じが出て主体的になれます。
その② 卒業に関連する曲をBGMにする
音楽の効果は絶大で、この時間がさらによい雰囲気になります。校庭中が温かくて、優しい雰囲気に包まれます。
その③ 持ち物を決めておく
在校生はサイン用紙のみ、六年生は自分の好きなカラーペンのみにします。在校生にサイン用紙とペンを持たせると、終わった後に校庭にペンの落し物がたくさんあったことがあります。その後が大変なことになりますので、ペンは六年生が持ったほうがよいでしょう。
小五エンディングに向けての見通し
六年生の卒業行事にきちんと正対できたら、それで小五のエンディングとしては十分ではないかと私は思っています。エンディングをあまり盛り上げすぎると、次の年の新しいクラスで頑張れなくなりそうな気がします。ですから、私はできるようになったことをみんなで確認し、価値づけをしたら、あとはもう淡々と終わることにしています。
子供たちには、次の新しいクラスで頑張ってほしい。六年生こそが小学校で最も頑張る一年だと思うからです。だからこそあまり劇的にしすぎず、他の学級と違う独自のルールを一度リセットして、すっきり学級をクローズするようにしています。
イラスト/設楽みな子
『小五教育技術』2019年1月号より