小5特別活動「学級の歌をつくろう」指導アイデア
前文部科学省視学官監修による、小5特別活動の指導アイデアです。5月は、<「学級の歌をつくろう」学級活動⑴>を紹介します。
5月は学級生活のスタートから1か月が経ち、学級集団として本格的に動き出す時期になります。子供たちが新たな環境や学級に希望をもっているこの頃に、みんなの思いや願いを込めた学級オリジナルの歌をつくり、みんなで歌うことによって、よりよい学級生活づくりに進んで参画する態度を育てます。
執筆/滋賀県公立小学校教諭・西野篤史
監修/前文部科学省視学官 帝京大学教育学部教授・安部恭子
滋賀県特別活動部会顧問 元滋賀県公立小学校長・鈴木靖彦
目次
年間執筆計画
4月 学級活動⑴ 5年〇組の係を決めよう
5月 学級活動⑴ 学級の歌をつくろう
6月 学級活動⑵ ウ 地震のときの正しい行動の仕方
7月 学級活動⑴ 一学期がんばった会をしよう
9月 学級活動⑵ イ 互いのよさや可能性の認識
10月 学級活動⑴ 5年〇組の運動会のめあてを決めよう
11月 学級活動⑶ ウ 目指す自分になるための自主学習
12月 学級活動⑴ 来年の1年生を学級に招待しよう
1月 学級活動⑶ ア 最高学年に向けて取り組むこと
2月 学級活動⑴ 6送会で感謝の気持ちを伝えよう
3月 学級活動⑴ 5年〇組の一年を振り返る会をしよう
1 本時のねらい<学級の歌をつくることで、子供たちが希望や期待をもって主体的に学級生活をよりよくしようとする>
5月は学級生活のスタートから1か月が経ち、学級目標がつくられ、当番活動や係活動が組織されるなど、新たな学級集団として本格的に動き出す時期になります。子供たちが新たな環境や学級に希望をもっているこの頃に、みんなの思いや願いを込めた学級オリジナルの歌をつくり、みんなで歌うことによって、よりよい学級生活づくりに進んで参画する意欲を育てます。
2 事前の活動<話合いの準備をする>
①議題を選定する 5年○組のみんなの願いを歌にこめよう(学級会の2週間ほど前)
5月になって学級内の組織が軌道に乗り始める頃になりますが、新しい学級に慣れて連休が明けたこの時期の子供たちは、生活が単調になりがちで、学級内に置いた提案カードに議題案が入らないこともあります。
だからこそ目標に向かって心と知恵を合わせて、学級生活を楽しく豊かにするための議題で話し合うことは学級内の人間関係をよりよくし、団結力を高めるために有効です。また「学級の歌」や「学級のマーク」は1年間を通して子供たちの手による学級の生活づくりのよりどころにもなります。
4月当初は新しい学級生活への参画意識やよりよい人間関係づくりに重きを置いた議題の内容が多くなりますが、ひと月経った5月は教師から今後のさらなるよりよい学級生活づくりのために取り組む内容になるようなヒントを出してみることも考えられます。その場合も議題ポストに入っている他の議題案と併せて計画委員会で優先順を検討し、朝の会や帰りの会で、学級全体にはかることが必要です。また計画委員会の子供たち自身が議題に取り上げる必要性を認識していないと提案理由を深めることができません。教師からの提案を議題として押し付けるような進め方は避けましょう。
今後新たな議題案を子供たちが出せるようにするために、以下の方法が考えられます。
<新たな議題案の集め方>
●議題ポストへの提案から
●朝の会や帰りの会で、話題になったものから
●学級日誌などに書かれていることから
●係活動や当番活動の感想から
●代表委員会や各委員会などの児童会から依頼されたこと、または学級から児童会に提案したいことから
●これまでの活動の振り返りから
なども考えられます。
<学級会 提案カード>
議題ポストに入っている提案カードを見ながら、以下のような話合いをします。
このクラスで1か月過ごして、仲良くなる会をして、友達のことをお互いに分かってきたね。
5月になっても議題ポストに入っているのは遊びやイベントの提案が多いね。
4月には係も決まって、仲良くなる会もやったけど、もっとこれからのこのクラスに必要な話し合うことはないかな。
もっと仲良しのクラスになるために、このクラスだけのオリジナルの合言葉があるといいかもしれないね。
合言葉を入れて学級の歌をつくってみんなで歌えば、5年○組のことをもっと好きになったり自慢に思ったりするんじゃないかな。
学級の歌があるのはすてきだね。どんな歌にするのかをみんなで話し合いたいな。
みんなの思いがつまった歌詞にしたいから、みんなといっしょに考えたいな。
どんな曲にするといいかな。もとになる曲があるとつくりやすいね。
アンケートをしてみんなに曲を選んでもらうといいね。
それでは、次の議題は「学級の歌をつくろう」にするか、みんなに聞いてみましょう。もし議題になったら、どんな歌詞にすれば5年○組に相応しいかアンケートをとって考えるといいですね。
●「提案理由」は、議題に対するみんなの思いや話し合う必要性が高まるようにまとめます。また、提案者の思いや願いを大切にし、実現できるようにするために、計画委員だけでなく提案者も計画委員会に参加していっしょに話し合うようにしましょう。
<例>
5年生になって学級の目標が決まり、係活動も始まりました。これから1年間みんなで学級のめあてを大切にして協力して活動するためにも、このクラスオリジナルの学級の歌をつくって、みんなでいろいろな機会に歌ったら、もっと仲良くなって学級生活が楽しくなると思って提案しました。
●「提案理由」は、話合いで出た意見をまとめたり決めたりしていくうえでの「よりどころ」となるものです。今のクラスの様子やこれからどんなクラスにしたいかといった思いも入れて、「何のために話し合うのか」を明確にします。
●実際に学級の歌をつくるためには多くの作業が必要になるので、子供たちの力でできる範囲を決めておくことが大切です。今回の指導アイデアでは「替え歌の歌詞」で考えるようにします。学級に曲に合わせて歌詞をつけることが得意な子供がいるときはよさを生かして提案してもらうことも考えられますが、曲づくりには技術が必要になるうえ、出来上がるまでに時間がかかってしまうためあまりおすすめしません。また歌に入れたいフレーズを話し合う内容の1つにすることで、歌詞に込められた思いを共有し、本音で話し合うことが期待できます。そのため、事前に計画委員会で曲のアンケートを募り、みんながよく知っている替え歌の曲を決めておくとよいでしょう。
また、歌を知っている、とは言ってもサビの部分だけしか知らないこともあります。給食の時間に候補の曲を流すなどして、学級に合ったよりよい曲を選ぶことができるようにしましょう。
●「話し合うこと」を決めます。 「話し合うこと」は、基本的には「何をするか」 「どのようにするか(工夫)」 「必要な役割は何か」になります。今回は学級の歌づくりですから、次のようなことが考えられます。
話し合うこと①「どんな歌詞フレーズを入れるか」
話し合うこと②「どんな役割が必要か」
②学級会に向けて計画委員会を開く(学級会4・5日ほど前)
<アンケートをとって、もとにする曲を選ぶ>
計画委員と提案者で話合いの流れや運営の仕方などの見通しを立てます。ここで決まったことは学級の全員に知らせておくようにします。また事前にアンケートなどで替え歌のもとにする曲の希望を募り、アンケート結果を知らせたうえで、次の点を参考にして教師も助言します。みんなが知っている無理のない曲を選んで、朝の会や帰りの会を使って学級全体で合意を図ることが大切です。
学級の歌(替え歌)づくりにふさわしいもとにする曲は?
●みんなが知っていて口ずさめるような曲が相応しいでしょう。
●リズムが複雑な曲は替え歌にするには難しいことが多いものです。また曲が完成しても子供たちが歌いにくいことがあります。
●決まった曲は、学級会の前に、実際に学級全員で聴いたり歌ったりしてイメージを共有しましょう。
※パブリックドメインの民謡を選ぶなど、著作権の扱いには注意してください。
どんな曲にするのかアンケートをしたら、〇〇〇〇の曲が多かったよ。この曲ならみんなが知っているし、歌いやすそうだね。
希望のあった曲を学級会の前にみんなに伝えて、もとにする曲を決めてもらいましょう。曲ごとに歌詞をどのくらい変えられるのかも伝えるといいですね。
この曲なら、替え歌にできる部分がたくさんありそうです。みんなに知らせないといけないね。
使用する曲によって、替え歌にできる歌詞の部分は変わります。何番までつくるか、どの部分の歌詞を変えられるかをあらかじめ決めておくと考えやすくなります。例えば、学級目標を基にして、Aメロ、Bメロ、サビにテーマがあると、曲を決めた後の役割でグループに分かれて歌詞にして提案することもできます。
③学級会に向けて司会グループのリハーサルをする(学級会の前日までに)
学級会を行う前には、学級会の流れの確認やどんな意見が出て、どのような話合いになりそうかなど、教師といっしょにリハーサルをします。進行の仕方や板書のまとめ方などを確認することによって、計画委員会の子供たちに安心感を与え、学級会でのスムーズな話合いにつながります。
「くらべ合う」の中で、みんなの思いや考えをしっかりと聞けるといいね。
「出し合う」で替え歌に入れたい言葉がたくさん出てきたら、どうやってまとめるといいのかな?
そのためには、「出し合う」の中で出てきた意見を、種類ごとに分けて黒板に表すとよいですね。みんなが黒板を見ることで、考えを整理したり話合いの進め方が分かるようにしたりすることが大切です。
5年○組にとって1年間をいっしょに過ごすとても大事な歌になるので、賛成や反対だけではなく、どんな学級生活をみんなでつくりたいのかを伝えてもらうことも必要だと思います。
もとにする曲が決まったら、学級会が始まるまでに何回か曲を流したり、みんなで歌ったりして、みんなの気持ちを高めるのもいいと思うよ。
学級会ノート
記入できるところは計画委員会で記入をしておき、クラス全員に事前に配付します。学級会の前に自分の意見と理由をもって学級会に参加できるようにします。
カードにはあらかじめ議題や提案理由、決まっていること、話し合うことの内容などを計画委員の子供が記入しておくと、印刷して配付できます。
3 ◇本時の展開◇ 学級会で入れたい歌詞フレーズを話し合う
話し合うこと① 「どんな歌詞フレーズを入れるか」
もとになる曲のAメロ、Bメロ、サビなどの構成が分かるように黒板の横にホワイトボードか大型モニターを並べて、曲の構成を掲示します。
ホワイトボードやモニターの代わりにICT端末を活用して、もとになる曲の構成を確認できるようにすることもできます。子供たちの学級会ノートを共有しておくと、みんなの意見を閲覧することができます。また、発言していない子供の意見もみんなで把握することができます。
出し合う
「出し合う」の段階では、「どんな歌詞のフレーズを入れたいか」考えてきたことを発表します。発表するときには、理由も合わせて言えるとよいです。また、この段階で、内容が分かりにくいものがある場合は、質問などをして学級全員が理解しておくことも必要です。
提案理由や話合いのめあてに沿って、自分の考えを自分の言葉で発表できるようにします。事前に学級会ノートに自分の考えをまとめておくと、意見が出しやすくなります。
ぼくは、「チャレンジ」を入れるといいと思います。高学年なので、いろいろなことに挑戦することが増えるからです。
私は、「明るく楽しい」がいいです。5年〇組になって、いつもワイワイ楽しい雰囲気があるからです。
(司会)○○さんの考えを教えてください。(ICT端末を見ながら)
ぼくは、「おもいで」がいいと思います。理由は5年〇組の思い出づくりは学級目標の真ん中にあるテーマだから、歌詞にあるといつでも意識できると思うからです。
くらべ合う
「くらべ合う」の段階では、「出し合う」で出てきた意見について「賛成」や「反対」だけでなく理由(根拠)を加えて発表できるようにします。できるだけ多くの子供が考えを発表し、それぞれの考えをしっかりと聞くことが大切になります。学級会の中で、一番時間をかけたい部分です。また、賛成や反対・心配によって異なる色のマグネットを黒板に貼ることで視覚的に分かりやすくなります。
何より、自分の考えを発表するときには、反対意見ばかりの発言にならないように、他の意見のよさも見つけながら賛成意見をたくさん発表できるようにして、建設的な話合いにすることが大切です。
私は○○さんの意見にある「おもいで」がいいと思います。理由は、学級目標のテーマだから歌詞に入っていると意識できるし、この曲といっしょに思い出をつくろうとする気持ちになれるからです。
「元気もりもり」や「力こぶ」と同じ意味なので、「パワーアップ」にまとめたらいいと思います。文字の数も合っていて歌声を合わせやすいからです。
ぼくは「○○小学校」には反対です。○○小学校は好きですが、これはクラスの歌なので、5年〇組のほうがぴったり合うと思います。
子供たちがくらべ合う中で、新たな意見が出てくる場合もあります。また、いくつかの意見のよいところを見つけて生かすこともあります。話合いの中でよりよい意見になるようにします。
まとめる(決める)
「まとめる」の段階では、「くらべ合う」での賛成意見や反対意見からどの意見を決定にするのか、学級みんなで決めます。このときにくれぐれも安易に多数決を採らないように気を付けましょう。
(司会)みんなの意見をまとめたいと思います。賛成が多く、反対もない意見は決定してもいいですか。
「がんばれ」は賛成意見もありますが、運動会の応援歌みたいになるので、学級の歌にはあまりふさわしくないように感じます。
私もその意見に賛成します。「がんばれ」は、他のフレーズにもがんばろうとする思いが込められていると思うからです。
(司会)「がんばれ」に賛成した人、□□さんの意見に納得できましたか?
合意形成をするときには、必ず少数派の意見も大切にしましょう。反対意見が多い意見であっても、発案者や賛成した子供に確認したり、気がかりなことや心配なことはないか尋ねたりすることが大切です。
話し合うこと② 「どんな役割が必要か」
今日みんなで決めた言葉を入れて、学級の歌を完成させる役割が必要だと思います。みんなで完成させるのも大事ですが、思いがこもった歌詞が決められたので、分担を決めてもみんなが納得できる曲になると思います。
私は、学級の歌ができたら、歌っているところをタブレット端末で撮影するのがよいと思います。ビデオ撮りをしておくと、他のクラスにも見てもらえるし、いつでも歌を流せるからです。
撮影することに付け加えます。歌う人、伴奏する人、撮影をする人の役割があると、みんなで協力できると思います。
(司会)学級の歌を完成させるために必要な役割が提案されました。出てきた役割の担当を決めましょう。
4 ◇事後の活動◇ 役割に分かれて、実践する
学級会で話し合い、必要な役割や仕事の分担が決まったら、協力し合って学級みんなで準備をします。子供は、決まったことはすぐに取り組みたくなります。その気持ちを大切にしながらも計画的に取り組めるようにすることが大切です。みんなで協力して取り組むことを徹底することで、学級の一員としての意識や自己有用感が高まります。
① 歌詞を完成させる
役割が決まったら、担当の子供たちが中心となって、替え歌にする原曲をもとに、学級会で決まった言葉のフレーズをつかって学級の歌をつくります。
曲ができたら、曲名を募集してみんなで決めると、より学級への愛着が増します。
② 模造紙に歌詞を書く
学級の歌が完成したら、模造紙に歌詞を書いて掲示します。1人1字を担当してみんなで書いたり、好きなイラストを余白に描いたりして、学級に掲示して、いろいろな機会に歌うことで、学級の歌が子供たちにとってより愛着のあるものとなります。
③ 完成した学級の歌のビデオ撮りをする
ICT端末を使って、学級の歌の撮影をします。動画があると、朝の会や帰りの会で流すことができます。
③ お披露目会をしよう
完成したら、お披露目会をするのもよいでしょう。給食の時間などに流し、みんなでつくった歌を歌うと温かい気持ちになります。また、学級の歌をいつ歌うのかを決めておきましょう(朝の会、帰りの会、学級会、学級のイベントなど)。
5 活動の振り返り
実践後は、活動の振り返りをすることが大切です。実践してがんばったことやよかったこと、課題点などを振り返って、互いのよさやがんばりを認め合うようにします。当日の写真といっしょに振り返りを吹き出しなどに書いて掲示するのも効果的です。今回のがんばりや成功体験が次の活動や学級生活をより豊かにしようとする態度につながります。
6 学級の歌の活用方法の例
※朝の会や帰りの会で毎日流すと、思いのこもった学級の歌であっても、どうしても気持ちが薄れてしまいがちになります。朝の会や帰りの会の決まった曜日に歌ったり、次のようにみんなで目標に向かうときなどに気持ちをそろえて歌うと、効果的です。
●朝の会や帰りの会(決まった曜日)
●学級会
●学級集会活動や学級のイベント
●新学期や学期末など、長期休暇前後
●学校行事の前後(音楽会・運動会)
●遠足や校外学習のバスの中
構成/浅原孝子 イラスト/高橋正輝
監修
安部 恭子
前文部科学省視学官 帝京大学教育学部教授
埼玉県さいたま市の小学校に勤務後、さいたま市教育委員会、さいたま市立小学校教頭勤務を経て、2015年より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官、2022年より文部科学省初等中等教育局視学官を務める。
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