分数の教材理解に大切なことは「分数とは、子供が何を学ぶ学習なのか」【「系統」を見通し、学年ごとに押さえる! つまずきなしの「分数」指導法 #13】
この連載では、2学年~6学年までの分数の授業づくりについて、新潟市立上所小学校の志田倫明教諭に、系統性を踏まえながら説明していただいてきました。最終回となる今回は、その学習をふり返りながら、授業づくりをしていく上で志田先生が重要だと考えることなどについてお話しいただきたいと思います。
目次
良い授業づくりには「教材研究」が重要
これまで分数の授業づくりについて、10数回にわたって説明をしてきましたが、私自身もまだまだ足りないところがあります。ただ結局は、教師が分からないことは子供に指導することはできません。ですから、より良い授業づくりをしていく上で重要なことは、やはり「教師の教材研究」に尽きると思います。
教材研究には大きく2つの視点があって、一つは学習内容つまり指導内容を理解するということで、もう一つは子供の分かり方を理解するということです。
まず指導内容を理解していくときに大切なことは、指導内容を主語にして一言で話してみることだと思います。つまりは「分数とは、子供が何を学ぶ学習なのか」と簡潔に話してみることで、指導内容の価値や本質が明確になるということです。このシリーズで出てきた内容で言えば、「たし算というのは、何を学ぶのか」「かけ算というのは、何を学ぶのか」と話してみるわけです。「たし算とは、同種同単位のものをたすという原理原則を学ぶのだ」「かけ算というのは、比例を前提とした倍を学ぶことなのだ」と、その学習を一言で説明してみる努力をすることが大切だと思います。
そうして、一言で説明しようと思いながら指導内容を見てみるとしましょう。例えばたし算ならば、1学年から6学年までずっとありますから、それらについて考えてきたときに、「何だ、たし算って結構、同じところがあるんだな」ということが見えてくるでしょう。そうやって気付いた指導内容の価値であり、学習内容の本質であるものを、一言で説明する努力をすることが大事だと思います。
ちなみに、「たし算とは、同種同単位のものをたすという原理原則を学ぶのだ」と私は説明しました。しかし、それも含めて今回、連載で紹介してきた内容については、私が私の理解、私の考えを説明したものです。しかし、これについては正解があるわけではありませんから、視点の当て方によっても、指導内容の価値が変わってくることがあります。例えば今回の説明の中で、分数の用い方によって分割分数、量分数、単位分数、割合分数、商分数と分けましたが、これも異なる分け方をする見方もあるくらいです。
ですから、誰かが言ったことをうのみにし、あたかも正解のように受け売りで言うのではなく、自分で「この指導内容にはこんな価値があるんだろうな」と考えたことを説明することが大切なのです。
子供が考えていることの背景を探ってみることが大切
もう一つの子供理解についてですが、子供には何の論理もなく、めちゃくちゃする子供はほとんどいません。この連載でも子供なりの論理があって、それが間違いにつながっている例についての説明もしました。そのように子供なりの論理があるわけですから、自分(教師)が理解できない発言があったとしても、「それは違うでしょ」「こうでしょ」と簡単に否定したり、教えたりするのではなく、「その子供は、どうしてそういうことを言っているのかな?」と考えたり、「どうして、そう考えたの?」と問い返したりしながら、子供の思考を探ってみることが大切です。そうすると、これまでの学習の何とつながって、その発言があるのかという、子供の学習の履歴のようなものが見えてくるはずです。
ですから、間違っている子供もそうだし、教師が理解できない子供もそうですが、まずは子供に寄り添って、その子供が考えていることの背景(原因や源流)を探ってみるのです。そうすると、子供の学習の履歴が見え、そこから学びの系統などが見えてくるのではないかと思います。
一般的に、教材研究と子供理解が授業づくりの両輪と言われることがありますが、そこで言われる子供理解とは、子供の発達の理解などを指すのだろうと思います。もちろん、それも教育上はとても大事だと考えています。しかし、私がここで言う教材研究の視点としての子供理解とは、「今の発言は何をもとにして生まれているのだろうか?」と考え、その発言や考えの源流を探っていくと、子供がこれまでどのような学習をしてきたかが見えてきて、教師には見えなかったつながりが見えてくるということなのです。
私自身も授業をしていて、子供から教材についての新しい視点をもらうことは少なくありません。ですから、教師がすべて分かっているなどと思わないで、子供の考えが自分の想定外のところにあったときこそ、「自分とは異なる視点で教材を見ているかもしれない」と、可能性を探る意味で子供の考えの背景や源流を探ったほうがよいと思います。
そのようにして、教材研究の2つの視点から教材を自分で学び、そして子供の背景から学ぶことをやっていくと、教材本質や教材の系統がより明確に見えてくるのではないかと思います。
※
最後になりますが、この連載で説明してきた内容について、参考文献を紹介いたします。これまで私が説明してきたことは、先行実践や先行研究から学び、自分なりに考えたことばかりです。これまで長い時間をかけて蓄積された研究成果から学び、実践につなげることも、教材研究を深めていくために大切なことです。この機会にご紹介をさせていただきます(参考文献参照)。
【参考文献】
・文部科学省(2017)「小学校学習指導要領解説算数編」日本文教出版
・中島健三(1982)「復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方―その進展のための考察―」 東洋館出版社
・杉山吉茂(1990)「力がつく算数科教材研究法」明治図書出版
・杉山吉茂(2010)「復刻 公理的方法に基づく算数・数学の学習指導」東洋館出版社
・坪田耕三(2014)「算数科授業づくりの基礎・基本」 東洋館出版社
・齊藤一弥(2023)「数学的な授業を創る 実践編」東洋館出版社
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
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