ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #21 「Goal 10 人や国の不平等をなくそう」その2|木村麻美 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #21
タイトル

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は「人や国の不平等をなくそう」を学ぶ授業実践提案の第2回です。提案者は青森県の音楽専科、木村麻美先生です。

執筆/青森県公立小学校教諭・木村麻美
編集委員/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

青森県の小学校で教諭をしています、木村麻美と申します。
現在勤務している小学校では音楽の専科をしています。大学の先生や附属中学校、特別支援学校と合同で、インクルーシブの視点に立った音楽の授業の研究をしています。よろしくお願いします。

2 SDGs Goal 10についての解説

富と所得の格差が、多くの国でかつてないほど拡大しています。
2017年には世界人口のもっとも豊かな1%の人が持つ資産が世界全体の資産の約33%に相当し、もっとも貧しい25%の人が持つ資産の割合は10%にすぎませんでした。
最も豊かな人たちのグループにはますます富が集まり、豊かな状況が固定化する傾向がある一方で、もっとも貧しい人たちのグループでは、子どもたちが量も質も不十分な食事しかとれなかったり、病気になっても病院にかかることができなかったり、学校に通うこともできなくなったりと、さまざまな困難に直面しています。
また、特に開発途上国において、障がいのある子どもとない子どもでは、学ぶチャンスに大きな差があります。
例えば、エチオピアの農村部では、障がいのない子どもの47%が中学校に通えません。一方、障がいのある子どもで見てみると、約98%が通えません。

このような状況の中、私は、子どもたちが「高価な楽器がなくても、誰とでも一緒に音楽を楽しむことができる。」という経験をし、「音楽は誰でも平等に楽しめる」という意識をもつことが必要だと考えます。
音楽の授業を通して、SDGsのGoal 10「人や国の不平等をなくそう」のターゲットである「10.2 2030年までに、年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにすすめる。」「10.3 差別的な法律、政策やならわしをなくし、適切な法律や政策、行動をすすめることなどによって、人びとが平等な機会(チャンス)をもてるようにし、人びとが得る結果(たとえば所得など)についての格差を減らす。」に迫りたいと思います。

3 SDGsのGoal 10を扱った授業の実際

・対象学年 小学4年

教科及び領域 音楽(音楽づくり、鑑賞)
 題材名 「身近にある音でアンサンブルをつくろう」

・題材の目標
①・いろいろな音の響きやそれらの組み合わせの特徴について、それらが生み出すよさや面白さを見付けながら音楽をつくることができる。(知識・技能)
 ・環境音を聴き、身の回りの物を使って音楽をつくることを通して、どんな人でも音楽を楽しめることを理解する。(知識)
②身近にある音を組み合わせて即興的につくる音楽について、表現のよさや面白さと関わらせながら、どのように音色やリズム、音の重なり等を工夫するかについて発想を得ることができる。(思考・判断・表現)
③環境音や音の響き等に興味をもち、音楽活動を楽しみながら主体的・協働的に表現や鑑賞の学習に取り組もうとする。(主体的に学習に取り組む態度)

⑴ 題材の評価規準

この授業の評価規準表

⑵ 題材の学習計画

この授業の学習計画(表)

1960年代の終わりに、サウンドスケープ(soundscape)を提唱したことで知られているカナダの作曲家レイモンド・マリー・シェーファー は音楽教育の課題として、以下のことを指摘しています。

foreign music is valued above our own(自分たちの音楽より外国の音楽に価値を置く)
music composed by others is valued above anything we could achieve ourselves(自分たちで成し遂げたものより他人が作曲した音楽に価値を置く)
trying to meet excessively high technical demands, many students become discouraged to forgo the pleasures of music-making(過度に高い技術的要求をするあまり、多くの生徒が音楽本来の楽しみを忘れる)
by insisting that music is an expensive subject, opportunities for inexpensive music-making are ignored(音楽はお金がかかる教科だと主張するあまり、安価な創作の機会が無視される)
teachers fail to understand the value of music beyond concerts(教師がコンサート以外の音楽の価値を理解していない)
music has been isolated from contact with other subjects (science, the other arts, the environment)(音楽が他の教科(科学、他の芸術、環境)から切り離されている)
teachers do not speak out strongly enough against the commodification of music by the entertainment industry(エンターテインメント産業による音楽の商品化に対して、教師が十分に強く声を上げない)

[1] Listeningwalkはレイモンド・マリー・シェーファーが考案した音のエクササイズの一つ。ある一定の時間、誰ともしゃべらずに一人の空間を維持しながら環境の音を聞く活動。Soundwalkはほぼ同じ活動を指すが、後者はあらかじめ音環境を調査しコースをデザインするリーダーとリーダーのコースに従って歩く参加随行者という二つの役割に分かれている。(今田匡彦『哲学音楽論 音楽教育とサウンドエスケープ』恒星社厚生閣、2015、p33)
[2] レイモンド・マリー・シェーファー(Raymond Murray Schafer, 1933年7月18日 – 2021年8月14日)は、カナダを代表する現代音楽の作曲家。サウンドスケープの提唱者。

・実際の授業展開
『先週、リスニングウォークをしましたね。』

写真1 リスニングウォークをする子どもたちの様子
リスニング・ウォークをする子どもたち。

『どんな音が聴こえたか振り返ってみましょう。』

↓子どもたちが聞こえた音について振り返ったワークシート

リスニングウォークでどんな音が聞こえたかを振り返ったワークシートの記入例
(一つずつ確認して想起させた。)

『この前は、環境の音を聴きました。
今日は、これらの物(下写真参照)を使って音楽づくりをしたいと思います。』

音楽づくりに使った物の写真。新聞紙、お玉、白いレジ袋、金属製の焼き肉用の網。
音楽づくりに使った物の写真、その2。すりこぎとすり鉢、カラのペットボトル、ガラスのコップ、歯ブラシスタンド(陶器)。

『ペットボトルに大豆を入れました。』(揺らして音を出す)
『ペットボトルにビーズを入れました。』(揺らして音を出す)
「あ、高い。」(大豆よりもビーズを入れた方の音が)
新聞紙を持ち、振ったり丸めたり破いたりして音を出す。
「おもしろい。」
レジ袋を揺らしたり丸めたりして音を出す。
『すり鉢。ごまを擦るやつです。』
「あー、知ってる。」
グラスを棒でたたく。
『これは家でやったら怒られますが……』
「家でやってます。」
歯ブラシスタンド(陶器)を棒でたたく。
「音が違う。」
焼き肉の網をお玉でたたいたりこすったりして音を出す。

ボランティアで4人を選ぶ。
即興でリズムをつくり、1人ずつ重ねていく。
(ペットボトル2種類、グラス、すり鉢)

<聴いた児童の感想>
「音が合っていたし、すり鉢の音が目立っていいと思いました。」
「いろんなリズムが重なって面白いと思いました。」

『今の演奏で関係あるもの(音楽を形づくっている要素)は何ですか。』
「音の重なり」「繰り返し」「リズム」「拍」「強弱」

『もうひとグループ、やってみてください。』
ボランティアで他の4人を選ぶ。
(網とお玉、歯ブラシスタンド、すり鉢、新聞紙)

<聴いた児童の感想>
「4拍目に、新聞紙を引っ張ったり丸めたりした音が面白かった。」
「網とお玉の音色が面白い。」
「4人の中で小さい音もあったけど、よく聴いたら全部聴こえた。」

授業で子どもたちが演奏している場面の写真

『今日はこういう身近な物を使いましたね。
いつもは打楽器を使ったり、ピアノやリコーダーを使いますけど。
理由があります。
世界には、貧しい国もあります。(下のような画像を示す)
例えば、干ばつで作物が育たない、戦争に巻き込まれて、住むところを追われる、そして、きれいな水が飲めない、食べるものや着るものなどが十分にない生活をしています。』

アフリカの子どもたちと、その親たちの写真

『貧しい国では学校に行ける人は100%ではありません。
また、学校に行っても食べ物や勉強に使う物に恵まれていない国があります。
世界を平等にすることは今すぐには難しいけど、今、私たちが彼らにできることを考えることはできます。』

「私の服をあげます。」

『貧しい国の人は、音楽の勉強ができるのかな。』
「地面とか石とかで音を出すことができる。」
「身近なもので音楽できるので、楽しめると思う。」
「手をたたいたり、足で音を出したり。」

『私たちには音楽室にピアノがあるけど、音楽をするには必ずピアノじゃないとダメってことはありません。リスニングウォークで聞いた環境音も、音楽です。
「強弱」も「音の重なり」もあります。
この前テレビで見たんだけど、ある国でバイオリンを教えている日本人の先生がいて、お金持ちの人にもそうじゃない人にもバイオリンを教えたいと言って、バイオリンを買えないお家の子どもにはバイオリンを貸し出して教えていました。
でも初めは、裕福なお家の子どもとそうじゃないお家の子どもはお互いにあまり話をしなくて、それぞれのグループになっていたそうです。でも先生は、みんなが仲良くなってほしいという願いを持って、みんなに平等に教え続けていたら、2つのグループがだんだん仲良くなって、バイオリンの発表会にはみんなで協力して成功させることができたという話でした。』

『皆さんは、貧乏な人とは一緒に音楽できないでしょうか。』
『今日考えたことや気付いたことを書いてください。』

<子どもたちの振り返り>
恵まれている人と恵まれていない人がいて、その差がすごく大きいということが分かりました。
なんで貧しい国の人に、お金や物をあげないんだと思いました。
今僕たちが幸せに暮らしている中、貧乏な暮らしをしている人がいるということを知ったので助けたいと思いました。
もしこれから戦争に巻き込まれたとしても、自然の中に音楽があると分かってうれしかったです。ぼくは貧乏な人とか関係なくみんな好きです。
どこでも誰でも音楽はできることが分かった。
音楽は、バイオリンやギターなどの楽器がなくても身近なもので音を出して楽しめるということが分かりました。私は楽器よりも身近なもので音楽をした方が楽しいと思いました。
身近なところに音や音楽があるんだなと思いました。
楽器がなくても音の重なりや強弱、リズムなどができて、石や体などを使って音を出せて楽しめることが分かりました。みんな音楽ができると思いました。
周りの物の中にも、とてもきれいな音やおもしろい音があることが分かりました。

<評価について>
今回の授業で、子どもたちは、「音楽はピアノやバイオリンなどの既製の楽器の音だけではなく、身近にある物を使っても楽しむことができること」に気付き、「世界には所得の格差という問題があること」を知り、「所得の格差や障害の有無にかかわらず、高価な楽器がなくても、誰とでも一緒に音楽を楽しむことができること」を考えることができました。

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

今回、「身近なところに音楽はたくさんあり、いつでもどこでも誰とでも楽しめることに気付く」というねらいで授業をしました。
子どもたちは素直かつ柔軟に環境音や身近な音を受け入れ、興味を持ったと思います。世界の不平等については初めて知った子どもが多く、貧しい生活をしている人たちに募金をしたりして助けてあげたいという感想が多かったです。
現在、とても恵まれている日本の子どもたちは、所得の格差を強く意識してはおらず、誰でもできる音楽と格差社会の問題とがすぐには結びつかないとは思いますが、これから少しずつ世界情勢について考えていくきっかけの一つにはなったと思います。
音楽科では、世界の地域(国内外を問わず)にはそれぞれの文化や歴史や音楽があり、その音楽は地域の人たちの生活や文化と深い関わりがあることを学びます。
それぞれの文化や音楽を価値のあるものとして尊重できる心情を育てていきたいと思います。

この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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