「何のために学校のきまりがあるのか」を考える機会をつくろう!
新年度初の長期休みを終え、不安定になりがちなこの時期。子供たちが安心して学校で過ごすことができるようにするためにも、学校のきまり(ルールや校則)の意義について改めて考えてみるのはいかがでしょうか。なぜ、学校のきまりはあるのか? なぜ、子供たちに守らせる必要があるのか? そもそも何を目的につくられているのか? 説得力のある説明ができるように準備をしておきましょう。
執筆/東京都公立小学校教諭・松原夢人
目次
事故や混乱を未然に防ぐ「学校のきまり」
学校のきまりは、子供たちの安全・健康を守り、秩序ある学校生活を確保するために重要なものです。
生活指導部が中心となり、学校の経験に基づいて慎重に作られており、子供たちがよく遭遇するであろう様々な事故や問題を未然に防ぐために設計されています。
例えば、
- 持ち物について
ハンカチやティッシュをポケットに入れる、全ての持ち物に記名をする、学習に必要のないものは学校に持ってこない - 授業について
始まりと終わりの挨拶をする、よい姿勢で座る、名前を呼ばれたら「はい」と返事をする - 給食について
給食の準備の前に手を洗う、机の上にランチマット(ランチョンマット)を敷く、給食当番は白衣を着る - 歩行について
廊下を走らない(歩く)、右側通行 - 外遊びについて
決められた場所でボールを使う、遊び道具は元の場所に戻す、体育館の裏や廊下・階段などの危険な場所で遊ばない
子供たちがこれらのきまりを守ることが、安全な学校環境につながっています。
しかし、「学校のきまりなのだから絶対に守りなさい!」と命令口調で発するのは意味がありません。大切なのは、子供たちが学校のきまりの本質を理解していることです。
特に年度の前半では、そのための時間を設定するとよいでしょう。
例えば「ハンカチやティッシュをポケットに入れる」というきまりについて子供たちに考えさせたいことがあれば、「どうしてハンカチやティッシュをポケットに入れておく必要があるのでしょうか?」と質問してみます。
いろいろな答えが子供たちから出てくるでしょう。
- 手を洗った後は濡れているから、それを拭き取るため
- 汗をかいた時に使うため
- 咳やくしゃみをおさえるため(咳エチケット)
- 火事が起きた時に煙を吸わないようにするため
- 血が出てしまった時におさえるため
- 汚れたところを拭くため
- ポケットに入れておけば、すぐに取り出せるから
出てこない内容については、教員から提示しても良いでしょう。
また、「ハンカチやティッシュを持っていて良かったことはありますか?」や「ハンカチやティッシュを持っていなくて困ったことはありますか?」と質問すれば、子供たちが様々なエピソードを紹介してくれます。
「給食を食べている時にご飯を床に落としてしまったけど、ティッシュを使って拾うことができた」「手を洗った後にハンカチを忘れていたことに気づいて、洋服で手を拭いたらビチャビチャになってしまった。気持ち悪かった」などの実際に体験した話はインパクトが大きいです。
このように、ハンカチやティッシュを持ち歩くことのメリット(持ち歩かないデメリット)を共有することにより、翌日から持ってくる子供が増えることが期待できます。
ただし、持ち物に関しては保護者の協力が不可欠ですので、メール配信や学年(学級)だより、保護者会、個人面談等で、丁寧に理解と協力を促していくことが教員には求められます。
そして、子供たちがハンカチやティッシュを持ってきた時は、徹底して褒めてください。
褒めることが、子供たちの行動を“強化”させます。
現代社会では、ルールや規範を守る意識が低下しているという問題があります。この意識を育てるのは、教員の役割です。もちろん、この責任は家庭だけに帰することはできません。
学校は子供たちが社会生活を送る上での基本的なきまりや慣習を学ぶ場所でもあります。学校できまりを守ることを学べなければ、社会に出てもきまりを守ることが難しくなります。
きまりを守る習慣を身に付けさせるためには、学級開きや長期休業が終わったタイミングで、子供たちと一緒に学校のきまりを一つずつ読みながら確認することが望ましいでしょう。
また、夏休みや冬休みなどの休業前には、休業中の生活のきまりを含むプリントを一緒に読む時間を丁寧に取ることも大切です。
学校での事故や問題が起きる際は、そのほとんどが学校のきまりが守られなかったことに起因します。
学校のきまりが守られなかった事案が発生した場合は、もう一度、学級あるいは学年全体で学校のきまりについて再確認するとともに、今後どのように行動していけばいいのか子供たちに考えさせる機会を設けると良いでしょう。
もちろん事故や問題を起こした児童への適切な指導や、その事故に巻き込まれてしまった児童へのフォローやケアをすることも必要です。怪我をした場所や程度によっては、保護者への連絡も不可欠になります。
このように、学校のきまりを守ることは、子供たちが安全で秩序ある学校生活を送るための基盤となります。
教員が一丸となって、きまりを守ることの重要性を子供たちに伝え、遵守させることが、彼らが幸せな社会生活を送るための重要なステップとなるのです。
思いやりの心を育てる「学校のきまり」
学校生活の中でいじめを防ぐためには、初日から明確なきまりを設定することが大切です。
私はまず、学級開きの際、あるいは学年集会など子供たち全員が集まった場で、「いじめは絶対に許しません!」とはっきり伝えることから始めます。
この明確なメッセージは、いじめへの対応が後手に回らないようにするためのものです。
さらに、乱暴な言葉遣いをしないことも強調します。言葉遣いは、人との関わりにおける思いやりの表れであり、乱暴な言葉や悪口はいじめとも言えます。
いじめは、しばしば乱暴な言葉やからかい、ふざけから始まるため、丁寧な言葉遣いを心がけることが予防につながります。
子供たちに単に「丁寧な言葉を遣いなさい」と指導しても、すぐには改善されないことが多いのです。
特に、教員に対しては敬語を使うのが当たり前ですが、友達同士ではそのような形式的な言葉遣いは難しいかもしれません。
そこで、お互いに「呼び捨て」をしないようにすると、言葉遣いが自然と改善されます。「〇〇くん」「〇〇さん」という呼び方をすると、乱暴な言葉遣いにつながりにくくなるのです。
反対に、「おまえは……」「てめえは……」と言ったり、「おい、◯◯!」と呼び捨てにしたりした後には、いくらでも乱暴な言葉が続いていくものです。
もし、友達同士で「さん」「くん」を使うのが難しい場合は、ニックネームを使うことを許容するのも一つの方法です。ただし、ニックネームがいじめやからかい、ふざけにつながるような意味合いを持たないようにするための注意は必要です。
このようにして、子供たちが日々のコミュニケーションの中で、言葉を大切にする文化を築いていくことが重要です。
相手を尊重する言葉遣いを促すことで、いじめの予防にもつながり、より健全で安全な学校環境を実現することができるでしょう。
また、このような取組を組織的・継続的に行うことによって、子供たちの社会的なスキルを育むことにもつながります。
記事のタイトルである「何のために学校のきまりがあるのか」という質問の答えは、「子供たちのため」が正解でしょう。
しかし、髪型や下着の色まで指定する「行き過ぎな校則」が世間で騒がせているように、全く子供のためになっていない学校のきまりが存在していることも事実です。
生活指導部を中心に「学校のきまりは、本当に子供のためになっているのか?」と見直しを図り、常にアップデートしていくことが学校には求められています。
そのためには、日頃から子供や保護者の声を聴くことです。そして、その声を聴いて、ときには学校のきまりを撤廃していく決断も必要だと思います。