実践での協力ミッションの進め方とは【教科担任制 最前線!! 算数専科を楽しもう】⑤
今回は、協力ミッションについてさらに細かく紹介していきます。この協力ミッションの実践は、指導書を120%活用して行っていて、先生が準備するのはジャンプの課題用の問題集4冊(各学年1冊)だけ。大切なことは、アウトプット重視の学びを意識することです。実践でどのように協力ミッションを進めるのか、実際の4年生の単元での板書と併せてお届けします。
執筆/奈良県公立小学校教諭・頃橋真也
目次
協力ミッションを使いこなす
協力ミッションは、スモールステップ型の協同学習で、最後の大きなジャンプ課題(教科書レベルを超えた課題)がある授業デザインです。
では、なぜスモールステップ型にしたのかというと、次のような理由があります。
- 教科書を最大限生かし教師の準備を減らすため
- 学びの効果を最大限生かすため
1については、私の協力ミッションのステップは最後の「ジャンプの課題」以外は、教科書の問題です。つまり、基本的には教師の準備はまったくいらないのです(ときには教具などを準備することもありますが)。そのため、取り掛かりやすく再現性が高いのは言うまでもありません。教材研究をする必要がないということでは決してなく、教科書をベースに課題を設定するということです。
2については、脳をより活性化させるためです。『読書脳』(サンマーク出版)の著者である樺沢紫苑さんは、著書の中で「人間の脳は、自分の能力よりも少し難しい課題に取り組んでいるときに、最も活性化します」と述べられています。理由としては、このときに、ドーパミンという脳内物質が出ていて、ドーパミンが分泌されると集中力がアップするようです。加えて、「課題が簡単すぎたり、難しすぎたらドーパミンはでません」とも述べられています。
この協力ミッションでは、序盤は教科書問題をみんなで解きます。このときに、ドーパミンが出るのは、おそらく学習の下位層の子どもです。これらの児童にとっては、教科書レベルの問題も1人で解くのは難しいからです。一方で、上位層の子どもは、このときドーパミンは出ないと思います。
ステップ後半のジャンプの課題ではどうでしょうか?
おそらくこのとき、最もドーパミンが出るのは、上位層の子どもです。下位層である子どもにとっては、難しすぎる可能性もあります。その場合も、ドーパミンは出ないと思います。
しかし、共に探究することで、深い学びへと進むことは十分可能だと思います。
つまりこの協力ミッションは、教師の準備が少なく、どの学力層の子どもにも深い学びが得られる授業デザインであることが分かると思います。
では実際に、どのようにステップを上っていくのかについて紹介します。
1 ステップを上る条件
子どもがステップを上るには、答え合わせに行く前に、友達と答えを確認するというのがポイントです。ここで、互いに教科書やノートを見せ合い、互いの答えをチェックして対話をします。もしも、答えが同じなら、いっしょに答え合わせをしにいきます。
答え合わせは、教室の前に児童机を設置し、教師の指導書を置いておき、子どもたちが自分たちで答え合わせができるようにしておきます。
もし、友達と教科書やノートを見合い、答えが違うときは、「なぜ違うのか?」ということでさらに対話をします。そして、グループで対話をある程度してから、答え合わせに行きます。
実際に、協力ミッションを始めた頃は、黒板に下記のような掲示物を貼っていましたが、慣れてくると貼る必要はありません。
また、子どもの待ち時間を生まないために、「必須問題」と「早く終わった人用の問題」を作っておきます。練習問題の場合、いくつかをピックアップして必須問題として、残りを早く終わった人用とするのです。
教科書の練習問題は、反復練習をさせるため多めに設定されています。全員がそれらをすべて解く必要はありません。
2 単元末ラスト2時間の扱い方
単元末になれば、子どもはその単元での学び方をかなり理解できるようになっています。
指導書で12時間扱いの単元であれば、
11時間目…これまでの学習を生かせば解ける課題
12時間目…確かめ問題
のように設定されていることが多くあると思います。私は、この単元末の2時間は、できる限り子どもたちに学び方を委ねるようにしています。3・4年生であれば、11時間目では一斉授業(10分間)と協力ミッション(35分間)を組み合わせて、12時間目は協力ミッション(45分間)で授業することがあります。
一方で、5・6年生の場合は、11時間目(45分間)・12時間目(45分間)ともに協力ミッションにして、子どもたちで進めて行くことも可能です。
そこで、単元のラスト2時間については、
「自分で2時間分の学び方を選択して、みんなで100点を目指そう!」
という課題を設定して授業をします。
このときに黒板には、学び方のルートのステップを例として示しますが、この通りに行う必要はないことを子どもに伝えています。
そのため、子どもたちは、ノートに「みんなで100点を取るために( )をする」のように書いて取り組んでいきます。大事なことは、全員が100点を取るために、自分の学び方を選択し、実行することです。
教科書の問題を解き直す人もいます。
まとめの「確かめ問題」を解く人もいます。
計算ドリルで、間違えた問題を解き直す人もいます。
発展的なプリントに挑戦する人もいます。
タブレットを使って、学習ドリル(Qubena)を使って学ぶ人もいます。
黒板を見て、ステップを上っていこうとする人もいます。
すべてが、すばらしい方法だと思います。大事なのは、みんなで100点を目指すということです。分からない問題に直面したときに、「ねぇねぇ、ちょっといい?」というような対話があちこちで発生するような授業をデザインします。それを45分×2コマの90分間で行うことができるのです。
この協力ミッションを単元全体で取り組んでいると、1~2コマ分程度、授業が速く進むことがあります。そのときは、次の単元にすぐに進むのではなく、余った分の時間数を活用して、100点を目指すための学習に充てるときもあります。つまり、普段の学習は協力ミッションでステップを上っていき、単元末では自己進度学習にチェンジするという方法です。
中には、単元すべてを自己進度学習にできる単元もあるかと思います。自分で単元の計画を立て、学習を進めることも可能と思います、しかし、協力ミッションで着実に力を付けていき、単元末の2時間だけ自分で学び方を選択して学ぶ方法なら、教師の準備がそれほどいらないのでおすすめします。
実際に、6年生でこの学び方で授業を進めてみたところ、単元末の業者テストでは、クラスの半分以上が初めて100点を取るという快挙を成し遂げました。6年生では、他学年以上に“協力ミッション”をこなしていくように、授業をデザインしています。
そのため、子どもからは、
〇〇といっしょに勉強メッチャしたから、100点取れた!
6年生になって、初めて表と裏で100点取れた‼︎
と喜びの声を大にして話している子どももいました。自分でこの単元の理解度を考え、どのような学びをすべきか調整することにより、より意欲をもって学ぶことができていました。
このように、各単元で学び方を自己選択できる機会を子どもがもてるような授業デザインが、主体的な学びにつながるのだということを改めて感じました。
実践例 4年生 「小数」
この単元は、指導書では13時間扱いの単元でした。この単元での板書をもとに、どのように協力ミッションを進めたかについて説明します。まずは単元すべての板書をご覧ください。
この単元は、指導書では13時間配当でした。しかし、協力ミッションで授業を進めていくと、授業時間が2時間余りました。
決して急いで授業を進めたということではありません。ただ、子どもたちに委ねる時間をできる限り多くしようとしたことに尽きると思います。このような実践を繰り返して、 “協力ミッション”は一斉授業をメインにしていたときより、はるかに授業進度が速くなることに気が付きました。余った2時間で、「ジャンプの課題(高度な課題)」をしたり、自分で課題を決めて100点を取るための学習をしたりすることができます。
これまでの知識を総動員して、「ジャンプの課題(高度な課題)」に取り組むときの子どもたちは、明らかに生き生きとしています。100点を取るための学習をするときは、自分で課題を選択して学ぶので、学びへの責任感が高まります。
4年生の学級では、3人グループを基本としてこの協力ミッションを進めていきました。実際に、3・4年生の場合だと、3~4人が最も行いやすいと思います。
一方、5・6年生の場合は、2~5人のペア・グループで学習を進めていきました。2人で協力ミッションを行っていると、どうしても行き詰まる瞬間が訪れます。そんなときは、自分たちで他のグループに行って相談するなど、緩やかにつながりをもつようにして、クラス全体で語り合いながら成長する授業を進めていきました。
12時間目の授業は校内研究授業として公開しました。研究討議では、同僚からたくさんの意見をもらいました。
協力ミッションは、ゲーム性があって、自分たちでクリアしていくおもしろさを感じました。「分からへん」と言って、友達といっしょに話し合いながら考えてる姿がよかったです。
グループで、答え合わせに来たときに、間違えた際、「なんで間違えたのかみんなで考えよう!」と言って、ノートを見返して話合いをしているのが、すてきだなと思いました。もし、1人で丸付けをしていたら、きっと次に進もうとしていたんだろうなと思いました。
困っている友達に、丁度よいくらいのヒントを与えようとしているのがよく分かりました。答えを言わないように気を付けて、友達をサポートしているのが印象的でした。
グループで、お互いの答えを確認して答え合わせに行くことにより、互いの考え方を説明し合ってから答え合わせに行くので、説明する力も育っているように感じました。
頃橋真也(ころはし・しんや)
教員歴14年。県の道徳研究会に13年間所属し、道徳の授業作りについて研究を深める。2021年度「第27回日教弘教育賞奨励賞、2022年度「第21回ちゅうでん教育大賞」教育奨励賞、授賞。X(旧Twitter)でも、情報発信中(ro5ro5先生@小学校の先生 @ro5r_o5)。
構成/浅原孝子