「意味のない会話」と「10秒の雑談」|校長なら押さえておきたい12のメソッド #2
新任や経験の浅い校長先生に向けて、学校経営術についての12の提言(月1回公開、全12回)。校長として最低限押さえておくべきポイントを、俵原正仁先生がユーモアを交えて解説します。第2回のメソッドは、職員との距離を縮め、職員室の空気を温める必須アイテム「意味のない会話」と「10秒の雑談」を取り上げます。
執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁
目次
「意味のない会話」をしていますか?
担任時代、反抗期を迎えたお子さんの保護者と学級懇談会で次のような話をしたことがあります。
私「お子さんと会話していますか?」
保護者「もちろんです」
質問は続きます。
私「どんなことを話していますか?」
保護者「夕飯は何がいい?とか、明日は何時に起こしたらいいの?とか……」
さっきより少し歯切れの悪い答えが返ってきました。
もちろん、これも会話には違いありません。ただ、その中身は、自分の家事を効率よく行うための情報収集が目的になっています。だから、このような会話では、いくら回数を増やしたとしても、子供との距離を縮めることはできません。業務連絡的な会話では、距離は縮まらないということです。
私「お母さん、それは情報を収集するための会話ですよね。子供との距離を縮めるのなら、そのような会話ではなく、『意味のない会話』をしてください」
保護者「意味のない会話ですか?」
あまり聞き慣れない言葉に対して怪訝な表情をしています。
私「してもしなくてもいいような何の目的もない会話こそが大事なんです。意味のない会話がお互いの距離を縮めてくれるんですよ」
例えば、部活帰りのコンビニでのだべり、井戸端会議などの会話、居酒屋での馬鹿話なんかもそうですよね。実際、多くの人が意味のない会話をすることで、仲が深まった体験があると思います。
「意味のない会話」を意識的にすることで、距離を縮めることができる
このことは、保護者と子供との間だけではなく、担任とクラスの子供や管理職と教職員との間でも同じことが言えます。特に、校長が先生方に話をするときは、要件や何か目的があっての会話になりがちです。だからこそ、私は普段から「意味のない会話」を意識するようにしています。
例えば、最近、職員室でよくしているのは、推しの話です。誰でも、自分の好きな人やモノについて、興味をもって話を聞いてくれると嬉しくなるものです。
最初は「10秒の雑談」を意識しよう
……と言っても、私も異動して知り合いの先生がほとんどいない状況では、いきなり推しの話をすることはありません。「意味のない会話」は距離を縮める有効な手段なのですが、距離が遠い相手にいきなり「意味のない会話」をすることはかなりハードルが高いミッションだからです。最初から、推しの話のような面白みのある話をする必要はありません。まずは、何の変哲もない次のような会話から始めてみましょう。
おはようございます。
おはようございます。
いい天気ですね。
そうですね。
しばらくこんな天気が続いてほしいですよね。
ほんと、そうですね。
じゃあ。
してもしなくてもいいような……という意味では、これも「意味のない会話」です。ただ、こんなありきたりな会話で距離が縮まるのかと疑問に思う方もいるかもしれません。でも、最初はこれぐらいでちょうどいいんです。時間も10秒もあれば十分です。
つまり、「10秒の雑談」です。
「10秒の雑談」なら、初対面の相手でも、まだ距離が遠い相手でも行うことができると思います。互いの距離を縮めるのに重要なことは、同じ時間、同じ空間を共有すること、そして、その場をプラスの空気で満たすことです。会話の内容は、あくまでもそのための方便にすぎません。だから、最初のうちは短めぐらいの方がいいのです。むしろ、いきなり長々と話し込まれたら、相手に引かれてしまい、距離が遠くなることもあります。とりあえず、笑顔だけは忘れないようにしておけば完璧です。
「意味のない会話」は「10秒の雑談」から始めよう
教頭先生にこそ、「10秒の雑談」を意識して接しよう
私の担任時代の話です。教頭先生に対する態度が、いつも上から目線で威圧的な校長先生がいました。当時、若かった私たちに対してはそうでもないのですが、教頭先生に話しかける言葉がけが、かなりきつかったことを覚えています。自分に向けられていなくても、そのような言葉を聞くといい気分にはなりません。職員室にマイナスオーラが充満していました。また、教頭先生も、その場に校長先生がいなくなれば、愚痴のオンパレード。さらにマイナスオーラは増えていきます。そのうち、私は職員室に戻ることなく、教室で仕事をするようになりました。誰しも、そんな雰囲気の悪いところで仕事をしたくありませんからね。
決して、職員室をこのような状況にしてはいけません。これが「10秒の雑談」を一番意識しなければいけない相手は、教頭先生であるという最大の理由です。他の誰よりも数多く、教頭先生と「10秒の雑談」を行い、職員室の雰囲気をよくしてください。
ちなみに、教頭先生の場合、他の先生方と比べてやりやすい点があります。それは、「職員室の雰囲気をよくするために『10秒の雑談』を行う」という校長の意図を、教頭先生にならあらかじめ伝えることができるということです。
「学校運営上に必要なことなので、協力してくださいね」と念を押しておけば、たとえ相手があなたのことをよく思っていなかったとしても、校長の頼みを無下にすることはありません。学校運営上という大義名分を伝えることで、少なくとも表面上は、「10秒の雑談」にのってくれるはずです。先生方に「校長と教頭は仲がよい」と思わせることさえできれば、最低限のミッションはクリアです。もちろん、本当に仲がいいのが一番です。
余談ですが、子供にとって幸せな家庭というのは裕福な家庭でも親が高学歴な家庭でもなく、親の機嫌が安定的によい状態の家だという話を聞いたことがあります。学校も同じです。管理職2人の機嫌が安定的によい状態だと、先生方も、自分たちの学校は幸せな学校だと感じ、担任の先生の機嫌も安定的によい状態になるはずです。
職員室の空気を温める最重要人物は教頭先生
であることを忘れずに、教頭先生との「10秒の雑談」をがんばってください。
なお、教頭先生との会話が職員室の日常の風景になると、次のような小芝居を打つこともできるようになります。
校長「いやぁ、参ったよ」
教頭「どうしたんですか」
校長「さっき、教育委員会から電話があったんだけど、来年度、多文化共生の指定を受けないかという話が出てきてね」
教頭「それって、研究発表会を公開しないといけないとかあるんですか?」
校長「そういうのはないけど、報告書は書かないといけないらしい」
教頭「でも、それで予算と人がつくならありじゃないですか」
教頭先生相手に話していますが、職員室にいる先生方に話を聞かせることが、真の目的です。先生方が、直接、管理職の話に入ってくることはほぼありませんが、それでも反応を見ることはできます。ときには、「○○先生はどう思いますか?」と、その場にいる先生に軽い感じで話を振ることもあります。このような形でワンクッション置くことで、先生方の思いなどの情報を収集することができます。そこで得た情報を基に職員会議で全体に下ろす際に、どのように話せば効果的であるかを前もって考えておくことができるのです。
これは、完全に目的をもった「意味のある会話」ですが、それも教頭先生との距離が近いからこそできるというわけです。
俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。
俵原正仁先生執筆!校長におすすめの講話文例集↓
【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
管理職のためのZ世代の育て方(明治図書出版)
イラスト/イラストAC