実践事例|上越市立春日新田小学校 「かかわり方スキル」で学校が変わった! 【不登校、コロナダメージを克服するために 今こそ、学校全体で「学級経営」を! #04】

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不登校、コロナダメージを克服するために 今こそ、学校全体で「学級経営」を!
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コロナ禍をきっかけに、小中学校では不登校の児童生徒が急増しています。原因は子供によって様々だとは思いますが、子供が友達とうまく関われなくなり、学校が居心地の良い場所ではなくなっていることが、一因だと言えるのではないでしょうか。そこで、もっと居心地の良い学級、学校にするために、学校が今、すべきことは何だろうかと考えたときに、たどり着いたのは学級経営でした。今、求められる学級経営の在り方について考える4回シリーズの最終回です。今回は、平成23年から学校全体として学級経営に取り組んできた、上越市立春日新田小学校(戸田正明校長、児童数359名)を訪ねました。

上越市立春日新田小学校の戸田正明校長。「私たちが最終的に目指すのは、かかわり方スキルを定着させることではなく、より良い人間関係をつくれる子供を育て、よい学級をつくることです。教職員がこのことを共有することが重要です」と話します。

本企画の記事一覧です(週1回更新、全4回予定)
 提言|赤坂真二 不登校急増の今、学校が取り組むべきことは?
 提言|大村龍太郎 各自治体の教育委員会、学校長(管理職)がすべきことは?
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 実践事例|上越市立春日新田小学校 「かかわり方スキル」で学校が変わった!(本記事)

学校として学級経営に注目したのは12年前

春日新田小学校が学級経営に注目したのは、平成23(2011)年度です。当時は850名以上の児童が通う大規模校でしたが、毎年のように学級崩壊があり、全校集会で6年生がステージで寝そべっていたり、新校舎に卒業生が落書きをして卒業していったりするなど、問題行動が多発していたそうです。

その年の研究主任が研究テーマを学級づくりに焦点化し、その翌年から学校全体で学級づくりに力を入れるという方針を取り、この方針は現在も続いています。

同校ではこれまでに、Q-Uによる分析と学級コンサルテーション、上越教育大学教職大学院の赤坂真二研究室による学校支援プロジェクトなど、様々な実践を積み重ね、教師と子供の関係性や子供同士の関係性を大事にしてきました。

平成30年から現在まで、学校全体で取り組んでいるのは「ステーション授業構想」です。これは赤坂教授が考案したものです。

ステーション授業構想の図

図の中央をご覧ください。この構想の核となるのは、ステーション授業です。ソーシャルスキルトレーニング(SST)や道徳の授業がこれに該当します。

SSTで学ぶのは、「かかわり方スキル」です。これは学級づくりにおいて大切にしたい価値・スキル・態度であり、以下の内容となっています。

①班の全員が話す。
②友だちの話を最後まで聞く。
③あいづちを打ちながら聞く。
④友だちの話をわかろうとする。
⑤時間いっぱい話す。
⑥相手を傷付けない言い方をする。

これらを子供たちは発達段階に応じて、1年生から繰り返し身に付けていきます。

そして、ステーション授業で学んだかかわり方スキルや道徳的価値を、日常生活や特別活動の場面、あるいは学習の場面で活用し、教室に良好な人間関係を構築していくのです。

その間に、子供がかかわり方スキルや道徳価値を身に付け、様々な場面でうまく活用できた姿を見て、教師は肯定的なフィードバック行います。それにより子供は達成感を得ることができます。

図の青い矢印は、道徳的価値の活用を意味し、問題が起きる前に、道徳的価値を共有することでトラブルを未然に防ぐことができるのです。

このステーション授業構想で、かかわり方スキルを発揮する場として位置付けられているのが図の左にあるクラス会議です。

クラス会議とは、子供たちが個人的な悩みや生活上の問題を議題としてクラスの全員が意見を出し合い、解決策を探していく実践です。例えば、「朝、起きられないので、どうすればいいですか?」などの個人的な悩みを議題として、クラス全員がどうすればいいのかを考え、「かかわり方スキル」を使って話し合います。

ただし、クラス会議をすることが目的ではなく、かかわり方スキルを身に付けることが重要なのであり、クラス会議を全クラスで毎月何回やらなければならないなどと決まっているわけではない、とのことです。学年の発達に応じて取組に強弱をつけており、低学年は、SST的な取組のほうが強くなるそうです。

右の交流型学習とは、班活動など、友だちと関わり合いながら学習するスタイルです。

「人とのかかわり方のモデルを学ぶのは、図の中央のSSTや道徳の時間です。そして、心を耕すのがクラス会議であり、学習の場面では学級の雰囲気のよさを生かして、すべての教科での交流型の学習を成立させます」(戸田校長)

今の子供たちの様子は?

ステーション授業構想を始めたのは平成30(2018)年度ですから、今年度は5年目になります。現在、子供たちはどんな状況なのでしょうか。

「ステーション授業構想を始めたのは前校長ですが、当時から現在にいたるまで、子供たちは落ち着いています。かつてのような問題行動は起きていません」と戸田校長は話します。

例えば、高学年になると男子と女子が対立してしまい、グループの活動がうまくできなくなる学級もあるのではないかと思いますが、同校では、学習場面で男女関係なく、課題に一緒に取り組むことができているそうです。

また、同校には、特別支援学級が7つ、発達通級教室が2つ、言語通級教室が1つありますが、支援が必要な子供たちも通常学級のクラス会議に参加します。

「クラス会議は、教科学習では発言できない子供たち、支援が必要な子供たちも発言できる場所です。『あの子はこういう思いや考えを持っているのだ』と分かると、仲間として認め合える雰囲気になりますので、子供たちにとって教室は居心地がいい場所になっています。つまり、『かかわり方スキル』が身に付いてくると、多様性を受容できるようになります

気になるのは、子供たちの学力です。どんな状況でしょうか。

「全国学力・学習状況調査の結果を見ますと、ここ数年は、年によって数値が上がったり、下がったりといった状況です。学級づくりを頑張っているから学力が上がる、とは言えないように思います。それよりも、学年による差の方が大きいのではないでしょうか。学ぶ姿はとても良くなってきていて交流型の学習が行われていますが、知識を問うテストで結果を出すのは難しいと感じます」

子供は以前に比べて落ち着いていますが、課題もあるようです。

「ステーション授業構想によって、最終的には自治的な学級をつくる、主体的に学ぶという方向につなげていきたいと考えています。教員は教室の後ろで見ているだけで、子供たちが自分たちでクラスをつくっていくような、自治的な学級になることを目指していますが、そこまで行けるクラスは少ないのです」と戸田校長は話します。

同校では、子供の主体的な活動や自治的な活動を促すための取組も行っています。例えば、「ふじの実キッズ」という児童会の行事です。「ふじの実」の由来は、校庭にある大きな藤棚が、学校のシンボルになっているからだそうです。

この行事では、2年生から6年生まで、学級ごとに出し物を考えてみんなで準備します。例えば、今年度は、紙で作った魚釣り、ペットボトルのボーリング、すごろく、迷路、SDGsのクイズなどをした学級がありました。

当日は、1年生はお客になります。2~6年生は、学級を半分に分けて、交代でお客になって出し物を見て回ったり、お客の対応をしたりします。そうやって、みんなで校内を回りながら楽しむ行事です。

2年2組は、ペットボトルを使ってボーリングをしました。
4年2組は、机を使って迷路をつくりました。新聞紙をかぶせてあり、その下をくぐって進みます。
5年1組は、すごろくをしました。大きなサイコロをつくり、自分がすごろくのコマになって進みます。

「子供にとって、当日はとても楽しいひとときとなりますが、大事なのは準備段階です。各学級で、みんなで何をやるかを話し合うことから考え始めて、どうやって準備するか、役割分担をどうするかを決めていきますので、主体的で、自治的な活動になっています」(戸田校長)

学級経営の研究が必要な理由

子供たちは、今は落ち着いていますが、戸田校長は常に危機感をもっておられます。

「実際に子供たちを見ると、学級崩壊につながる芽は当然あります。気を許すと、また学級崩壊が起こるかもしれません。やはり安定した学級経営が、安定した学校運営の基盤であるという認識をもっています。

特に、最近は若い教員が増えています。彼らには教育活動への情熱がありますが、学級経営に大きな不安を抱え、悩んでいます」

それに加え、今、この地域で深刻になっているのは、単学級で少人数の学校が増えていることだそうです。そのことにより懸念されることの一つは、人数が多い学級の担任をする機会が減り、人数が多い場合の学級経営の経験が少ない教員が増えていることです。

「例えば、少人数の学級だったら、よい学級をつくろうとして、教員がいつも指示を出せば、うまくいくかもしれません。しかし、子供の人数が多くなったら、いちいち指示を出せなくなります。子供一人一人が好き勝手をし始めて、収拾がつかなくなりやすいのです。それを防ぐには主体的な学びを促し、自治的な雰囲気をつくっていくことが大切です。

毎年、教員の異動がありますから、異動してくる教員のためにも、本校の子供たちの課題に合わせた学級づくりの研究を続けていく必要があるのです

職員間のコミュニケーションを活性化するには

学級経営に学校全体で取り組むことの意義は何でしょうか。

「今、求められているのは、主体的・対話的で深い学びです。その学びを実現するためには交流型の学習をしなければなりません。学級づくりは、交流型の学習をするための素地になります。ただし、学校にはいろいろな子供がいますので、教員が独りよがりの学級経営をすると、うまくいかないことが多いのです。担任一人の判断で行動するのではなく、学校全体でよい学級をつくることを目指し、職員が協力し合うことが重要です

学校全体で一つの研究に取り組むには、やはり職員間のコミュニケーションを活性化する必要があるはずです。同校ではそのためにどんなことをしているのでしょうか。

「本校ではそのために特別なことをしているわけではありません。あえて何かをしなくても、職員間で相談し合えるムードになっているからです」と戸田校長は語ります。

そのようなムードになっている理由は二つあるようです。一つ目は、学校全体として、よい学級をつくること、よりよい人間関係をつくれる子供を育てることが重要であるという、価値観を共有している点が挙げられます。

そのために平成29年度から毎年、年度初めに赤坂真二教授から、ステーション授業構想の話も含めて、学級づくりについての講話を先生たちにしてもらう時間をとっているそうです。それに基づいて、研究主任がこれまでの研究の経緯や背景、具体的な取組について説明をし、足並みをそろえます。これこそが、毎年人事異動で複数の教員の出入りがあっても、校長が代わっても、研究を継続させるコツの一つであるといえるかもしれません。

さらに、異動してきた先生の中には、同校で初めてクラス会議に挑戦する人もいる場合があります。そのために必要なスキルをどのように身に付けるのでしょうか。

「2学期に入ると、赤坂研究室の大学院生が、クラス会議のモデル授業をやって見せてくれたり、あるいは、大学院生が実際に、クラス会議を見て指導してくれたりすることもあります。そうやって、クラス会議に慣れていない先生方が初歩的なところから学んでいける体制ができており、異動してきたばかりの先生も、自分でやってみようと思えるようです」

ときには、赤坂教授がコーディネーターとなって、教職員でクラス会議を行うこともあるそうです。それにより、教職員が子供の立場を体験することになり、それが実践に生かされるのです。

教職員が相談し合えるムードになっている理由の二つ目は、同校には、学級担任以外の職員がたくさんいることです。先述したように同校には特別支援学級が7つ、発達通級が2つ、言語通級が1つあります。当然、学級担任ではない、専門性の高いスタッフも学級経営の研究に関わってきます。その人たちとやりとりをする中で、他校から異動してきた教員たちも、専門性を生かした意見を聴くことの重要性に気づくそうです。

「もしも学級経営がうまくいっていない学級があれば、みんなでどうしたらいいかと、知恵を絞ります。例えば、『この子について、こんなことがあってね』などとエピソードを共有しながら、『こう関わったらどう?』などのアドバイスをし合います。こういったことが自然に行われています。相談しなければ動けません。これはつまり、先生方が学級づくりに真剣に取り組んでいるからこそ、だと思います」

前校長の取組を継続していく

学校全体で取り組んでいるステーション授業構想は、前任の校長先生から引き継いだものです。この取組を継続したのはなぜでしょうか。

「本校で取り組んでいるステーション授業構想は、完成形だと私は思いますので、変える必要はないと思っています。

もしも学級経営の研究に取り組みたいと思っている校長先生が、新しい学校に着任したときに、前任の校長先生が進めてきた研究などがあったとしたら、それがよいものならば継続していいと思うのです。

例えば、教科の研究をしてきた学校があるとしたら、その教科の授業では交流型の学習をすることが求められるわけです。その素地になるのは学級づくりです。ですから、今までしてきたことを大事にしながら、学級づくりに取り組むことは可能です。

おそらく今は、学級経営に課題を感じている学校が多いのではないかと思います。そのような学校では躊躇せずに、学級経営の研究に取り組むべきだと思います。土台がよくなれば、その上にくる様々な取組もうまくいくからです」

ただ、新しいことを始めようと思ったら、問題なのはどうやってそのための時間を生み出すかです。そのために戸田校長はカリキュラムマネジメントに取り組んでいます。

現実問題として、クラス会議が子供によい影響を与えると分かっていても、毎週行う時間を確保するのは難しいのではないでしょうか。同校の場合は、全校でクラス会議を行ってはいますが、回数は学級、学年によって異なります。

「例えば、6年生の学級活動は一年間に35コマあります。その中で修学旅行の事前学習、人権学習、講演会なども行う必要があります。だからこそ、本校では、追加する教科的活動の時間数を綿密に計算し、教科の方にうまく組み込むようにして、クラス会議の時間をつくりだしています。大事なのは1年間のバランスを取っていくことであり、管理職のカリキュラムマネジメントが求められると思います」

取材・文/林 孝美

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