「多くのチャンネル」と「匿名性」を確保し、子どもが安心できる社会を【連続企画 多様化する選択肢 令和時代の不登校対策 #08】

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2022年度の不登校ならびにいじめ認知件数は過去最多となった。このデータを、学校リスクの研究を行う内田良氏はどう見るのか。また、子どもを辛さから救うために、大人・学校ができることについて伺った。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科教授 
内田 良

1976年福井県生まれ。学校リスク(スポーツ事故、組み体操事故、転落事故、校則、「体罰」、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の研究を行う。著書に『学校ハラスメント』(朝日新書)『ブラック部活動』(東洋館出版社)『教育という病』(光文社新書)などがある。

この記事は、連続企画「多様化する選択肢 令和時代の不登校対策」の8回目です。記事一覧はこちら

不登校過去最多のデータをどう見るか

不登校の件数が0件だとしたら、それはそれで気持ちの悪い社会です。不登校者数が増えているということは、ある程度学校から離脱しやすくなった結果であるといえます。子どもが学校に行きたくないとなったとき、保護者がそれを受け入れられる土壌もできてきました。その大きなきっかけは、2015年、内閣府が18歳以下の日別自殺者数を発表したこと。春休み明け、ゴールデンウイーク明け、そして、特に9月1日が飛びぬけて自殺者数が多いというデータに、当時子ども問題に関わっていたみなさんが驚かれたことと思います。学校のしんどさが可視化されたことで、学校に行きなさいという圧力をかけてはならないという理解が少しずつ広がってきました。

しかし同時に、離脱しやすいということは、離脱したくなってしまう空間とも言えるわけで、学校が息苦しい空間であることも示しています。

私は学校の校則の問題について取り組んできましたが、振り返ってみると、子どもたちの悩みの抱え方も変化してきました。1980年代頃は、子どもたちが外に向けて攻撃性を発揮していた時代でした。窓ガラスを割ったり、教員に殴りかかったりして、自分の感情を発露していた。それを厳しい校則で抑え込むということをやっていたわけです。では、今の子どもたちがどうかというと、学校で暴れることはかなり減りました。むしろ、学校で暴れるくらいだったら、自分から学校から離脱していく、さらにはこの世から離脱するという傾向が強くなっており、良い状況ではないと考えています。

仮に、自殺の件数が低い水準で留まっていて、不登校の件数が増えているとしたら、学校への登校圧力のみが小さくなったとして、ややポジティブに捉えられるかもしれません。しかし、自殺の件数も増えていることを鑑みると、学校から離脱する傾向が強まっているということを、注意深く見ていかなければならないと思います。

不登校の原因は人間関係、集団性の問題など様々

不登校の原因としてまず挙げられるのが、いじめによる子ども同士の人間関係です。また、教員との関係が原因になることもあります。しかし、教員が原因になったとしても学校側が認知しにくい現状があります。というのも、学校調査と、不登校の子どもの本人調査を比べると、不登校の理由に教員との関係と回答する割合は、後者のほうがぐんと増えるのです※。

それもそのはずで、やはり教員は、自分自身が原因だとは考えにくいわけです。しかし、子どもからすれば、先生の「あのときの一言」がきっかけになったかもしれません。あるいは、いじめが起きたときに、先生が加害者側に加担したと思われてしまうことがあるかもしれません。また、学校での学業成績の不振に、保護者からのプレッシャーが重なった結果の不登校もあります。

校則が厳しくて合わなかったり、例えばズボンを履きたいのにスカートを強制させられたりして、学校に行けないこともあります。さらに広く言うと、学校で求められる集団性—いろいろな場面でみんな一緒—を求められることに息苦しさを感じることもあります。これらは不登校だけではなく、いじめの原因としても考えられていますが、人間関係が濃いほどトラブルは起きます。このように、人間関係の濃さの問題、集団性の問題など、複合的な原因が考えられます。

※「平成18年度 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」と「平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書」を分析・比較

「チャンネルの多さ」と「匿名性」が重要

2023年3月に発表された「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」に関して、いじめ・不登校対策の視点から言えることは、「チャンネルを広くしておく」ということです。つまり、担任の教員以外、あるいは学校外とのつながりを多くするということです。

教科担任や部活の顧問、普段は関わりのない教員、教員以外の養護教諭や校長など、子どもがいろいろな大人と接することができるように「チャンネル」を増やしつつ、カウンセラーなどの専門家も配置することが必要です。不登校やいじめに対応する専門スタッフを取り入れている地域もあります。さらに学校外の相談機関などにも子どもがアクセスできる仕組みを担保することが重要です。

ここで欠かせないのが「匿名性」です。匿名性がないと、子どもは委縮して相談しづらくなります。特に不登校の場合、その理由として教員が関わっていたり、子どもが教員に本当のことを言いづらかったりということも考えられます。そのため、不登校の兆候を把握するにしても、誰の元に情報が集まるのかをしっかりマネージしないと、事態が悪化する可能性があります。この点をしっかり議論すべきだと思います。

いじめ認知件数の増加は掘り起こしが進んだ結果でもある

いじめ認知件数も過去最高となったことに関して、いじめ事例の掘り起こしが進んでいるという点では、ポジティブに捉えています。不登校とは違い、いじめの認知件数は実際のいじめの件数とは異なるため、掘り起こしが進むことで、だんだん実際の件数に近づいていくという推測がなされます。

もちろん事例があること自体は非常にネガティブですが、ここ数年はまず、すでにある事例そのものを可視化している最中だと考えます。まだまだ掘り起こしできていないものもあると思いますが、ひとまず認知件数が増えてきたことは良いことだと思います。

これからの重要テーマ①いじめ加害者への対応

「いじめ加害者への対応をどのように変えていくか」。私の中で、これから20年、30年考えていかないといけない、大きなテーマです。

これまで、いじめ被害者をどのように助けるかという議論は活発になされてきました。登校圧力を高めず、不登校特例校を開設したり、転校しやすくしたり、フリースクールで授業を受けると出席扱いにしたりするなど。それは当然大切なことです。しかしその結果、加害者が学校に居続ける仕組みができてしまいました。これは、やはり根本的におかしい話であり、加害者が離脱する仕組みこそ、積極的に作っていかなければならないと思います。

被害者のオルタナティブ(代わりの選択肢)を設けるだけでなく、加害者のオルタナティブを作っていくべきです。現在、加害者が離脱する仕組みとしては、警察に突きつけて、少年院に入ってくださいという極端な方法、あるいは出席停止という制度的に非常にハードルの高い方法しかありません。

そこに様々な方法を増やし、加害者が学校を離脱し、専門的なケアを受けるという仕組みを整えていく必要があると考えています。それは、今いじめの問題を丸抱えしている教員の負担を減らすことにもなります。教員はあくまでも授業を中心にし、専門的な対応が必要な場合には専門家が対応する。加害者とされる子どもも、考え方を直すことができれば、学校にまた戻ることもできる。このようなオルタナティブをいかに作っていくかということです。

学校内で言うと、スクールカウンセラーやスクールロイヤーの整備・増員が必要です。また、自校の授業をオンラインで受けられるなど、何らかの形で学習活動を続けるという形を模索すべきです。加害者が学び続けながら、自分がしたことを反省し、だから自分は学校から切り離されているんだ、と認識できるようにしていかなければならないと思います。

加害者が変わらず学校に居続けられるというのは、言い換えると、自分の罪を認識できない可能性があるということです。私は決して厳罰化を提案しているのではなく、子どもにより適切なケアを施していくという点で議論されるべきだと考えています。

これからの重要テーマ②家庭がしんどい子どもたちの支援

これまで、不登校に関する言説には、「学校から離れて、家庭で安全な日々を過ごす」という考え方がよく見られました。しかしこれには、「家庭そのものがしんどい子どももいる」という観点が抜け落ちています。私が調べたデータでは、学校に行きづらい子どもほど家庭に居場所がないと回答しています。

「2018年4月~2019年3月について、家の中に居場所がないと感じるときがありましたか?」に対する回答(登校/仮面登校/部分登校/不登校別の回答) ※内田氏が分析・作図

子どもが辛さを抱える経緯としては、家庭での親との関係がしんどく、その上で学校の成績が落ちてしまい、さらにいじめを受けて…というように、学校・家庭間で連続していることもあります。しかし、そこでクローズアップされるのはいじめのみ。あたかも、その子が辛いのはすべていじめや学校が原因であったかのようにされてしまうのです。

もちろん、家庭で救われる子どももいます。しかし、家庭が苦しくて、学校も苦しくて、最終的に命を絶ってしまう子どももいます。課題を縦割りで考えるのではなく、子どもが何に苦しんでいるのか、子ども目線で分析していくことが必要です。

時には、家庭が苦しいことを学校の先生に話して、救われることもあります。家で親がご飯を作ってくれないため、先生がこっそりパンを買ってあげる。そういったことを、先生が隠れてやらざるを得ないわけです。本来なら公的な第三の居場所がもっと増えていくべきで、まだまだ議論が必要だと思います。

子どもの命を守るために

ある子どもが自ら命を絶ったあとに、「まさかあの子が」と言われることがあります。大人もそうですが、子どもも学校では元気な自分として振る舞うんですね。しかし実は大きな苦しみを1人で抱えていて、最後に自ら命を絶つということがあるわけです。だんだん顔が青ざめていくわけではなく、直前まで笑顔で。そのような話を聞いたときは、本当に胸が苦しくなります。

どのようにして子どもの声が大人側に届くようにするのかは、非常に重要な課題であり、やはり、先ほどの「チャンネルを多くする」という答えにたどり着きます。そのチャンネルには、対面の会話だけでなく、電話やチャットでの相談窓口も該当します。今の若い世代は文字でのコミュニケーションに慣れていますから、文字で相談できる方法があるのは良いことです。この点に関しては外部のNPO組織などの方が得意です。

学校外にもチャンネルがあるということを、子どもの目に付くところで告知を徹底し、相談したい子どもの目に留まるようにしていただきたいです。1人で抱え込まずに気持ちをふっと吐露できる機会をたくさん作っていかなければならないと思います。

子どもが悩みを話せる雰囲気づくりも大切です。例えば、夏休み明けの子どもたちに「夏休み楽しかったね」と言うのと、「しんどいと思っている子がいたら話してね」と声かけをするのとでは、かなり違います。私自身、大学生から相談を受けることがありますが、それは私の普段の発言から、「内田なら聞いてくれるだろう」と思ってくれているからでしょう。

立派に見える先生だってしんどいときはあるし、家庭が誰にとっても居心地のいい場所だとは限らない。理想像だけを掲げるのではなく、大人もときに失敗し、また、悩むのだということを子どもに伝えていくのも大切なことだと思います。

取材・文/橋本亜也加(カラビナ)

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