くりあがりくりさがりに「さくらんぼ計算」が良い4つの理由

香里ヌヴェール学院小学校 教諭兼研究員

樋口万太郎

算数が好きになるか嫌いになるか。それは、1年生の「くりあがり・くりさがり」の授業にかかっているといっても過言ではありません。そこでよく学校で指導の際に使われる「さくらんぼ計算」ですが、保護者にとってはなじみがなく、「なんでこんなことをやっているの?」と思う人も少なくありません。教師として、ブレのない芯のある授業をするために意識しておきたいことを伝えます。

執筆/京都教育大学附属桃山小学校教諭・樋口万太郎

さくらんぼ計算例

「さくらんぼ計算」は目的ではなく手段です!

保護者からのカキコミ

さくらんぼ計算が難しい。ふつうに計算したほうが楽。

うちの子、答えは出せるのにさくらんぼ計算ができない。

さくらんぼ計算ができなくても、暗算できたらいいんじゃないの?

さくらんぼ計算ができていないと、答えが正解でも△をつけられた。

この時期になると、SNS上には、お子様の宿題を見られている保護者の方による上のようなカキコミが散見されます。「さくらんぼ計算」に対する批判や悩みです。学習指導要領では、「さくらんぼ計算」という言葉は出てきません。しかし、計算の仕方を考えたときにそれを視覚的に表したものが「さくらんぼ計算」であり、とても便利な、優秀な計算の方法です。

しかし、こういったカキコミが増えます。「ただのカキコミでしょ? 気にすることないよ」と終わりにするのではなく、このカキコミについて考えることで、さくらんぼ計算以上に大切なことである「子どもたちの高学年につながる算数の力」に気づかせてくれることになります。

さくらんぼ計算って、どうして難しいの?

さくらんぼ計算をどうして子どもは難しいと感じるのでしょうか。私は次の4つが原因だと考えています。

① 「手段」のはずが「目的」になっている。
② さくらんぼ計算の仕方と子どもたちの頭の中のイメージが結びついていない。
③ さくらんぼ計算を使いたいという必要感がない。
④ 10の合成・分解やこれまでの学習が定着していない。

次からはそれぞれについて説明していきます。

さくらんぼ計算は手段のひとつ

くりあがりやくりさがりの計算の授業で多いのが、さくらんぼ計算ができるようになることが『目的』となっている授業です。また、さくらんぼ計算をするための手順を覚えることが『目的』となっている授業もあります。しかし、さくらんぼ計算は、あくまで答えを求めるための『手段』なのです。さくらんぼ計算はあくまで『手段』。そう考えると、

・暗算で求める子
・絵や図をかいて求める子
・指を使って求める子
・ブロックを使って考える子

がいてもよいのです。どの方法も認めてあげることが大切です。「そうは言っても、さくらんぼ計算ができないと・・・」と思われる方もいるかもしれません。しかし、これらのことを認めることが、結局はさくらんぼ計算ができるようになることにもつながります。「急がば回れ」です。

また、さくらんぼ計算を含め、どの方法でも「できる」ようにしておきたいものです。なぜなら、子どもたちの、

①自分で手段を選択する力

を育てたいからです。

問題について考えるとき、自分で考えた手段が通用しなかったとき、他の手段で考えてみる。このような姿を高学年では求めたいものです。そのために1年生のこれらの単元で手段を選択させることも大切です。

例えば、指を使って求める子がいたら、「次の問題はさくらんぼ計算で考えてみよう」と別の手段で考えてみようと提案してあげることも有効です。さまざまな手段を使うことで、

②さまざまな手段が使える力

を育てたいからです。

さくらんぼ計算をする必要感

こういう子に出会ったことはありませんか? 

「えー?めんどうくさい」「暗算でできるもん」

こういう子にさくらんぼ計算を使いたいという必要感がありません。答えを求めるという目的を達成してしまっているからです。

暗算でできる子も認めると書きました。だから暗算や違う方法で解決する子には、「本当にその答えで合っているのか、見直しをさくらんぼ計算でしてごらん」「どうして5になるの? 友達に説明できるかな?」といったように伝えるだけで、「必要感」が出てきます。答えを出すためにさくらんぼ計算をしている子、見直しをするためにさくらんぼ計算をしている子。目的は違いますが、「さくらんぼ計算」をしていることになります。

個に応じた言葉がけをすることで必要感が生まれてきます。

絵や図がかけるようになっていますか?

先ほど、「絵や図をかいて求める子」と言いましたが、1年生から絵や図をたくさんかかせておきたいものです。なぜなら一年生の算数は数も小さく、具体的にイメージしやすい数値で設定された問題だからです。中学年になると分数や小数が出てきて、抽象的な問題になっていき、イメージしにくくなります。

また「絵や図をかきなさい」という一言で、最初から動きだす子はほとんどいません。最初は先生の指示のもと、一緒に同じ絵や図をかくことが大切です。

単元の最初には丁寧に取り組ませたいものです。これまでブロックやおはじきを使っており、絵や図をかいてこなかったクラスでもすぐにかけるようになります。

テストをするとき、ブロックやおはじきを使いながら、考えることはできません。ですからブロックやおはじきに代わる、「考えるための手段」が絵や図になります。

くりあがりのたし算で次のような問題があったとします。

おまんじゅうが9個あります。
3個買ってきました。
全部でおまんじゅうは何個でしょうか。

まずは「9個のおまんじゅうを下のようにかきます」そして、「実はこのおまんじゅうは10個入りの箱に入っています」と言いながら、四角で囲みます。

10個入りの箱に入っている9個のおまんじゅう

次に、「『3個買ってきました』は、外におまんじゅうを3個かきます」と伝え、下のようにかきます。

9個のおまんじゅうが入った10個入りの箱の外に3個おまんじゅうが置いてある

「絵や図をかきなさい」と言われると「難しい」と思う子どももいるかもしれませんが、一緒にかいていると「簡単だ!」とどの子も思うことでしょう。ここまでかいておき、「さておまんじゅうは何個でしょうか。絵にかきこみながら、考えてごらん」と伝えることで、1個ずつ数える子もいれば、下の絵のように3個のうちからおまんじゅうを1個移動して、箱の中を10個にし、10と2で12と求める子もいます。先行学習や暗算が得意な子たちも、「絵をかきこみながら」と伝えていることで、絵を使って考えるようになります。

9個のおまんじゅうが入った10個入りの箱の外に3個おまんじゅうが置いてある状態で、1個箱に入れて合計を計算する方法

次の問題で、

おまんじゅうが8個あります。
3個買ってきました。
全部でおまんじゅうは何個でしょうか。

おまんじゅうが9個あります。
4個買ってきました。
全部でおまんじゅうは何個でしょうか。

といった1問目と似ている問題を提示し、絵や図をかかせます。1問目と似ているため、どの子も絵や図をかくことができます。自分で絵や図をかくことが「できた」という経験をくり返すことで、

③絵や図をかくことができる力

を育てたいのです。

絵や図をかける。使って考えることの大切さ

先ほど考えた問題の式、絵や図、さくらんぼ計算を関連づけると下の図のようになります。

おまんじゅうの絵と数式を関連づけて考える

9+3を求めるための過程が見えてきます。さくらんぼ計算を難しく感じる子は、この思考過程が関連づいていません。

絵や図をかくことは、思考過程を明らかにすることができます。また絵や図をかかせることは、立式するための手助けにもなります。また説明するときに絵や図をかき、それらを使いながら相手に説明することで、自分の考えを相手に伝えやすくなります。またさくらんぼ計算の手順を忘れていても、自力で考えることができます。

高学年になると、問題を見たあとにすぐに「わかりません」と言う子がいます。この子は「どう考えたらよいのか」がわからないのです。「わからない」と思ったときに、絵や図をかくことで、問題をイメージすることができます。低学年は絵や図ですが、これがテープ図や数直線へと変化していきます。絵や図を自由にかけるようになることは、高学年につながる算数の力です。このことを意識せずに、ただ「さくらんぼ計算」をするという目的だけの授業では、高学年になったときに子どもが苦労してしまいます。

「暗算ができる」ことは欠かせないもの

絵や図をかいたり、さくらんぼ計算について考えたりすることは、過程についてです。この過程について「わかる」ということは大切なことであり、楽しさもあるのですが、それ以上に一年生の子たちは「できる」楽しさのほうが実感しやすいものです。「問題ができる」「計算ができる」「暗算ができる」といった「できる」楽しさを実感するためには、反復練習は大切です。これからの計算の単元では、

④暗算ができる力

は欠かせないからです。だから、家庭学習以外にも授業の開始5分や朝の会やちょっとしたすき間時間に日々反復練習を行いたいものです。

また、やらされている反復練習より自分から進んでする反復練習のほうがはるかに力がつきます。そこで算数ゲームや自作のワークシートを使用しています。

【ゲーム】
ゲームは子どもたちが楽しみながら取り組むことができます。10の合成・分解やこれまでの学習の復習になるようなゲームを次の項目で紹介しています。

【ワークシート】
まだ計算の仕方が定着していない子には問題数が多いだけで、意欲がなくなってしまいます。だから、

・5問
・短時間で取り組めるもの
・子どもたちが取り組んでみたいと思える

ということを意識して計算練習ワークシートを作っています。この2つを意識して作ったワークシートを紹介します。

計算プリント1
クリックすると別ウィンドウで開きます

左の部分は教師があらかじめ提示しておきます。右の部分は自分で問題を作成させます。そして友達とワークシートを交換し、問題を解きあいます。答え合わせは自分で行い、そのときには、「さくらんぼ計算」をさせます。

計算プリント2
クリックすると別ウィンドウで開きます

上のワークシートは、毎日タイムを計り、1週間分を記録することができるものです。子どもたちはタイムが少しでも速くなると意欲が高くなるものです。ゲーム性をもたせるために上からスタートする日や下からスタートする日があります。
 
①~④の力を育てることが、高学年につながります。ぜひ、これらの4つの力を育てていってください。

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●アメリカ国立訓練研究所発、効率的に学習定着率を高める方法とは?→小一算数 ペアワークで「子どもが教える」ことで定着する

イラスト/沼田健

『小一教育技術』2016年10月号より

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