教師の「発問」アップデート|この発問、何かと何かを比較する発問にできないかな?【中野裕己の授業技術アップデート01】
『小学校国語授業アップデート』著者で、国語科(読むこと)、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による新連載!「発問」「教師の“ポジショニング”」「価値付け言葉」「問い返し」「ICT活用」「話合い活動」「授業準備」の7つの柱をテーマに、“明日から”できて“ずっと”役立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。
第1回目のテーマは、《子供が「考えたくなる」発問① 比較》です。
執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己
目次
「授業技術」とは
はじめまして。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。
もしかすると、この記事をお読みの先生の中には、国語科の研修会等でご一緒したことのある方もいらっしゃるかもしれません。主に国語科の指導法、ICT活用、対話指導について実践、発信をしております。
こちらの「みんなの教育技術」では、『明日からできる! 授業技術アップデート』と題して、教師の授業技術について発信させていただきます。
授業技術とは、授業中に駆使する教師の技を指します。具体的には、「発問」のような指導言から「立ち位置」のような微細な動きまで、多岐にわたります。
“明日からできる!”を大切に、みなさんの教室のお役に立てるような技を紹介したいと思っています。
“願い”なき技術は、響かない
さっそく今回紹介する授業技術にうつりたいところですが、その前に……。
私の紹介する授業技術が、みなさんの教室のお役に立つために大切なことは、その授業技術に込められた“願い”をご理解いただくことだと考えています。
それは、「“願い”なき技術は、響かない」からです。つまり、子供たちに「このように学んでほしい」という願いのないまま、授業技術の形だけをまねたとしても、その効果が十分に発揮されることはないということです。
私が今後紹介していく授業技術には、その全てに以下の3つの願いが込められています。
●【授業との出合い】どの子供も、教室で起きていることを経験できるように。
●【他者との出会い】どの子供も、誰かとつながれるように。
●【教材との出合い】どの子供も、教材とつながれるように。
願いを知ることで、授業技術を起動するタイミングが変わります。さらに、授業技術を起動した後の支え方も変わります。ぜひ、この3つの願いを受け取っていただいた上で、紹介する授業技術を取り入れていただければと考えています。
それでは、今回アップデートする授業技術である「発問」の話にうつりましょう。
【Before】この発問、子供にとっては難しい!?
まずは【Before】ということで、アップデート前の発問——やってしまいがちだけれど、実は子供にとっては難しい発問——を挙げます。
「〇〇なのは、どうしてですか?」
「◇◇は、どのようにすればよいですか?」
いわゆる「どうして」「どのように」を問う発問です。一見して、何の問題もなさそうに見えますよね。では、もしもみなさんが、次のように「どうして」「どのように」を問われたら、どう感じますか?
「あなたが学校の先生になったのは、どうしてですか?」
「より良い授業づくりは、どのようにすればよいですか?」
いずれの場合も、「ちょっと時間をください…」と言いたくなるのではないでしょうか。
それもそのはず、「どうして」「どのように」は、大変範囲の広い問い方だからです。様々な情報が頭に浮かんでくるので、大人でも整理の時間が必要になるのです。
「それじゃあ、整理の時間をとればいいじゃないか」となるのですが、整理に必要な時間には個人差がありますし、そもそも時間があっても整理が難しい子供もいます。そんな子供たちは、真っ白なノートを目の前に固まってしまったり、教科書のどこかに書いてあったことをそのまま抜き出したりするしかないのです。
これでは、私が“願い”のひとつとして述べた【授業との出合い】ができているとは言えません。
【After】発問アップデート① 比較の要素を入れる
そこで、発問アップデートとして紹介するのが、比較の発問です。
「〇〇と◇◇の似ているところは、どこですか?」
「〇〇と◇◇の違うところは、どこですか?」
このように、考える対象を指定して、似ているところ、または違うところを問う発問です。この発問は、「どうして」「どのように」と比べて、次の2つの良さがあります。
1. 考える対象とする範囲(〇〇と◇◇)が指定されている
1点目は、何を情報として扱えばよいかが明確になっているということです。
したがって、教材のどこを手がかりにすればよいかが分かるのです。国語科の物語文であれば、「1場面と2場面の似ているところは、どこですか?」と問われれば、どの子供も「1場面と2場面を見ればいいんだな」とわかります。
2. 考え方(比較)が明確に示されている
2点目は、扱う情報を使ってどう考えるかが明確になっているということです。
したがって、教材から得た情報をどう整理すればよいかがわかるのです。先程の国語科の物語文の例、「1場面と2場面の似ているところは、どこですか」であれば、どの子供も「1場面と2場面の同じ言葉を見つければいいんだな」「1場面と2場面の似た意味の言葉を見つければいいんだな」とわかります。
ちなみに先程の【Before】で、この記事をお読みのみなさんに向けて問いかけた「どうして」「どのように」の発問は、比較の発問に変換することが可能です。
どうして発問「あなたが学校の先生になったのは、どうしてですか?」
→比較の発問「学校の先生と他の職業との違いはどこですか?」
どのように発問「より良い授業づくりは、どのようにすればよいですか?」
→比較の発問「良い授業と良くない授業の違いはどこですか?」
……ということで、ズバリ! 今回の発問アップデートは、
と、いうことになります。
明日の授業づくりで、発問を考えるときの参考にしてくださいね。
次回のテーマは、《教師の“ポジショニング”》です。どうぞ、お楽しみに……!
【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。
[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める!ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)
X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp
教師の授業技術を「タイミング」を中心にまとめた中野先生の新刊『授業はタイミングが9割』も、ぜひお読みください。
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