子どもの事実から「人権」を視点に、学校づくりを問い直すときです! 【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #9】
不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。
第9回は、<子どもの事実から「人権」を視点に、学校づくりを問い直すときです!>です。
大人同士が対立している場合ではない
最近、学ばせていただいた二つの教頭研修のことから伝えます。一つは自主的に参加する研修で、もう一つは決められた研修です。自主的に参加される研修では、「研修観」を変えましょうと、みなさんが自分の言葉で語られ、グループごとの対話も盛り上がりました。二日後の決められた教頭研修では同様の問いに対し、対話の時間を作ったものの、誰も自分から語ろうとされません。みなさん、微妙な表情で黙っておられるのです。これまでには経験したことのない空気でした。実は、学校現場で不祥事やトラブルをめぐる訴訟や問題が続出しているとのことで、教育委員会と学校現場のリーダーたちが対立をしているとのことでした。
事情を知って納得してしまったのですが、とても残念な事実です。
今は、「不登校」が約30万人、1年間に400人を超える児童生徒が自ら命を絶つというこの事実を突きつけられている学校現場です。子どもの周りのすべての大人たちが手をつないで、誰一人命をなくさない学校づくりをしなければならないときです。学校も保護者も地域も教育委員会もみんなで何とかしようとつながるときです。大人同士が対立している間は、子どもが困っています。それは、困っている子どもを観ようとしないからです。「不登校・いじめ・暴力行為」が過去最多と報告された今です。子どもの事実から「人権」を視点に「すべての子どもの学習権を保障する」学校をつくることに集中するときです。
ある生徒のメッセージ
高校2年生の生徒のメッセージです。読者のみなさん共有してください。
学校という牢獄に通うということ
何も悪いことをしていないのに刑務所行きだと言われること
「みんなと同じようにして学校にいなさい」と言われること
ほとんどの人にとって学校が刑務所でないからこそ気軽に言えること
当事者からするとありのままの自分を真っ向から否定される場所
「人に迷惑をかけるな」「周りと同じようにしなさい」
ありのままの自分でいることの罪を償えと言われているような
暗くて重いプレッシャーを背負いながら、学校に通い続けることがどれだけ難しいか
そのストレスはなにも学校に行かなくなったからといって消えるものでもなく
一人一人の意識から変わっていかないとしんどい子はいなくならないと思う
2022. 11.(N)
みなさんには、この生徒のメッセージのどの言葉がささりますか? 私には以下の部分がささりました。
そのストレスはなにも学校に行かなくなったからといって消えるものでもなく
一人一人の意識から変わっていかないとしんどい子はいなくならないと思う
この言葉は小学校の6年間が終わってしまってから、どんなに取り戻そうとしてもできないことだと、このストレスは大人になっても持ち続けていかなければならないことを余儀なくされるのだと聞こえます。
学校現場には、評価・指導・学力などその中で山ほどの仕事が降ってわいてきますが、仕事の優先順位をつけませんか。100の仕事の2番目から100番目までを「働き方改革」と言われる中でどれだけ頑張っても、1番目ができなければ負のスパイラルが増すばかりです。逆に2番目から100番目までできなくても、1番目さえできれば「学校は楽しい学びの場」になります。その1番目は「人権」を視点に、学校のあたりまえを問い直すことです。
「人権は空気」
大空小では「正解のない問いを問い続ける」ことを目的に「全校道徳」の授業をカリキュラムに入れました。ある日の問いは「人権って?」です。1年生から6年生までが一人ずつ入って編成したグループで対話します。大人は大人のグループで対話するのですが、この時ほど子どもと大人の言葉の違いを痛烈に学んだことはありませんでした。大人たちは「人権とは○○」スマホで調べると出てくるような正解を語りました。
ところが、半数ほどの子どものグループは「人権って空気だよ」「人権は空気」と語るのです。
理解できない大人が「どうして人権が空気なの?」と質問しました。すると、座っている子どもたちの誰もが口々に「だって空気がなかったら、人は死んでしまうよ」と言ったのです。
子どもを主語に「人権」を語ると、「空気をつくる」ことだったのです。そのときから、「空気をつくろう!」が合言葉になりました。気づくと、指示・号令・命令の言葉はなくなりました。
子どもが吸う空気(環境)をつくる
この頃から常に子どもを主語に学校のあたりまえを問い直し始めました。すべての子どもが吸える空気を学校に充満させるのです。「人権」を視点に問い直すことがブレなければ、次から次に捨てるものが見つかりました。すべての子どもが吸える空気をつくるために、悪しき組織文化を問い直し、全教職員で最上位の目的を合意しながら、捨てていきました。
組織にあってはならない3つのもの
「ヒエラルキー」を捨てたら「すべての人が当事者」が生まれました。
「前例踏襲」を捨てたら「創造」が生まれました。
「同調圧力」を捨てたら「みんな違っていることが当たり前」が生まれました。
子どもの事実から「人権」を視点に常に職員室での雑談を重ねませんか。
「誰一人死なせない」との覚悟を持って!!
1 今こそ、学校、保護者、地域、教育委員会がつながるとき
2 学校が子どもにとって牢獄になっている現実を受け止める必要がある
3 仕事の優先順位の1番目は「人権」を視点に、学校のあたりまえを問い直すこと
4 人権とは、空気(環境)をつくることである
5 すべての子どもが吸える空気を学校に充満させよう
木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。