毎朝、登校するのが楽しくなる!教室入り口にかける「のれん」のススメ

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大阪府公立小学校教諭

松下隼司

学年が上がるほど、「おはようございます!」と元気に言って教室に入ってくる子どもが減ってきます。子ども一人ひとりの特性や、家庭の事情、放課後の過ごし方、睡眠時間の違いもあるとはいえ、子どもたちに挨拶の指導をするのは、教師として大切なことです。でも、無理やり感の強い力技の指導ではなく、子ども一人ひとりを理解する姿勢が大切だと松下先生は言います。そこで今回は、松下先生が小学6年生を担任したときに取り組んだ、「子どもたちが元気に楽しく教室に入ってこられる工夫」を紹介します。

指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司

劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。

【1】子どもたちに、朝、挨拶をしない理由を聞いてみる

日々の授業が楽しく、学級に安心感と満足感があれば、自然と挨拶も良くなってくるものです。

若手教師だった頃の私は、このことを分からず、子どもの事情関係なしに、ただただ、

「声が小さいよ!」
「元気に挨拶をしなさい!」
「大人になったとき、挨拶ができないと困るよ!」
「先生より、元気な声で!」

などと言って、元気に挨拶することを強制していました。

思い返せば、短絡的な指導でした。

子どもたちに挨拶の指導をする前に、「なぜ、挨拶をしないのか?(できないのか?)」を考えました。そして、子どもたちに聞いてみました。

すると、私が思ってもみなかった、子どもなりの理由を知ることができたのです。 

❶ 挙手指名で聞いてみる

最近、朝、登校してきて教室に入ってくるとき、挨拶しない子がいて気になっているんだけど、どうしてかな?

と、子どもたちの前で、ダイレクトに聞いてみました。

すると、何人かの子どもが手を挙げて、

しんどいからです。

眠たいから。

などの理由を発表してくれました。

❷ お隣さん同士や、班で話してもらう

手を挙げて発表してくれる子どもだけでなく、できるだけ多くの子どもの気持ちを理解したいものです。

そこで、「朝、元気がない理由」をお隣さん同士や、班で話し合ってもらいました(朝から元気な子どもには、予想してもらいました)。

教師の挙手指名でクラス全体に向けて発表するよりもハードルが下がるので、クラス全員の子どもが理由を言うことができていました。

そして、私が予想していなかった理由を知ることができました。例えば、「友達とおしゃべりしながら教室に入ったから、つい挨拶を忘れてしまった」というものです。子どもらしくて、かわいらしい理由ですよね。

❸ Google Jamboadに書いてもらう

お隣さん同士や班で出た理由を、クラス全体で共有しました。

朝の登校1つとっても、一人一人体調もメンタルも違うことを、担任の私だけでなく、クラスの子どもたちに知ってもらってもいいと思ったからです。それは、互いを思いやる優しい心を育み、相互理解につながると考えました。

そこで、Google Jamboadを使いました。

※Google Jamboardは2024年12月31日にサービス終了します。

画面に2本ある手書きの黒線は、私が引いたものです。左から1号車、2号車、3号車と区切って、自分が書いた付箋をどこに置くかの目印にしました。

1人1台端末が配られるまでは、黒板に一人一人書かせていました。1人1台端末のGoogle Jamboadを使ってみて、「いいな」と思ったことが3つあります。

1 匿名性

1つめは、誰が書いたか分からないことです。

挙手指名による発表も板書も、誰の意見かが分かります。Jamboardは、誰が書き込んだかは周囲には分かりません。

大人しい子どもや、自分の意見を言うのを恥ずかしく感じる子ども、また、自分の事情を知られたくない子どもも安心して発信できるのが、Jamboardのいいところだと思いました。

2 時間調整

2つめは、時間調整がしやすいことです。

クラス全員の子どもが口頭や板書で自分の考えを発表すると、どうしても時間差が生じます。早く発表し終わった子どもと、発表する内容を頭の中で考えている子どもとの時間調整が必要になります。早く発表し終わった子どもに何をさせておくのか考えておかないと、騒がしくなってしまうかもしれません。

Jamboardだと、早く終わった子どもに、

「もう1つ別の理由を書いて」
「Aさんになったつもりで書いて」
「画面上の付箋を整理して」

などの追加指示をして、時間調整しやすくなります。

3 消えない

3つめは、Jamboardにみんなで書いたことは消えないことです。

友達が口頭で発表して聞いたことは、次の日には忘れてしまうかと思います。板書も、消さないわけにはいきません。

でも、Jamboardに書いた内容は、Jamboardを閉じても、端末の電源を切っても、ずっと端末上に残っています。削除しない限り、いつでも見返すことができます。

【2】どうしたら、朝の「だるさ」「憂鬱さ」が楽になるかを考える

子どもたちから、「登校してきたとき、なぜ元気がないのか」の理由を聞いて分かったからといって、すぐに教師が「〇〇しよう」とアイデアを出すのは、まだ早い! 子どもが「押し付けられ感」「やらされ感」を感じてしまったら、楽しくありません。

そこでまず、子どもたちに「どうしたら、朝のだるさ、しんどさが楽になるか、楽しくなるか」を考えてもらいました。これもJamboardを使って子どもたち全員にアイデアを書いてもらったところ、たくさんのアイデアを出してくれました。

お仕置き系が多くて、笑いました! 私が言ったら大ブーイングが起きるようなアイデアも、子どもたちから出ると笑いに包まれました。例えば、元気に挨拶ができなかったら、「腕立て10回」とか「もう一度、教室を出てやり直し」「一発ギャグをする」などです。逆に、みんなが元気よく挨拶できたら、「お楽しみ会をする」などのご褒美系のアイデアも出ました。

【3】教師のアイデアを提案する

高学年になると、夜遅くまで起きている子どもも少なくありません。朝方まで起きていて、ふらふらの状態で頑張って登校してくる子どももいれば、朝ごはんを食べていない子どももいます。

黒板に大きくハートを描いて、そのハートの中にメッセージを書いたこともありました。その内容は、前日の子どもたちの学校生活の様子から「ありがとう」や「がんばったね」などです。

ただ、黒板メッセージは、教室に入ってから見ることになります。教室に入る、その第一歩を少しでもワクワクするものにできないか考えました。

そこで思いついたのが、お店にある「のれん」です。このアイデアを、6年生の子どもたちに次のように伝えました。

みんなのしんどさを教えてくれてありがとうね。そして、クラスみんなのために、朝、少しでもしんどさが楽になるアイデアを出してくれてありがとう。先生も考えてみたんだ。「のれん」を作りたいと思うんだけど、どうかな?

すると、子どもたちから「すごい」「やりたい」と拍手が起きました。思ってもみなかったリアクションでした。

きっとそれは、

  1. 子どもたちのことを理解しようとする教師の姿勢が伝わる
  2. 子どもたちが、互いに抱えているしんどさを知る
  3. 教師の押し付けでなく、まず自分たちで改善策を考える

というステップを踏んだから、ポジティブな反応になったのだと思います。

【4】クラスの「のれん」をつくる

さっそく布製ののれんをネットで購入しました(1400円程度で購入できました)。

そして、のれんを子どもたちに見せて、

登校してきたとき、この「のれん」を見たら少しでも元気になるような、言葉や絵を描いてね。

と言って、子どもたちに自由に油性ペンで描いてもらいました。

クラスには30人近くの子どもがいるので、一度に全員が描くことはできません。班から1人ずつ(全部で6班)、3分交代で描くようにしました(「6―1」「おはよう」は、書きたい子どもに毛筆で書いてもらいました)。

そうしてできあがったのが、下の写真です。

クリップ式のマグネットで張っています。のれんをドアに張るのも、朝1番に教室に登校してきた子どもの役割です。(これも子どもたちに聞いて決めました。「先生が張っておこうか?」と聞くと、「私が張ります」と言ってくれる子どもがいました)

のれんを貼っておくのは、1時間目が始まるまでか、1時間目の後の休み時間までです。普段は、開かない方のドア(教室内)に貼っています。

子どもたちの反応はさまざまでした。嬉しそうにのれんをくぐって教室に入ってくる子ども、照れくさそうに入ってくる子ども、「開いてる~?!」とお店に入るかのようにふざける子ども(笑)。

毎朝、登校して当たり前のように入る教室も、のれんをかけるだけで、楽しい雰囲気に包まれました。「見た目の楽しさ」と「くぐって入る」という、2つの楽しさが生まれる「のれん」、おすすめです!

(ちなみに隣のクラスも、のれんを導入することになりました♪) 

 


松下隼司先生

松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。

イラスト/したらみ 横井智美

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