小6社会「世界に歩みだした日本」指導アイデア
執筆/宮城県仙台市立鶴巻小学校教諭・岡崎大地
編集委員/文部科学省教科調査官・小倉勝登
国士舘大学教授・秋田博昭
目次
年間指導計画
・日本国憲法とわたしたちの生活
・国や地方公共団体の政治の働き(社会保障)
・むらからくにへ
・天皇中心の国づくり
・日本風の文化
・源頼朝と鎌倉幕府
・今に伝わる室町文化
・織田・豊臣の天下統一
・江戸幕府と政治の安定
・町人の文化と新しい学問
・明治維新と新しい国づくり
・世界に歩みだした日本
・長く続いた戦争と人々のくらし
・戦後の新しい日本
・我が国とつながりの深い国々
・世界の課題と日本の役割
目標
大日本帝国憲法の発布、日清・日露の戦争、条約改正、科学の発展について、世の中の様子、人物の働きや代表的な文化遺産などに着目して、遺跡や文化財、地図や年表などの資料で調べるなどしてまとめ、我が国の歴史上の主な事象を捉え、我が国の歴史の展開を考えるとともに、歴史を学ぶ意味を考え、表現することを通して、我が国の国力が充実し、国際的地位が向上したことを理解できるようにするとともに、主体的に学習問題を追究・解決しようとする態度を育てる。
評価規準
知識・技能
①世の中の様子、人物の働きや代表的な文化遺産などについて、遺跡や文化財、地図や年表などで調べて、必要な情報を集め、読み取り、大日本帝国憲法の発布、日清・日露の戦争、条約改正、科学の発展を理解している。
②調べたことを年表などにまとめ、我が国の国力が充実し国際的地位が向上したことを理解している。
思考・判断・表現
①世の中の様子、人物の働きや代表的な文化遺産などに着目して問いを見いだし、大日本帝国憲法の発布、日清・日露の戦争、条約改正、科学の発展について考え、表現している。
②大日本帝国憲法の発布、日清・日露の戦争、条約改正、科学の発展を関連付けたり、総合したりして、この頃の世の中の様子を考え、適切に表現している。
主体的に学習に取り組む態度
①大日本帝国憲法の発布、日清・日露の戦争、条約改正、科学の発展などについて、予想や学習計画を立てたり、見直したりして、主体的に学習問題を追究し、解決しようとしている。
学習の流れ(7時間扱い)
問題をつくる 1時間
- ノルマントン号事件について調べ、船長が軽い罰を受けただけで済んだ理由を考えるとともに、風刺画から、当時の世界の中での日本の立場を考え、学習問題を設定する。
また、年表から学習問題の予想をし、学習計画を立てる。
(学習問題)
日本はどのようにして条約改正をしたのだろう。また、世界の中で、日本の立場や国民の生活はどのように変化したのだろう。
追究する 5時間
- 大日本帝国憲法の発布や国会開設について調べる。
- 日清・日露戦争について調べる。
- 条約改正について調べる。
- 産業や化学の発展、日本人の国際社会での活躍について調べる。
- 人々の生活や当時の社会の様子を調べる。
まとめる 1時間
- 調べて分かったことを関係図にまとめ、それぞれの関係やその働きを話し合い、学習問題に対する自分の考えをまとめる。
問題をつくる
ノルマントン号事件の概要や風刺画などを基に、当時の日本の立場について話し合い、学習問題を設定する。(1/7時間)
導入のくふう
ノルマントン号事件について調べ、船長が軽い罪になった理由や風刺画と、条約改正までの年表を関連付けることで、条約改正を願う人々の思いを捉え、関心をもって追究できるようにする。
1時間目
学習問題を設定し、学習計画を立てる。
※教科書に載っているジョルジュ・ビゴーの風刺画『メンザレ号の救助』を提示する。
この資料から、どのようなことが分かりますか。
船に乗っている人と、海の中にいる人がいます。溺れているような人もいますね。
よく見ると船に乗っているのは外国人で、溺れているのは日本人みたいです。
奥の船に事故があったように見えます。そこから泳いできているように絵に描かれているから、この沈没した船に乗っていた人じゃないかな。
でも、どうして外国人は船に乗って、日本人は溺れているのだろう。船に乗っている外国人は、日本人を助けようとしている様子もありません。
※ノルマントン号事件について教科書や資料集などで調べる。
1886年にイギリスの貨物船ノルマントン号が和歌山県の沖で沈没しました。船長と船員はボートで避難したので全員助かりましたが、日本人乗客は全員亡くなりました。イギリス人の船長は、日本人を救おうとしたがボートに乗ろうとしなかったと証言し、船長と船員はイギリスの領事裁判で軽い罰を受けました。
たくさんの日本人が犠牲になっているのに、船長や船員はどうして軽い罰だけで済んだのだろう。納得できないです。
日本の海で起きた事件なのに、イギリスの領事裁判を受けているのはどうしてだろう。日本の裁判ではだめだった理由があるのかな。
江戸幕府が結んだ「日米修好通商条約」には、領事裁判権を認めるとあったから、日本の法律で外国人を裁くことができなかったのですね。
そんな不平等な条約があったから、多くの日本人が亡くなっているのに、船長が軽い罪で済んだのですね。ひどい話だな。他にも不平等な内容はあったのかな。
※不平等条約(領事裁判権、関税自主権)について教科書や資料集などで調べます。
日本にとっては不平等なことなのに、どうして領事裁判権を認めてしまったのだろう。
外国からの輸入品にかける税金を自由に決める権利の関税自主権も認められていなかったのですね。
外国から安い品物が日本に入ってきたら、日本でつくっている品物が売れなくなってしまうね。そうすると、日本の産業に関わる多くの人が困ってしまいますね。
当時の人たちは不満に思わなかったのかなあ。
これまで話し合ったことを基に、この時代の年表と風刺画を見ていくと、どのような疑問が浮かんできますか。
2つの不平等な条約が1911年に解消されています。けっこう時間がかかったのですね。どうやって解決していったのかな。
風刺画を見ると、日本が外国の人たちに対して腰が低いように見えます。反対に、外国人の方はなんか偉そうにしていますね。
当時の日本の立場が外国と比べて弱かったのだと思います。だから、不平等な条約を解消するまでに時間がかかったのではないかと思います。
日本はどのようにして条約改正をしたのだろう。また、日本の立場や国民の生活はどのように変化したのだろう。
※この後は、学習問題の解決に向けた予想をし、学習計画を立てます。
前の単元で明治政府が近代化を進めていたことを学習しました。年表からは、憲法を発布したことや国会を開設したことが分かるので、明治政府はさらに近代化を進めることで、日本の立場を強くしようとしたのではないかな。
日清戦争と日露戦争という二度の戦争があるので、条約改正には、戦争の結果が影響しているのではないかな。
条約改正のために活躍した人がいると思うので、その人たちの働きについて調べていくとよいのではないかと思います。
1901年に官営八幡製鉄所ができています。官営とは政府が経営することだそうなので、明治政府は産業を発展させることで、日本の近代化を進めたのではないかな。
追究する
日清・日露戦争について調べる。(3/7時間)
多角的に考えるくふう
日清戦争で得た賠償金の使い道を調べることで、日本政府が国力の充実に力を注いでいたことを捉えることができるようにする。また、日清・日露戦争では、大きな損害があったことに触れることで、多角的に2つの戦争について考えることができるようにする。
※教科書に載っているジョルジュ・ビゴーの風刺画『魚釣り遊び』を提示する。
日清・日露戦争について、この資料からどのようなことが分かりますか。
日本人と中国人が釣りをしていますね。何を釣ろうとしているのだろう。
釣ろうとしているのは朝鮮ですね。少し離れたところからロシアもねらっていますね。
どうして日本、中国、ロシアは朝鮮を狙ったのだろう。また、この2つの国との戦争によって世界における日本の立場はどのように変化していったのだろう。
※日清・日露戦争について教科書や資料集などで調べます。
日本は朝鮮に勢力を伸ばそうとして、朝鮮への影響力が強かった中国と対立したのですね。また、ロシアも朝鮮に勢力を伸ばそうとして対立が深まり、戦争になったのですね。
日清戦争に勝利したことで、中国から賠償金を得たり、台湾などを植民地にしたりしたのですね。また、日露戦争に勝ったことで、ロシアからは韓国を日本の勢力の下に置くことなどを認めさせたのですね。ということは、この2つの戦争に勝ったことが日本の国力を世界に認めさせたことにつながったのではないかな。
イラスト/栗原清、横井智美