日々是防災! 2学期も心配な熱中症に立ち向かおう ~風林火山のすすめ~  教頭のおしごと歳時記 2学期編

連載
GKC(がんばれ教頭クラブ)

元山形県公立学校教頭

山田隆弘

地球規模の異常気象は、近年深刻な問題となってきています。北海道でも夏の熱帯夜は当たり前となり、わたしたちの身近なところでも、熱中症で救急搬送されたり、命を落としてしまったりする悲しい事件が頻発するようになりました。この異常気象の時代において、児童生徒の健康を守っていくには、どうしていけばいいでしょうか。学校でできること、今すぐすべきことを考えていきたいです。

【連載】がんばれ教頭クラブ

1 日々是防災!「熱中症」危険日が続く毎日

かつて夏といえば、小学生はプールに行き、アイスクリームを食べながら友達と遊ぶ姿が見受けられましたが、今は誰一人として外で遊んでいません。30度を軽く超える猛暑日が当たり前となり、外出には健康被害の恐れが伴うようになってきました。
わたしたち国民の命、健康を守るために、環境省と気象庁は令和3年度から「熱中症警戒アラート」を設定し、本格運用が始まっています。
また、令和3年5月には、環境省・文部科学省から「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」が示され、教育委員会など学校設置者はしっかり対応していくように求められています。
学校は、このガイドラインに基づき、自校の実態を考慮して児童生徒を守っていかなければなりません。

人間の身体はバランスをとるようにできています。人の身体の中では常に熱がつくられています。暑ければ、自律神経を介して末梢血管を拡張させ、皮膚に多くの血液を分布させることで体外への放熱を促進したり、汗をかくことにより気化熱で体温の低下を図ることで、体温を36度~37度に保とうとするメカニズムとなっています。
高温多湿の場所に長時間いたり、暑い中で運動を続けたりすると、体温が上がり、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなったりして、体温の上昇やめまい、けいれん、頭痛などの様々な症状を起こします。これが「熱中症」です。
医学的には、

Ⅰ度:現場での応急処置で対応可能な軽症(立ちくらみ、筋肉痛・筋肉の硬直、大量発汗など)

Ⅱ度:病院への搬送が必要な中等症(頭痛、気分の不快、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感)

Ⅲ度:入院と集中治療が必要な重症(意識障害、けいれん、手足の運動障害、高体温など)

全日本病院協会 みんなの医療ガイド

という分類があり、これらの症状の発現には個人差があります。最悪の事態をも想定しながら、状況を見て迅速な対応をしていきたいです。
環境省から出されている暑さ指数(WBGT)は、最も客観的な数値であり、常に意識したい指標です。毎時ごと計測し、掲示し、児童生徒の活動について中止、警戒、注意などの対応指示をしていく必要があります。なお、個々人の身体や暑さを感じる感覚は全員違っています、しっかり見定めて全体指示をしていきたいです。「日々是防災!」という姿勢で臨んでいきましょう!

2 学校ができること。『風林火山』のすすめ

武田信玄が旗印に用いた『風林火山』は、戦いの心構えや姿勢について述べたものです。風のようにすばやく動き、林のように静かに備え、火のように激しく侵攻し、山のようにどっしり構えるという表現です。これとは違っていますが、「熱中症対応」でも「風林火山」のような構えが必要です。

 空気の通りを意識
動線ならぬ「風線」を考えます。どんな風が児童生徒に吹いているか、を見定めます。教室内のエアコン稼働状況、スポットでの扇風機利用、外気の取り入れ口など学校環境をもう一度見直します。体育館に設置する大型扇風機の稼働も大切な条件です。教頭(副校長)としては、ぜひ頻繁に校内巡視をしていきたいです。
屋外はもちろん、エアコンが入っていない場所での授業や活動をどうするか、場所替え、内容替え、活動量替えなどを検討していきたいです。常に見えない空気、「風」を意識していきたいです。

 木陰など救護場所を意識
体調が悪い児童生徒がいるとき、即座に看護体制がとれるようにします。どこで休ませるか、緊急時の通報体制をどうするかなどの手順を準備しておく必要があります。また、熱中症対策を教職員研修で取り上げ、授業や活動のあり方、熱中症が疑われる場合の看護の方法を具体的な知識として学んでおく必要があります。保健室の環境も整備していかなければなりません。児童には、こまめに十分な量の水分が補給できること、ドリンクの許容範囲を広げること(塩分補給ができるものなど)、汗拭き・冷感グッズの許容など、対応を進化させるよう検討すべきです。
また、8月末、9月に予定されている屋外での授業や行事、活動は可能なのか、可能でなければどうするか。中止、延期、形態転換、運動量調整など検討していきたいです。

 太陽と気象の状況を意識
室温、湿度などの火(太陽)のエネルギーの状態を管理します。人によって、暑さの感じ方は異なります。高齢者や小さな子どもは体温調節が苦手で、あまり温度の差は感じないと言われます。もちろん、児童生徒でも個人差があります。必要なことは客観的な数値です。「熱中症チェッカー」を活用し、データをとり、適宜対応していきたいです。
また、登下校をどうするかも大きな課題です。時間帯の変更、態様の変更なども視野に入れ、喫緊の対応としては「児童用日傘」を奨励していきたいです。
日傘は直射日光を防ぐだけでなく、表面温度が15度から20度程度低くなると言いますから、その効果は絶大です。帽子も直射日光を防ぎますが、頭部に密着しているため発汗で蒸れますし、日除けができる範囲も狭いです。
すでに日傘の使用を始めている学校も多く、学校から公式に推奨することで、保護者も持参させやすくなるようです。

 まさかの時も揺るぎない対応を意識
予防と緊急事態への対応をマニュアルとしてまとめます。教育指導行政から示されたガイドラインをもとに、自校に合わせてマニュアルを整備していきます。「○○の時は、こうする!」という行動パターンを全教職員が周知しておくべきです。「山」のようにどっしりとした安定感のあるマニュアルを整備したいです。
学校の教育課程は決められたとおり粛々と進めていかねばなりませんが、異常気象時は学習形態や学校での過ごし方を変えていくことも必要です。
児童にとってはかわいそうなことですが、猛暑日は休み時間のグラウンド利用を避けたり、体育館での活動も短時間に抑えるなど、健康優先の方針をとりましょう。
また、コロナ禍で培ったリモート授業のスキルを生かして、熱中症対応でのリモート授業を推進していく方法も整備していかなくてはならないです。また、着衣などのきまりについても、もう一度見直してみる必要があるでしょう。例えば麦わら帽子は、通学帽に比べ通気性が良く、断熱性もありますので、許容すべきだと思います。

「風林火山」は、最低限学校でしなくてはならないことですが、今夏の暑さから学ぶことは、もはや、これまでの常識が通じないということです。新しい情報や概念をどんどん導入して、現実に合わせた対応をし、児童と家庭に積極的な啓発を行っていきたいですね。
教頭(副校長)は、教育課程の編成権のある校長に対して最も具申権が強い存在です。今必要な改革を、恐れず積極的に具申していきましょう。

また、教頭(副校長)として、教職員の健康状態も見守らなくてはなりません。以前は、体育授業時の短パンのまま授業をすると先輩から叱られたものですが、今ではそういったことも許容する必要があるかもしれません。さらに現業スタッフで特に屋外作業をしている方に関しては、休憩場所や涼む場所を確実に確保していきたいです。
全国的にこれまで起きてしまった熱中症の事案から学び、再発防止のために今何ができるかを深く考えていきたいです。

イラスト/坂齊諒一


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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