アンガーマネジメントでハッピーなスクールライフを! 子どもも教師も興奮が収まる工夫
怒りの感情は、人間にとって大切な感情の1つです。しかし、必要以上に「強く」「長く」「すぐ」怒りの感情を出すと、相手を傷つけてしまうことになります。自分の家族にも大きな迷惑をかけてしまうかもしれません。職業や家族を失ってしまうこともあります。怒りの感情のコントロールは、大人でも難しいのです。まだ心身の発達が未熟な子どもは、大人よりさらに感情のコントロールが難しく、些細なことですぐにケンカになってしまいます。自分の非を認め、相手に謝ることができないからです。
そこで今回は、子どもや教師の興奮を収める「トラブル対応の場所」「謝罪へのつなげ方」「仲直りの仕方」のポイントを紹介します。子ども同士のトラブルが起こることの多い学級を担任されている先生や、自分の非を認めて謝るのが苦手な子どもを担任されている先生、怒りの感情をコントロールすることが苦手な先生は、ぜひ参考にしてみてください。
指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
目次
「笑い」どころを仕掛ける
怒りっぽい私は、今から10年以上前に、アンガーマネジメントのファシリテーターとキッズインストラクターの資格を取得しました。でも、実際に教室で様々な特性のあるたくさんの子どもたちを目の前にすると、上手くいかないことばかりでした。
だんだんと子どもの発達段階や特性を理解し、自分の性格を理解していくと、うまく対応できるようになっていきました。その対応のポイントは「笑い」でした。「怒り」どころに、「笑い」どころを仕掛けることで、子どもの興奮も、教師としての私の興奮も収まるようになったのです。
【状況例】トラブルボーイのA君・B君・C君
- トラブルが特に多いA君・B君・C君がいる。
- 最初は仲良く遊んでいるが、ふざけ半分の言動がエスカレートしてケンカになることが多い。相手に変なあだ名をつけてからかったり、きつい口調で注意したり、ドッジボールでは「当ててみろや!」「残念でした~」などと相手をあおったりする。
- A君・B君・C君は、他の子どもとのトラブルの中心になることも多い。例えば、給食を食べているときに近くの席の女の子に「うんこ」と言ったり、「〇〇しろ!」と隣の席の友達にきつい口調で命令したりする。
- ケンカやトラブルになったら、興奮がなかなか収まらない。イライラが続く。
- 友達を暴言や暴力で傷つけても、相手に謝ることが苦手。
トラブルがあったその日のうち、子どもが家に帰るまでに謝らないと大変です。被害を受けた子どもの親が、心配と怒りで、学校に連絡をしたり放課後に来校したりすることに発展します。
教師も子どもも座ってから対応しよう
興奮状態を鎮めるためのポイントはずばり、「座ること」です。
1.トラブルがあった子どもを、教室の板書用の踏み台に横並びで座らせる(踏み台がなければ、椅子でも床でもOK)。
子どもがトラブルで興奮したら、座らせるだけで興奮が小さくなります。立っていると臨戦態勢のまま興奮状態が続きますが、座ると休戦態勢になって落ち着きます。
水筒のお茶などを飲ませると、さらに落ち着きます。
2.教師も子どもの横に座る。
教師も立ったままより、座った方が落ち着いて対応できます。横に座るっていうのは子どもと同じ目線になることで、教師のイライラを防げます。ちょこんと横並びに座った子どもを見ると、可愛らしく思えるものです。
スマホやパソコンなどで、BGMをかけるとさらに落ち着きます。小鳥のせせらぎや、オルゴールのBGMがおすすめです。
落ち着きを取り戻せば、後の対応がスムーズになります。
素直に謝るには
座って落ち着いたら、次のように話します。
➀
嫌だったことは?
同じトラブルにならないためにはどうしたらいい?
など、子どもに聞きます。
➁
次に、
どうしたら仲直りできる?
と子どもに聞きます。
謝る。
「謝る」と答えたら、教師はめちゃくちゃほめましょう。
③
どちらも悪いところがあった場合は、
どっちが先に謝る?
と聞きます。
自分から。
「自分から」と言ったら、すかさずほめます。ほめることで、今後トラブルがあったとき、自分から謝るようになりますよ。
もし自分から謝る子どもがいなければ、教師が子どもに「あなたから謝ったら?」と楽しい感じで目配せします。あるいは、教師が「じゃあ、私から」と言って、「なんでやねん!」と一人でノリツッコミをします。そして、再度、「もう1回聞くで。どっちが先に謝る?」と聞きます。もしそれでも「自分から」と言う子どもが出なければ、教師が「じゃあ、私から」と言って、「なんでやねん!」と一人ノリツッコミをします。そして、再度、「もう1回聞くで……」と同じくだりを繰り返します♪
④
子どもが謝ったら、
もういい? 仲直りした?
と聞きます。
すると、
はい。
と答えます。
まだこの段階では、本当に仲直りしていないケースもあります。再度、すぐにケンカになったり、陰口を言ったりすることもあります。また、加害の子どもや被害の子どもが帰宅後、相手の悪口を言って、親御さんが心配して学校に連絡してくることもあります。だから、もう一押しの「仲直り」をします!
⑤
じゃあ、じゃんけんできる? 本当に仲直りしたんだったら、じゃんけんぐらいできるよね?
こう聞いて、やってもらいます。じゃんけんは、勝ち負けがあるので楽しくなります。
⑥
続いて、
じゃあ、あっち向いてほいできる?
と聞きます。あっち向いてほいは、じゃんけんよりも相手とのコミュニケーションが必要になります。
⑦
さらに、
じゃあ、指相撲(腕相撲・尻相撲)できる?
と聞いて、させてみます。
指相撲(腕相撲・尻相撲)も、勝ち負けがあるので抵抗が少なくなります。試合の最中に、「本気過ぎや。本当に仲直りしてる?」と聞くと、さらに楽しさがアップします。トラブルがあった子ども同士もいつのまにか笑顔になります。
じゃんけんやあっち向いてほい、指相撲ができるぐらい楽しい雰囲気になってから改めて、
何か、嫌な気持ちはない?
先生に言っておくこと、ない?
と聞いてみるのもおすすめです。
怒り任せ・相手の悪口ばかりでない、素直な気持ちを教えてくれるかと思います。
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ 横井智美