夏休み明けの授業は、ちょっと違う!一歩踏み込んだ教材研究で、楽しい理科授業を! 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

理科の授業に慣れていないと、新しい単元が始まるときに、本当に不安になります。日頃の業務に追われるばかりでは、教材研究もなかなかできないものです。後半の授業、少し余裕をもって取り組んでみませんか? 理科の面白さは発見する喜び、分かる喜びにあります。先生も一歩踏み込んだ教材研究で楽しい授業を目指してみてください。
優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/神奈川県公立小学校教諭・境 孝
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.夏休み、教材研究をしてみませんか?

自然事象はおもしろい! 小学校理科で扱う教材についても、知れば知るほどおもしろくなっていきます。事前に調べたことが全て授業で使えるわけではありません。でも、教師が教材について深く理解していれば、子どもの発言をつなげたり、そこから広げていったりすることができます。夏休み明けの授業に向けて、一歩踏み込んだ準備をしてみませんか?

2.「S」と「N」が書かれていない磁石で興味・関心を高める

(3年「磁石の性質」)

この単元では、「S」と「N」が書いてある磁石を使うことが多いと思います。「S」と「N」が書いてある磁石を使うことは、子どもたちが磁石の性質を理解する手助けになり、大変分かりやすいです。でも、子どもたちの身の回りには「S」「N」が書いてある磁石だけではありません。学校の中を見回しても、マグネットシートや丸い磁石が使われていることがあります。そもそも、磁石にはもともと「S」「N」は書いてありませんね。

例えば、この写真のような磁石には「S」と「N」が書かれていません。でも、この磁石を二つ用意して近づけてみると引き付けられる向きと引き付けられない向きがあることに気付きます。日常的に教室で使っていれば、すでに知っている子どもたちも多いかもしれません。この丸い磁石で遊ぶことから導入した場合、「S極、N極という言葉は知っているけど、この磁石には書いていない…」「S極N極はあるのかな?」「あるはずだけど、どうやったら調べることができるかな?」といったように、SNが書いてある磁石とは別の問題を見いだすことができるかもしれません。

この磁石にはもちろんSN極があるので、周りに鉄や磁石がない場合、平らな机の上などに置くとくるっと回って丸い磁石の平らな面が北と南を向きます。「方位磁針やSNが書いてある物だけが磁石である」「同じ磁石でもSNが書いていない物にはSNはない」と考えている子どももいます。他にも、マグネットシートの仕組み、磁気ボードで赤と黒が書ける仕組みなど、学習の中心として扱わなくても、単元のまとめに少しふれるだけで子どもの理解が深まり、興味・関心を高めたり、身の回りを見つめ直すきっかけになったりします。

3.池が凍っているのにどうして魚は生きているの?

(4年「姿を変える水」)

この単元で扱う「水」は、身の回りに当たり前にあり、理科の学習をしても、そのすごさについてあまり実感がわかずに終わってしまうことがあります。

特別な実験室等の特殊な環境ではなく、地球上の一般的な環境で水の様に「液体」「固体」「気体」が見られる物質はほとんどありません。酸素は気体としては存在していますが酸素の液体や固体は特殊な環境をつくりださないと見ることはできません。液体や気体の食塩も見ることはできません。水蒸気は見ることはできませんが、その存在は4年生の学習で確かめます。水は特殊なのです。

さらに、この学習では、水は固体になると体積が増えることを学習します。水以外の物質は気体→液体→固体と体積がどんどん小さくなっていきます。水も気体から液体になる時は体積は小さくなりますが、固体になると体積が大きくなるのです。体積の変化という面から見ても水は特殊なのです。

その性質は、冬の湖や川などで魚などが生き続けることとつながります。水は約4℃で体積が最小(密度が最大)になります。そうなると、4℃の水は下に沈みます。さらに温度が下がると水面は凍ります。凍ってしまった水の中では魚などは生きていけません。しかし、4℃の水が沈んでいるおかげでその中で生きていくことができます。表面が凍っていてもその下で魚などが泳いでいられるのは、水の特殊な性質のおかげなのです。
そのことを知って水を見てみると、当たり前にある水がすごいものに見えてきませんか?

4.ガリレオ=ガリレイの大発見

(5年「振り子の運動」)

振り子の周期を変える要因は「長さ」です。例えば、「音楽に合わせてふりこを動かそう」という導入をした場合、どうやったら変化させることができるかを調べていくので、学習を進めていって最終的には、「長さ」に着目することが多いです。でも、多くの人を驚かせたガリレオ=ガリレイの発見は、振り子の「等時性」です。振れ幅は振り子の周期に関係していないという「変わらない」発見です。振れ幅がだんだん小さくなると振り子が動くスピードがゆっくりになります。それを見ていると周期が変わっているように思えてきます。でも、周期は変わっていない、というところが大発見だったのです。ここが振り子のおもしろさなのです。

実験をして振れ幅が周期と関係ないことを確かめた後でも、もう一度実際に振り子が動く様子を観察して、振れ幅がだんだん小さくなり、動きが遅くなってくるのを見たあとに、周期が変わったかどうか聞くと「変わった」と発言する子どももいます。そこで実験結果に戻って、理解を深める必要があります。分かっていても理解することが難しい「振り子の等時性」は、この学習の中心なのです。

単元の終わりや途中に、誰もが当たり前と思っていたことを実験して確かめたガリレオ=ガリレイの業績に触れることで、科学への関心を高めることができるかもしれません。 また、「重さ」に着目するのもおもしろいです。重さを変えても周期は変わらないことは子どもたちにとっては驚きです。それなら動き方は変わるかもしれないと、重さを変えた二つの振り子を同時に動かす実験に取り組んだとします。でも、動き方は変わらない。(長さをぴったりそろえる必要があるので、全く同じにすることはなかなか難しいです。でも、最初の何回かは同じ動きをする程度ならそろえることができます。)それでは、重さを変えても何も変わらないのか。実は、何か物にぶつけてみると「変わっている」ことが分かります。ぶつかったときの衝撃は重い方が大きいのです。目に見えない力が変わっているのですね。学習指導要領の範囲外ですが、興味をもった子どもたちと休み時間などにやってみるとよいかもしれません。

5.「1g単位で調べたい!」を叶える “てこ実験”

(6年「てこの規則性」

実験用てこを使って、てこがつり合うときの決まりを見つける場面では、例えば左のうでの「6」のメモリに10gのおもりをかけた状態で右のうでの5のメモリ、4のメモリとおもりをつける場所を変えていきながら調べていきます。しかし、この調べ方の場合、6のメモリは10gでつり合いますが、5と4は調べることができません。

しかし、3メモリのときはおもり2つで20g、2メモリの時は、おもり3つで30g、1メモリの時はおもり6つで60gでつり合いますね。表にするとこのようになります。

先程の調べることができなかった5と4も実際は、5メモリの時は12g、4メモリの時は15gです。子どもたちは、この5と4のメモリでの重さを調べたくなります。6年生の経験がある先生は、「1gのおもりはありませんか?」と子どもたちから聞かれたことがあるかもしれません。その願いをかなえるために、細かい調整ができる物を使うことが考えられます。

例えば、砂。重さを変えていく方にコップなどをクリップ等で固定できるようにして、その中に砂を入れてつり合わせます。つり合ったら、コップやクリップを含めた重さを量ればつり合ったときの重さが分かります。このようにすれば実験結果に「×」と書かずに、全て調べることができます。

この表を見ると、算数で反比例を学習している場合、このてこの規則性が反比例になっていることに気が付く子どももいます。この場合、「メモリ×重さ=決まった数」となり、その決まった数が同じ時につり合うということを学習していることになります。このように式で表せるということがどれだけすごいのかを実感できると、中学校での理科がさらに楽しみになるはずです。

小学校理科では、てこの規則性で唯一、数式が出てきます。式にできるということはその規則がどんな場合にでも当てはめることができるということです。ですから、実験していないことも分かるということなのです。

例えば、写真で示している実験用てこのうでは6メモリまでしかありませんが、このうでを両方とも10メモリまで伸ばしていったとしましょう。左のうでにはそのまま6メモリのところに10のおもりがあるとします。てこをつり合わせるためには、右のうでの10メモリのところに、6gのおもりをかければつり合うことはすぐに計算できます。実際に同じ重さの棒などをテープなどで固定して10メモリに相当する長さの所に6gのおもりを吊るすとつり合います。当たり前かもしれませんが、実験できないことも分かってしまう、これが式の便利なところなのです。

今、遠い宇宙のことがどんどん解明されているのは、「数式」のおかげでもあります。子どもたちは、てこと宇宙がつながるとは思ってもいないです。これは、少し飛躍した話ですが、式にする、式にできるということのすごさを教師自身が知っていれば、この単元で学ぶことの深さが変わってきます。

自然事象は、奥が深いです。まだまだ分かっていないことがたくさんあります。今回紹介した4つの単元についても、さらに深い教材研究ができます。近くにいる理科に詳しい先生に聞いたり、教育センター等を活用して様々な情報を手に入れたりすることができます。地域にある科学館にいけば、さらに専門的なことが分かるかもしれません。教師自身が楽しみながら自然事象のすごさ、不思議さに浸ることで、授業が変わり、子どもたちの反応も変わってきます。

この夏休みを利用して一歩踏み込んだ教材研究に取り組み、夏休み明けの学習をもっと楽しく進めていきませんか?

イラスト/難波孝

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<執筆者プロフィール>
境 孝●さかい・たかし 神奈川県公立小学校教諭。同校研究主任。理科を中心に日々研究に励みながら、社会科の教材研究で宮城県、岐阜県、山形県、沖縄県など、全国を飛び回る。時間を見つけては、インテリア探し、洋服探しに出かける。最近は、美術館巡りをして絵画の鑑賞を通して観察力を鍛えている。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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