「スタディクーポン」とは?【知っておきたい教育用語】
スタディクーポンとは、相対的貧困にある子どもの教育格差を解消するために発行するクーポン(利用券)です。企業や個人からの寄付を原資にし、そのクーポンの使途は学校外教育である学習塾や習い事、体験活動などの教育に限定しています。
執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明
目次
日本の子どもの貧困率
厚生労働省が発表した2019年「国民生活基礎調査」によれば、中間的な所得の半分に満たない家庭で暮らす18歳未満の割合「子どもの貧困率」は、13.5%でした。前回の2015年の13.9%から大きな改善は見られず、日本では依然として子どもの7人に1人が貧困状態にあり、先進7か国(G7)の中で高い水準となっています。
政府は、2019年11月に、貧困家庭の子どもへの支援方針をまとめた「子どもの貧困対策に関する大綱」を閣議決定しました。その内容は、生まれ育った環境で子どもの現在と将来が左右されないように、早期の対策や自治体の取組を充実させる方針で、貧困の解消は待ったなしの課題なのです。
内閣府が発表した「令和3年 子供の生活状況調査の分析報告書」によれば、保護者の経済状況が子どもの学習環境に大きく影響していることがわかります。経済的に豊かな子どもは学習環境にも恵まれているので、子どもも豊かになる可能性が高く、それに対して「貧困層」世帯の子どもは学習環境に恵まれず、進学の機会も狭められ、子どもが経済的に豊かになる可能性が低くなると予想されます。
また、「貧困層」の子どもは、経済的に豊かな子どもと比較して、学習塾に通うことや習い事をする機会も少ないので、多様な経験をしたり人間関係を構築したりする機会も限定的になります。これでは子どものウェルビーイングも高くなりません。
スタディクーポンとは
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(Chance for Children)は、「主として経済的な理由によって教育を十分に受けることができない子ども、若者及びその家族に対する支援活動を通じて、貧困の世代間連鎖を断ち切ること」を活動の目的としています。
具体的に次のような活動を行っています。
(1)子ども等に対する学校外教育を受けることができる利用券の提供
(2)子ども等に対するアドバイザーの派遣
貧困の世代間連鎖とは、「親(大人)の経済的負担」→「子どもの学校外の学習機会、余暇活動の喪失」→「子どもの学力・生きる力の低下」→「若者の経済的負担」へと循環することです。
スタディクーポンは、このような世代間連鎖を断ち切るために提供されています。現金給付とは違い、クーポンを支給することで、教育以外の目的に使用されることがなく、確実に教育の機会を提供することができます。
また、有効期限を設けることで、貯蓄されることなく、教育費用として消費されます。さらに、チャンス・フォー・チルドレンでは、大学生ボランティアが月に一度、電話や面談を通して学習や進路の相談にのる「ブラザー・シスター制度」を導入しています。クーポンを提供するだけではなく、クーポンの利用に関するアドバイスを行うことで、クーポンの有効利用を促進します。これまでに5,000名以上の子どもの支援を行っています。
2023年度は240名を募集し、中・高校1・2年生は20万円、中・高校3年生は30万円の電子クーポンを提供しました。
企業、自治体などの取組
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンは、2011年3月に発生した東日本大地震で、経済的な理由から十分に教育を受けられない子どもたちを支援する活動から始まりました。
スタディクーポンの原資は、企業や個人からの寄付によります。また、行政での政策導入も行われています。例えば、2012年から大阪市が教育施策として、スタディクーポン(大阪市習い事・塾代助成事業)の仕組みを導入しました。
1日でも早く子どもの貧困が解消され、子どもの教育環境で将来が左右されない社会が実現することが期待されます。
▼参考資料
厚生労働省(PDF)「2019年国民生活基礎調査の概況」2019
内閣府(PDF)「子供の貧困対策に関する大綱~日本の将来を担う子供たちを誰一人取り残すことがない社会に向けて~」2019年11月
内閣府(PDF)「令和3年 子供の生活状況調査の分析報告書」2022年12月
日本経済新聞社(新聞)2022年7月17日 電子版
東洋経済オンライン(ウェブサイト)「子どもの貧困、内閣府『初の全国調査』で見えた悲痛な実態」2022年2月15日
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(ウェブサイト)「チャンス・フォー・チルドレンホームページ」
大阪市(ウェブサイト)「大阪市習い事・塾代助成事業」