11月危機を防ぐ3ステップ~教室のトゲトゲ空気をなくす~
11月、クラスの雰囲気に乱れやゆるみが少しでも感じられたら、この3ステップで立て直しを! 先手必勝、薬は風邪のひき始めに飲む! 早期のケアが重要です。
執筆/奈良県公立小学校校長・中嶋郁雄
目次
トゲトゲ空気を解消する3ステップ
まずは自己のふり返りから!
スリーステップで対応
クラスにトゲトゲした空気が流れるのは、教師の子供たちへのかかわり方や、学習場面やトラブルに対する指導に原因があります。トラブルが頻繁に生じ、子供たちが落ち着かないクラスには、必ずトゲトゲした嫌な空気が流れます。トゲトゲした空気は、そのまま放置しておくと、取るに足らない些細なトラブルが発端になり、保護者を巻き込んだり、いじめを誘発したりと、重篤なトラブルに発展してしまいます。
一つ一つのトラブルに対応していっても、根本になる教師の指導方法を変えなければ、子供たちは変わらず、クラスの雰囲気も変えることはできません。この時期の中学年の子供たちは、自我に目覚め始める頃です。少々厳しく指導しても、教師の指導に納得できなければ、反抗心をむき出しにして向かってくることもあります。また、「ギャングエイジ」と言われるように、不満がたまると、集団で教師に反発し、クラスをかき乱す行動をとり始めます。最悪の場合は学級崩壊を引き起こしてしまいます。
トゲトゲした空気を払拭して、子供たちが安心して学習に取り組む環境をつくりだすために、次のステップを意識した指導を行いましょう。
ステップ1 先生自身のふり返り
子供に対する言葉がけや指導が、「押し付け」になっていないか反省してみましょう。
ステップ2 個々の子供への対応
まず、トゲトゲしている子に、自らを顧みさせて反省を促す指導を工夫しましょう。
ステップ3 クラス全体へのアクション
何が大切なのかをクラス全体に考えさせる指導を工夫しましょう。
スリーステップを意識した指導を心がけることで、些細なトラブルを、子供を伸ばしクラスの雰囲気を変えるチャンスに変えることもできます。
では、学校生活でのよくある場面を取り上げながら、具体的な指導を紹介していきます。
よくある場面の指導例
事例1 子供同士のけんか
その場では、互いに謝罪の言葉を述べても、仲直りするのに時間がかかり、繰り返しけんかが起きてしまいます。何度指導しても、納得して反省している様子が見られません。
ステップ1 謝罪は「教師の押し付け」
けんかの指導で、両者を向かい合わせて、「けんかはダメ。仲よくしなさい」といったおさめ方をする指導がよく行われています。
最後に、互いに謝罪させて解決という指導です。しかし、子供が互いに謝罪し合ったとしても、それは、教師の押し付けによる行為にすぎません。子供たちが本心から納得していなければ、互いに「相手が悪い」「自分は悪くない」と思ったままです。押し付けの指導にならないように心がけましょう。
ステップ2 自分の不足に気付かせる
けんかは、互いに相手の気分を害する言動をすることによって起こります。
しかし、感情的になっているため、子供はそのことに気付きません。冷静になった後で、「自分の悪かったところはないかな?」「なぜ、相手は怒ったのかな?」などと、子供に自分自身の悪かったところをふり返らせ、納得させることが必要です。
自分の不足に気付き、認めることで初めて、素直に指導を受け入れ、反省することができます。
ステップ3 けんかのよさを学ばせる
けんかは、対等な関係だからこそ起こります。また、子供にとって、けんかは人間関係の基礎を学ぶための大切な場とも言えます。
「仲がよい証拠」「反省できたことが素晴らしい」と、けんかが起きて指導した後で、クラスのみんなの前で当人をほめることで、けんかをした子は認められ、クラスの雰囲気も穏やかになります。
教師は、「けんかは子供の学びの場」という認識をしっかりもち、クラス全員への指導に生かすことが大切です。
事例2 忘れ物
この時期は、子供の気持ちも緩みがちで、忘れ物も多くなります。子供の忘れ物に対して、つい「あれだけ注意したのに」と、自分の指導を否定された気分になり、感情的になってしまいます。「忘れるなって言っただろ!」と、理由も聞かずに怒鳴りたくなります。そして、その指導が、さらにクラスの雰囲気を悪くしてしまう原因に・・・。
ステップ1 怒鳴っても解決にならない
忘れ物をして困っているから、叱られるのを覚悟で教師に報告に来ています。怒りたい気持ちはわかりますが、大声で怒鳴ったところで、なんの解決にもなりません。忘れたのには、何か事情があった可能性もあります。
「忘れて困っているのは、当の本人」ということを頭に入れて、忘れた子を責めるような指導をすることのないよう、心がけなくてはなりません。ただ怒鳴ることで反省を促し、結局「先生のを貸してあげます」といったような指導を繰り返していては、子供の力を伸ばすことができず、毎時間のようにトゲトゲした空気を教室にまき散らすことになります。
ステップ2 穏やかな態度で解決に導く
穏やかに笑顔で「どうしましょう?」、と子供に尋ねるようにしましょう。叱られるのを承知で、教師に解決策を求めているのに、優しく「あなたが考えることだよ」と言われた子は、驚くと同時に、本当に困ったことになったと実感します。しかし、穏やかな教師の態度に、冷静に自分で解決策を考えることが可能になります。「先生のを貸してください」「友達に借ります」と、子供が自分で解決策を口にしたら、すかさず、ほめてあげましょう。
優しく指導することで、トゲトゲの空気にならないだけでなく、子供に自信をもたせ、忘れ物を反省させることができます。
ステップ3 自分で考えることが重要と教える
家庭環境や家庭事情が原因になっていることも少なくありません。あまり潔癖さを求めて指導すると、教室の空気がトゲトゲしてしまいます。「人間は忘れる動物」というくらいの余裕をもっておくことも必要です。
そして、忘れた後の行動が大切であると理解させるように、日頃から「忘れて困るのは自分。困らないように考えるのも自分」と、指導しておきましょう。
事例3 友達をバカにする
友達に対して、自分の要求を無理に押し付けたり、友達をバカにしたような言動をとったりする子がいます。
対等な立場ではなく、明らかに優位な立場にある子が、弱い立場の子に対して要求を飲ませようとして、威圧的な口調で命令したり、バカにしたような言葉を発したりする姿には、「いじめ」の危険すら感じられます。
ステップ1 強い子におもねらない
勝手に友達の物を取り上げて遊んだり、遊び半分でからかったりする子に、「何をしているの?」と尋ねると、決まって「遊びです」と言い逃れをします。その時、「この子はややこしいから」と、そのままにしてはいけません。それは、立場の弱い子を見離すことであり、強い子におもねることになります。
一度、指導から逃げてしまうと、子供に足下を見られ、統率権を失う恐れもあります。
ステップ2 正義感に訴えかける
友達に威圧的な態度で迫る子は、友達の前で弱いところを見せてはならないと思っています。ですから、教師の厳しい指導に対しては、友達へのメンツを保とうとして、反抗的な態度をとってきます。最近では、たとえ中学年の子供であっても、あからさまに反抗的な態度をとる子が増えてきました。このような子には、「同じことを、自分よりも強い人に言えるか?」と問いかけます。ほとんどの子は、黙ってうつむくか、首を横に振って反省の色を浮かべます。
「強い人には頭を下げて、弱い者にはいばり散らす。それは卑怯だよね?」
などと、穏やかな態度であっても、子供の正義感に訴えるような言葉がけで、反省させることが大切です。
ステップ3 本当の「強さ」を理解させる
友達をバカにする様子は、周りの子にとっても、嫌なものです。力によって自分の思い通りにしようとする者を、本当に好きになり信頼する人はいません。クラス全体で、「友達から嫌われる行動をとってはいないか」と問いかけて、ふり返らせる機会をつくりましょう。
安心できる楽しいクラスにするために、互いに注意し合うことができる強さをもつこと、教師が必ずバックアップすることを力強く宣言して、子供たちを勇気付けましょう。
イラスト/ terumi
『小三教育技術』2018年11月号より