小学校理科での事故事例、避ける方法は? 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

理科の授業をするときに心配されるのが、けがや事故が起きないかということです。理科室にはたくさんのものがあり、時には薬品も使います。事故の多くは子どもたちへの注意不十分、または、教員の薬品等の扱い方が間違っている場合が多いです。小学校での授業の多くは、事故は起こりにくいとは思いますが、先生としてあらかじめ事故事例を知っておけば、留意する点をしっかり意識できるでしょう。心配しすぎず、正しい知識をしっかりもっておきましょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/神奈川県公立小学校主任教諭・山口和也
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

理科の授業は子どもたちに人気の教科です。その理由として大きなものが、「観察・実験」があることです。普段使う機会がない観察・実験道具を使い学ぶことはとても楽しいものです。しかし、ニュースで時折見られるように、理科の授業中の事故は、毎年のように起きています。そこで今回は、安全・安心な楽しい理科の観察・実験を行っていけるように、どのようなけがや事故が実際の授業の中で起きているのかを単元を使って詳しく説明します。またそのような事故を防ぐために大切なことについてご紹介します。

1.やけど【4年生もののあたたまり方

4年生のもののあたたまり方は特にやけどの事例として多く挙げられる単元と感じています。実際に授業中でも「もう冷めたと思って触ったらまだ熱かった」「少し動かそうとして触ってしまった」などの理由からやけどをしてしまった事例があります。
4年生は、まだ加熱実験の経験が十分ではありません。もし学校に理科実験支援員さんのようにサポートしてくださる方がいる場合は、実験後の移動などをお任せし、児童は実験器具に触らないよう打ち合わせをする、という方法もあります。

代表的な事故の事例(金属のあたたまり方)

金属棒や金属板を熱した後、冷えたと思ったらまだ熱かったことによるやけど。
金属棒の加熱実験後、金属板に移し替えようとしたとき、固定器具の加熱された部分に触れてしまいやけどする。

留意点と指導例

全体で実験の進度を揃えて、器具を外したり移し替えるタイミングをそろえる。
ぬれた雑巾を用意する。
熱が発生する部分には絶対に手を触れないことを繰り返し指導する。
理科支援員を活用し、児童は実験器具に触らないようにする。

単元配列としては冬に学習を行うので、気温が低いことから、すぐ冷めると思いこみがちだったり、すぐ次の実験(金属棒から金属板)をしたいから、焦って移し替えようとしがちだったりします。
落ち着いてじっくり観察し、結果をまとめるように声をかけるのもよいですね。

代表的な事故の事例(水のあたたまり方)

アルコールランプに点火する際、マッチを誤操作したことによるやけど。
アルコールランプを消火する際に焦ってしまい、アルコールランプを倒し、やけど。
温められたビーカーを触ってしまい、やけど。

留意点と指導例

事前にマッチのみを使い、点火から消火までの一連の動きだけを練習させる。これにより、実験の際に安心し、落ち着いて行えるようにする。
アルコールランプについても、ただ点火して消火するという一連の動きだけを練習する。
温められたビーカーの移動は支援員さんに任したり、教師が行ったりする。

これは実際にあった事例ですが、若手の先生への安全研修の際、マッチの火が怖くて、火が点いたとたんにマッチを放り投げてしまった方がいました。大人でも怖いことがあるので、安心して実験を行うための事前の指導や、怖い児童には無理にさせないなどの配慮も大切ですね。

2.けが6年生てこのはたらき

6年生のてこのはたらきでは、これまでの理科の学習ではなかった、重いおもりを扱う実験を行います。小さな力で重いおもりを持ち上げることができる実験は楽しく、盛り上がってしまいがちです。そのため、勢いをつけて持ち上げてしまい、バランスを崩してしまう事例も聞かれます。より安全に実験を行うためにも、安全な器具を揃え、事故なく実験ができるための準備を年度初めから意識しておくようにしましょう。

また、けがが起きる理由として、理科室のルールが不徹底だったり、実験を行う際の心構えが不十分だったり、ということも考えられます。普段の教室とは違って、棚や機材のある理科室では注意が必要なことを意識させましょう。そして、正しい観察・実験方法を一人ひとりがしっかりと考えられるようにしましょう。特に、理科室を使い始めの3年生や、まだ不慣れな4年生においては、実際に危険が潜んでいる理科室の写真などを使い、体感的に理解できるようにするとよいでしょう。

代表的な事故の事例(てこのはたらき)

自作の実験器具を使用した際に、棒と支点の固定が十分ではなくズレてしまい、指を挟むことによるけが。
自作の実験器具を使用した際に、固定が不十分で重りが足の上に落下したことによるけが。

留意点と指導例

実験器を備品として揃えておく。
おもりは10kgまでにし、砂袋など柔らかいものにする。
事前に演示で操作しながら、危険なポイントについて確認してから実験を行う。

私が赴任した学校では、実験器がなく、自作のものを使って学習をしているところが多かったように思います。やはり、固定がズレてしまったり、おもりが滑って落ちてしまったりすることがありました。可能であれば年度初めに備品をチェックし、ないようであれば購入を検討するとよいでしょう。

3.目を傷める3年生光のせいしつ

虫眼鏡を使用しての観察が好きな子は、とても多いです。そこで、「太陽を直接見ないこと」については、事前にくり返し指導しましょう。また、はね返した日光の進み方を調べたり、日光を集めたりして光の性質を調べ、学習する場面がありますので、人に向けてはいけない、という指導も忘れないようにしましょう。

代表的な事故の事例

はね返した日光の進み方や、重ねた時の明るさと温度を調べる際に、人の目に光を当ててしまう。
はね返した光を壁に当てる際に校舎に当て、教室で学習している児童が目を痛める。
虫眼鏡で日光を集めて紙に当てるときの、強い光を凝視し続けて目を痛める。

留意点と指導例

はね返した日光を人や人がいるかもしれない方向に向けないことを徹底する。
安全に実験できる場所の確保。
はね返した日光を向けるところに的を貼るなどして、無害なところにだけ光が集まるようにする。

光の反射はとても遠くまで光が届くことに驚き、楽しめます。またその光を校舎に当てると、明暗の差が面白かったりして、色んな場所を照らしたくなりがちです。興味・関心をもって学習に取り組むのはよいことですが、危険性も十分に想像させ、指導することも大切ですね。

以上の事故事例を共通して防ぐためにとても大切なことがあります。それは「予備実験」です。実際に実験に使う器具や、手順で行うことによって、想定していたこととの違いを発見したり、より安全に実験をしたりするために必要なことに気付くことができます。時間を確保するのはなかなか難しいですが、子どもたちの安全な学習のために、しっかりと行うようにしましょう。

また事故が起こった際の、緊急体制も確認しておくことが大切です。それぞれの学校でどのような体制になっているか確認しておくとよいでしょう。

<参照>
安全で安心な観察・実験をするために/日本理科教育振興協会
※上記リンクより、PDFのパンフレットがダンロード可能です

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
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<執筆者プロフィール>
山口和也●やまぐち・かずや 神奈川県公立学校教諭、横浜市理科研究会物理部会所属。横浜市基礎観察実験部会部長として理科研究に携わる。子どもが楽しみながら深く学べる理科の授業を大切に実践を積み重ねてきた。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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