学校ICT推進の要となれるか?「教育CIO補佐官」に求められるものとは

学校教育の情報化を推進する統括責任者として文科省が各自治体への設置・活用を促している「教育CIO」およびその実際的・実務的な役割を担う「教育CIO補佐官」について、その人材を養成するための初めての連続講座が2023年6月から開講されます(主催:OCC教育テック総合研究所)。

そこで今回は、元・小金井市教育CIO補佐官であり、同講座でも講師を務める松田孝さん(MAZDA Incredible Lab代表、元・小金井市立前原小学校校長)に、教育CIO補佐官の現状と課題、そして求めらる人材像について解説いただきました。

松田 孝(合同会社MAZDA Incredible Lab CEO)
東京都公立小学校教諭、指導主事、主任指導主事(狛江市教育委員会指導室長)などを経て、2016年4月から小金井市立前原小学校校長として着任。全国に先駆け1人1台の情報端末をど真ん中においた授業実践と「新しい学びの場」を拓くためのプログラミング授業を積極的に推進。2019年3月、定年1年前に辞職。同年4月に合同会社MAZDA Incredible Labを設立、CEOに就任。Society5.0の新しい「学び」の実現を目指すシンクタンクの代表として奔走中。元・小金井市教育CIO補佐官。

GIGAスクール構想が始まって今年で本格稼働3年目。中教審は新たなICT環境整備方針の策定に向けて、初等中等教育分科会でデジタル学習基盤特別委員会等を設置し、さらなる推進をはかっています。ICTを基盤的なツールとして教育の質の充実を図っていくというこれからの時代に、その推進組織の統括責任者となるのが「教育CIO」です。

そして教育CIOは、長期的教育計画および予算要求・執行の権限を有する地位にある教育長や次長等、教育行政のトップが担うことが多いため、その役割を補佐するために「教育CIO補佐官」が置かれることになります。

「教育CIO補佐官」は教育CIO機能の実現形態の一つですが、私は「補佐官」と言えば米国の大統領府における大統領補佐官を思い描きます。そういう役割が「教育CIO補佐官」においてもしっかりと実現できたらいいなあ、という思いが強くあります。

現実の日本の行政組織の中で、「教育CIO補佐官」としての本来的な役割にかなう動きがどこまで具体化できるかということが、大きな課題であると感じています。

教育CIO補佐官の配置の現状と課題

国は、自治体CIOの任命率は「電子自治体の推進のために都道府県・市区町村とも7割を超える」(「学校のICT化のサポート体制の在り方について」)と述べ、学校のICT化についても、教育CIO・学校CIOの機能を実現し、積極的にICT化を推進している先進事例を紹介しています。また一般社団法人日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)等も教育の情報化を推進する人材としての「教育CIO補佐官」の任命や配置等について提言を行っています。

しかし現実には、「教育CIO補佐官」を任命していても、それは首長部局の情報担当や指導主事等が教育CIO補佐官業務を兼任しており、独自に予算化して人材を確保し、その上で業務を推進している自治体については寡聞にして知りません。

私は以前、小金井市の教育CIO補佐官を拝命していましたけれど、もともとそういうポストがあったわけではありません。定年一年前(2019年3月)に前原小学校の校長を辞職するにあたって、それまでに培ってきたノウハウをしっかりと市内の他の学校にも浸透させていきたいという思いがあったので、教育長に「自分が新しい立場で市の教育の情報化に関わっていけたら、これまでの恩返しもできるのではないか」という話をしたのです。その思いはまさに教育の情報化・ICTを基盤のツールとして教育の質の向上を図ろうとする「教育CIO補佐官」の役割と一致したため、名称を拝借したというわけです。

その後、現実的には補佐官としてのスタッフ機能は多少なりとも果たせたかもしれませんが、担当部署との綿密な連携や政策提言、ICTの充実にかかる予算化などに携わることは十分にできませんでした。あくまでも臨時のポストで、どちらかといえば学校のICT教育推進のアドバイザーとしての役割を求められていました。

今後は私のように、校長経験者で、現役時代に教育の情報化に関わる委員会等のトップを務めたり、ICT活用に長けていた先生が、再任用や再雇用として自治体の教育研究所等に配置される時に教育CIO補佐官のような名称を付与されることは考えられます。GIGAスクール構想のさらなる推進において、「教育CIO」の役割はますます増大し、その補佐官の重要性が認識されれば、指導主事が兼務したり、退職校長等がその職を担ったりする自治体が増えてくるのではないでしょうか。

一方、行政出身者で行政のDXやICT化を推進してきた人が、同じ自治体や違う自治体の教育CIO補佐官を務めるというケースも聞いたことがあります。しかしいずれにしても人的配置としての「教育CIO補佐官」任命は、その職務遂行にあたって、個人の能力・手腕によるところが大きく、役職名だけが残り形骸化する恐れもあることは肝に銘じておかなければなりません。

今は既存の組織の中で、「教育CIO補佐官」が担う役割に近しい職務内容を担っている人に名称を与えて、あとはその与えられた人間が自分の個人的な能力の中でどのぐらいやるかというところにかかっているのが現実ではないでしょうか。

教育CIO補佐官に求められるもの

国は「教育CIO補佐官」の研修プログラムを提案しています。そこでは5つのカテゴリー(①情報化による授業改善と情報教育の充実、②学校のICT環境の整備、③リスクマネジメント、④情報公開・広報・公聴、⑤人材育成・活用)が掲げられ、その下に合計11のユニットで内容が構成されています。

※参考リンク:教育CIO補佐官研修プログラム(項目一覧)- 文部科学省

各ユニットは、教育系、行政系、技術系の3つの分野に大別されており、「教育CIO補佐官」を目指す人は自身を鑑みて「十分な知識・経験がない分野(ユニット)を優先して受講することが望ましい」と提言しています。

はたして私のような教職経験者は技術系の研修内容が優先されますが、「教育CIO補佐官」の職務全般を見渡したとき行政系の研修内容が極めて重要であり、かつこの内容を具現化できるネゴシエーション力こそが最も必要な資質・能力だと考えています。

「教育CIO補佐官」は教育委員会に配置されることになります。例え常勤であってもその多くはスタッフとして配置されて、ラインとして自身の部下がいない中で何ができるのか、という現実にぶち当たります。当然、学校教育の指導に関しては指導主事との、各学校のICT環境整備については教育委員会総務課の施設担当との、セキュリティに関しては首長部局の情報システム担当部署との、それぞれ綿密な連携が必須となります。

加えて情報化推進計画を策定し、その具現化のための予算要求や運用・管理には首長部局財政担当や、はたまた議会(議員)とのコミュニケーションも絶対に外すことのできない職務となってきます。

このように見てくると「教育CIO補佐官」にどんな資質能力が求められるかというと、ICT(特に技術)に関する知見だけではなくて、教育の情報化を本気で実現しようとすれば先にあげたような様々な関係性を構築して、それぞれの部署における担当者とのコミュニケーションやネゴシエーション等といった力が絶対に必要になります。そして現状と今後の展開の方向性を含め常に教育長にブリーフィングしていく。だから教育長との信頼関係があればうまくいくけれど、合わないとうまくいかない。「教育CIO補佐官」の仕事というのは、綺麗事じゃすまない部分があります。

「教育CIO補佐官」はスタッフとして配置されながらラインにいる人達をうまく巻き込んで、具体的にそして精力的に仕事を推進して結果(学校の情報化による教育の質の向上)を出す、という使命が課せられているのです。

教育CIO補佐官を活かすために必要なこと

自治体が「教育CIO」とその「補佐官」の必要性を真剣に考えているならば、補佐官は常勤のポストにして、相当の権限を付与しないとその職は機能しないと思います。

現実的に考えれば、校長経験者で行政(教育委員会)経験もあり、情報化の推進委員会等のトップをやられた方が、「教育CIO補佐官」としての権限を付与されて動いていけば、かなりのことが実現できるのではないかという気がします。だから自治体や教育委員会が「補佐官」の職務を真に遂行できるだけの権限を付与した常勤のポストを用意できるか否かが、目的達成の大きな岐路になると思っています。

国レベルで「教育の質の向上を図るため、学校教育に関連する様々な場面でのICT活用を効果的かつ円滑に進めるためには、その組織的対応が大事だ、教育CIO及び補佐官を配置して今後の教育改革を一層推進しよう」と言うのは当然であり、理解もしますが、地方自治体や教育委員会において権限も付与されず、兼務職で「教育CIO補佐官」を任命しても、具体的なアクションを起こすことは相当に困難なことは明らかです。

小金井市の場合は、校長会や全教職員が集まる教育研究会総会で、私が「教育CIO補佐官」を拝命したことは全体には周知してくれました。しかし本来「教育CIO補佐官」が職務を遂行する権限はありません。だから学校訪問して研修は行うけれども、各学校の抱える課題を整理・分析して、校長会や情報化推進委員会で情報提供したり、リーダーシップを発揮して改善の方向性を示したりすることはなかなかできずにいました。

使命感ある教師の次なるステップに

このように見てくれば「教育CIO補佐官」の仕事は、多岐にわたりハードな内容であることがわかります。だからこそ「教育CIO補佐官」の職を務めたいという人はいると思います。とくに現場で教育改革に関わっていた人で、これまでの経験を踏まえてもっともっと教育ICTを推進したいから、その願いが叶うポジションがあったら、チャレンジしてみたいという人は必ずいるはずです。

「教育CIO補佐官」に求められる資質・能力の一番は、なんと言っても使命感です。これから本当に社会が大きく変わっていくなかで、この国の教育を良くしたいっていう思いです。でも現実にそれを動かすためには、ネゴシエーションというか交渉の粘り強さとか、そういう資質も求められると思います。

教育の現状や学校経営について理解しつつ、ITにも通じている人というのは、本当にこれから必要になってくるのは間違いありません。それが「教育CIO補佐官」だとしたら、現状を見れば難しいところは多々ありますが、未来に向かってそのニーズは絶大です。

だからこそ、このたび開講されることになったOCC教育テック総合研究所主催の「教育CIO養成課程」は画期的な試みであると思います。このような学びの場を通して、「教育CIO」及び「補佐官」人材が輩出され、全国の自治体や教育委員会の中で本当に価値ある教育変革の事実を創り出してほしいと願っています。私のこれまでの経験を踏まえながら、講師としてお役に立ちたいと心から思っています。

学校法人大阪キリスト教学院「OCC教育テック総合研究所」主催の「教育CIO養成課程」が2023年6月より開講されます。教育CIOおよび補佐官を目指す方のために、デジタルの本質的な特性の理解と、学校・地域レベルでの教育ITに関する意思決定の方法論や事例が学べるプログラムです(オンライン、一部対面)。

学校経営とITを両軸にした全15回の講座を通して、教育CIO補佐官として現場でIT戦略を立案・推進できるようになることを目指します。詳しくは下記リンク先をご覧ください。
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OCC教育テック総合研究所にて教育CIO養成課程を開講します
https://www.occ.ac.jp/news/detail/814

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