『総合教育技術』2022年秋号「学校管理職試験 論文講座」優秀論文発表【教頭編】

『総合教育技術』2022年秋号にて募集した「学校管理職試験 論文講座」の優秀論文を発表します。

<秋号の課題> 教職員のコンプライアンス意識の徹底

未だ教職員による不祥事を根絶するに至らず、学校への信用を揺るがすことになっています。教職員には、社会的な規範や倫理等を遵守し、責任を自覚した行動が求められています。あなたは教頭として、教職員のコンプライアンス意識の徹底を図るため、どのように取り組みますか、具体的に述べてください。


全体の奉仕者/倫理観/社会的規範/不祥事防止/職場環境/保護者、地域からの信頼/服務規律/教職員研修/体制づくり/相互啓発/モチベーション

優秀論文

「教育は人なり」の言葉のように、教員は子どもを教え育てる立場にあるため、高い倫理観を持ち、法令等を遵守しなければならない。しかし、教員の不祥事は後を絶たず、子どもや保護者は不信感を募らせている。飲酒運転、体罰、各種ハラスメント、個人情報漏洩等の多岐にわたる不祥事の未然防止には、教職員の研修による啓発や学校外の人々との交流を通したコンプライアンスの意識の徹底が欠かせない。私は教頭として、校長の指導を仰ぎ、以下のように取り組む。

1 教職員全体のコンプライアンスの推進

教職員の「これくらいなら大丈夫」という軽はずみな行動で、これまで築いてきた子どもや保護者・地域からの信頼を一瞬で失ってしまう事例を勤務校でも経験してきた。多岐にわたる教職員の不祥事の未然防止には、研修を通した粘り強い啓発が重要である。そこで、服務規律委員会を活性化させていく。まず、職員会議に組み込み、服務規律遵守を啓発する担当を指名する。例えば、交通事故、飲酒運転に関しては安全係、体罰に関しては生徒指導係、各種ハラスメントに関しては教頭、情報管理に関しては情報係とし、ミニ研修を提案させる。また、ハラスメントや体罰に関しては、当事者意識を高めるためにロールプレイ研修を取り入れ、被害者・加害者双方の立場を体験しながら意見を出し合い相互啓発を図る。そして、教頭として日常的に教職員との対話を大切にし、世間話から職務に関する話題まで進んで声かけを行い、コンプライアンス意識の徹底のため、気づいた点を個に応じて伝えていく。

2 社会常識獲得のための交流推進

教職員は子どもを相手にする仕事であるが、近年若手教員が急増していることなどから、社会常識について無知であるためのトラブルが起きている。教員がボディタッチをしながら子どもを称賛している姿を見た保護者から、「先生の行為はうちの会社ではセクシャルハラスメントです」と指摘を受けた。このことからも、学校外の人々との交流を深め、厳しい社会の現実について話を聞き、教職員のコンプライアンス意識の徹底を図る必要がある。

そのために、企業勤務をしている保護者やスクールロイヤーを講師として招き、事例を聞いたり法規を学んだりする。また、地域の自治会とともに行う既存の地域美化活動の際に、打ち合わせ段階から地域の人々と交流する時間を設け、地域に一人一人の教員を知ってもらう。さらに、校長を通じて教職員と地域住民との懇談会を依頼し、その懇談会を通じてコンプライアンス意識の徹底を図る。教頭は学校と地域のパイプ役として、定期的に自治会と連絡をとり、教職員や子どもなど学校の様子について懇談会を実施する。

教職員の不祥事は絶対にあってはならない。不祥事の未然防止のために、校内での啓発と外部との交流の両輪で教職員のコンプライアンス意識の徹底を図る。私は教頭として、校長の指導のもと、常に研修と修養に努め、自己の職務に全力を尽くす。

(群馬県・I氏・50代)

診断とアドバイス

保護者や地域住民の信頼を得るために、教職員には法律や規則などの法令に従うだけでなく、社会的な規範や倫理を守ることまでが求められている。そのため、各教育委員会では教職員の不祥事防止を目指して、様々な対策をとっている。しかし、信用失墜行為、守秘義務等の違反は、いまなお根絶していない。原因の一つは、社会状況の変化や価値観の多様化が進んでいるのに、教職員の社会的常識が変わっていないことにある。本課題は、教職員一人一人だけでなく、組織としてもコンプライアンス意識の徹底を図る具体策を問うている。
本論文は序論で、教職員には職務の重要性から高い倫理観が求められていることを論述し、本論につないでいるのは適切である。本論では、筆者の経験や情報から2本の柱立てをし、具体策を論述している。1の柱では服務規律委員会を活性化させ、担当者の役割を徹底させることやロールプレイを取り入れ、当事者意識を高めているのは実効性がある。また、2の柱では、社会人としての常識を会得するため、スクールロイヤーや地域の人々から事例を通じて学ぶ場を積極的に設けているのは的を射ている。
ただ、社会から厳しい目が教職員に向けられている中、「地域に開かれた学校」を進めるため、組織として教職員の相互チェック機能を強化するなど、教頭として、教職員のコンプライアンス意識の徹底を図る強い意志表現が望まれる。

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