小5国語「大造じいさんとガン」京女式板書の技術
今回の教材は、「大造じいさんとガン」です。今回は、2つの時間の板書を紹介します。1つめは、文章全体から「情景をえがいた表現をみつける」をめあてとした時間、2つめは、情景を描いた場面を選び、「大造じいさんの思いを読む」をめあてとした時間です。いずれも、情景描写が心情描写となっていることを、読み深めるための手がかりになる板書の工夫を紹介します。
監修/京都女子大学附属小学校特命副校長・吉永幸司
執筆/京都女子大学附属小学校教頭・砂崎美由紀
教材名 「大造じいさんとガン」(光村図書)
目次
単元の計画(全6時間)
第一次 「大造じいさんとガン」を読む。
1 「大造じいさんとガン」を読み、初読の感想を書く。
2 「大造じいさん」と「残雪」との関わりを読む。
3 全文を通して情景を描いた表現を見つける。
4 「大造じいさん」の「残雪」に対する思いを読む。
第二次 物語の魅力を考える。
5 物語の魅力について自分の考えを書く。
6 友達が書いたものを自分の考えと比べながら読み、感じたことを伝え合う。
板書の基本
〇授業が始まる前に考えること
教材研究の際に、この教材で付けたい力を考えます。今回は、付けたい力を「登場人物の相互関係や心情などについて描写を基に捉える力」としました。心情や場面の様子を表すすぐれた表現に着目する板書を計画し、その表現を味わいながら読むことを学ばせたいと思いました。
紹介する板書は、第3時と第4時のものです。第3時は、文章全体から情景を描いた表現を見つけ出し板書することで、それぞれの場面での心情を視覚化することを考えました。第4時は、第3時で選び出した叙述のうちの1つの場面を取り上げて、詳しく心情を読み解く板書を考えました。情景描写から心情が読み取れること、行動の変化から心情の変化が読み取れることを学ぶことで、文学作品を読む楽しみを広げ、深い学びのある学習へとつながります。
〇板書計画で考えておくこと
板書で文章を視覚化する際、多くの要素を入れ過ぎると、子供がわかりにくくなってしまいます。第3時の板書では、選び出した叙述の中で、色を表すものは「青チョーク」で、叙述から子供が読み取った思いは「黄色チョーク」で書くというように、ルールを作って板書しました。また、その「要素をもつ叙述を選ぶ」のも1つのコツです。板書計画を行うことが、すなわち教材研究をするということです。
第4時の板書は、1人の子供のノートを黒板に教師が写すところから始まります。これは子供たちに人気の学習方法です。子供たちと一緒に作る板書・授業です。子供のノートを選ぶのは指導者です。子供のノートの中から1つをどんな意図で選ぶかで、その後の授業が変わります。子供のノートを机間指導の際に見て回り、子供がどんな思いでこのノートを作っているかを読み取る力が必要です。そのためには、指導者自らノート作りをして、十分な教材研究をすることをおすすめします。詳しくは後述の「第4時の板書」をご覧ください。
板書のコツ(3/6時前半)
〇板書のコツ①
「めあて」は「情景をえがいた表現をみつける。」です。ノートにめあてを書いたら、情景を描いた叙述を意識しながら読むことを伝えます。この時は微音読で読むように指示しました。読みながら、見つけた叙述に線を引くなど、高学年として学習経験を生かした教材への向かい方をするように伝えます。
一定時間の1人読みをした後、全体で情景を描いた表現を見つけ、発表させます。発表された叙述のうち、今回は「色」が描かれた叙述を意識して選び、板書しました。本文の叙述を板書する際、後で「心情」や見つけたことを考え、書き足していきますので、黒板全体を使い、間隔を空けて板書します。
〇板書のコツ②
叙述が描かれた場面を、黒板の上部に書きます。場面ごとに情景を描いていることがわかります。選んだ叙述の前後に、「昨日よりたくさんのつりばり」や「会心のえみ」「さあ、いよいよ戦闘開始だ」を書き加え、背景を引き出します。ここから、「情景を表現することで、人物の心情をも表す」という授業の後半の学習内容へと導きます。
板書のコツ(3/6時後半)
〇板書のコツ①
叙述の「色」を表す表現に着目し、板書の中の「色」がわかる表現に色チョークで印を付けました。赤や白、青などの色で表しているものを話し合います。例えば、「赤は激しい思い」「白は純粋な心」などの意見が出ました。
〇板書のコツ②
情景を表す叙述から心情を考えます。「期待しているから、見るものが美しく輝いて見える」などの意見が出ました。心情に関わる気付きは黄色チョークで、さらに雲形で囲みました。
授業の最後には、「学習の振り返り」を書きます。今日のキーワードとなる言葉を板書し、板書した言葉を入れて書くように指示しました。今日の学習のポイントを押さえることになります。
板書のコツ(4/6時前半)
〇板書のコツ①
めあては「残雪とはやぶさの戦いの場面を読み、大造じいさんの思いを読む。」です。日付とめあてを板書します。「残雪とはやぶさの戦い」の場面を音読し、今日の学習場面であることを知らせました。
音読の後、1人学習をする時間を設けます。日ごろの学習指導においてマッピングを用い、各自がノートにまとめる1人学習では、10分程度の緊張した雰囲気になります。指導者は机間指導で1人の子供のノートを選び、その子のノートを黒板に書き写しました。
選んだのは、時間の経過が右から左へと流れAAさんのノートです。「大造じいさん」と「残雪」の配置も、「残雪」のほうが上部に配置され、おもしろいと思ったことに加え、「完成したノートよりこれから書き足せるノート」という理由もあり、選びました。
1人学習の間、教師は机間指導をしながら、「今日の板書に写すノート」を決めます。選ぶ基準は日により違います。模範としたいノートを選ぶときもあれば、積極的な発表を促すように、作成途中のものを選ぶときもあります。指導者が「どんな話し合いを授業にしかけるか」を考えて選ぶのです。
何度もこの方法で学習していると、子供たちは、自分のノートが板書になることを期待し、意欲をもってノート作りをするようになります。
板書のコツ(4/6時後半)
〇板書のコツ①
1人の子供のノートを黒板に写した後は、板書をベースにみんなの考えを書き足していきました。発表する子供は、自分がノートに書き込んだことや気付きを具体的に発表します。例えば、「大造じいさんの下に、じいさんの思いを書いていきます」「わくわく、と書きます」など。慣れてくると、チョークを持つ教師へリクエストされることもあります。「残雪からおとりのガンまでを、黄色のチョークでつないでください。矢印の向きは残雪からおとりのガンへ、です」「もっと、太い線のほうがいいと思います。残雪の姿に大造じいさんが心を打たれたから重要です」というように。
ちなみに、子供たちには、板書をノートに写すことを求めません。すでに、ノートには自分の読みが書かれているからです。友達の発表を聞いて、書き足したいと思ったことを書くようにと指示します。
〇板書のコツ②
学習の最後には、キーワードを使って振り返りを書かせます。キーワードの中には、本時のポイントとなる言葉を入れます。また、高学年の振り返りでは、今日の学びを、これからの自分の学びや生き方にどのように取り入れたいかを考えて書くように指示します。
構成/浅原孝子