小6理科「電気の利用」指導アイデア
執筆/大阪府公立小学校指導教諭・宮下由美子
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・鳴川哲也、大阪府公立小学校校長・民辻善昭、細川克寿
目次
主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善を行い、資質・能力を育成するには、どのようにすればよいのでしょうか。
まず、「主体的な学び」を実現するには、電気の性質や働きが自分たちの生活に非常に重要な役割を果たしていることを理解し、電気の効率的な利用について考えられるようにすることが大切です。例えば、手回し発電機や光電池で発電した電気を使って身の回りの物を動かすことで、そのままでは、光やモーターなどの強弱が安定せず使いづらいことを体験し、利用するには工夫が必要だと気付くことなどが考えられます。
最近では、多くの電気製品にプログラミングの仕組みが取り入れられ、生活に合わせた効率的な利用ができるようになってきています。これらの仕組みについて知ることで、電気の効率的な利用について考えられるようにすることも大切です。
次に、「対話的な学び」では、自然の事物・現象との対話や周りの人との意見の交流を通して、自分の考えをしっかりと持つことや、実験結果や話合いを基に考えを見直したり、修正したりすることが大切です。例えば、手回し発電機を回した時の手応えと働きから、電気の量と働きについて考えます。手応えが大きいほど発電する電気の量が大きいことに気付き、この気付きを科学的に解決するために、周りの人と話し合いながら実験方法を考えます。手回し発電機の回転の速さと数を同じにして、豆電球と発光ダイオードの点灯時間などを比較することが考えられます。この活動から得たデータを基に電気の量と働きについて話し合い、変換方法によって、同じ量の電気でも働く時間が異なることを捉えることができます。
最後に、「深い学び」では、新たに獲得した資質・能力に基づいた「理科の見方・考え方」を、日常生活における問題解決の場面で働かせることが大切です。2018 年には、北海道で「ブラックアウト」と言われる現象が起こりました。発電量と使用量の均衡が崩れることで生活が大きく変化することや、身の回りには電気のエネルギーを利用して実に多くの物が働いていることを捉え、エネルギーを効率的に利用する意識を持って行動できるようにすることが大切だと考えます。
授業づくりのポイント
①身近な自然の事物・現象から問題を見いだす場面の設定。
②発見した問題を科学的に解決するための話合いの場面の設定。
③獲得した様々な科学的な知識を、日常生活における問題解決場面で活用できるようにする学びの場の設定。
単元のねらい
電気の量や働きに着目して、それらを多面的に調べる活動を通して、発電や蓄電、電気の働きについての理解を図り、観察、実験などに関する技能を身に付けるとともに、主により妥当な考えをつくりだす力や、主体的に問題解決しようとする態度を育成する。
単元計画(全9時間)
一次
1・2・3時
発電した電気を使って、身の回りの電気製品を働かせてみよう。
●手回し発電機と光電池で発電した電気を使って、身の回りの電気製品を働かせてみる。(活動アイディア①)
考察
・電気は、モーターを回すことでつくることができる。
・電気は、光、音、熱、運動などに変換できる。
問い
・手回し発電機や光電池でつくられた電流は、向きや強さが変わるのだろうか。また、電流を一定にして利用するには、どうしたらよいのだろうか。
・電気製品や変換の種類によって、使用する電気の量は異なるのだろうか。
二次
4・5時
手回し発電機や光電池は、電流の向きや強さを変えることができるのだろうか。
●手回し発電機や光電池の電気を蓄電し、豆電球、モーター、オルゴール、電熱線を働かせ、流れる電流の向きや強さを調べる。
考察
手回し発電機の回す向きを変えたり、光電池のつなぐ向きを変えたりすると電流の流れる向きが変わる。また、回す速さや光の量で、電流の強さを変えることができる。
6・7時
変換の方法によって、使用する電気の量は異なるのだろうか。
●手回し発電機を用いて発電、蓄電をし、豆電球や発光ダイオード、オルゴールが働く時間を調べる。(活動アイディア②)
考察
変換の方法によって、必要な電気の量が異なる。同じ電気の量でも、豆電球より発光ダイオードの方がより長く点灯する。
三次
8・9時
電気の発電や利用について調べたことをまとめよう。
●発電方法や生活の中での電気の利用について調べ、学んだことをまとめる。
考察
今の電気の発電方法は火力発電が主流だが、これからは太陽光や風力など多様な発電が進められる。これからは、効率よく電気を利用していく必要がある。
単元デザインのポイント
全体の流れ
子供が主体的に問題解決に取り組むために、手回し発電機や光電池を使って発電した電気で身の回りの電気製品を動かし、問題発見を行うようにする。
発電された電気が光や音、熱、運動などに変換される仕組みを体験すると同時に、発電した電気を安定して利用できるようにするには工夫がいることや、手回し発電機を回した時の手応えから電気の量と働きの関係に気付かせ、二次へとつなげる。
三次では、将来の電気の利用について調べ、制御された電気製品のよさや、自分たちのこれからの暮らしについて考えることで、深い学びとなるようにする。
二次
二次では、電気の量と働きや電気の変換について多面的に調べる。実験を考える際には、条件制御を意識させ、量的・関係的な視点で考えられるようにする。実験後は、結果をグラフなどに表し、一次での気付きを数値で表現させる。結果が予想と異なった場合には、手回し発電機の回数や速さ、回路などを見直して、予想や仮説、実験方法を振り返るようにする。
三次
三次では、学びを生活とつなぐ場として、電気を有効に利用するための仕組みや工夫について調べ、生活に合わせた効率的な電気の利用について捉えられるようにする。また、発電の仕組みについて調べることで、自然エネルギーの有効活用に向けて様々な工夫がなされていることを知り、生活の中で電気を有効に使う意識を持てるようにする。
活動アイディア①
(一次 1・2・3時)
【一次 1時】
これから電気の学習をしますが、今までに電気を使ったことある人は?
全員だと思う。使わずに生活できないから。
電気をどうやって使うの? そのまま?
そのままだとビリビリして使えない。
では、電気を何に変えて使っているの?
白熱灯やLED は光、自動車やエレベーター、電車は動き、CD は音、テレビや携帯電話は音や光や熱、ドライヤーは熱だ。
電気をつくったことあるかな。実は、これでつくることができます。(手回し発電機と光電池の紹介)
使ってみたい!
【一次 2・3 時】
めあて
電気をつくって、身の回りの電気製品を動かしてみよう。
手回し発電機の手応えや回す向き、光電池に当てる光の強さとつなぐ向きなどを変化させて、それぞれの電気製品の働きを調べよう。
実験
考察
電気は、光、音、熱、運動に変換することができる。
電気は意外と簡単につくれるけれど、ちゃんと使うのは難しく、止まったりチカチカしたりした。(蓄電)
手回し発電機の回す向きを変えたり、光電池のつなぐ向きを変えたりしたら、モーターが逆に回った。(手回し発電機、光電池の仕組み)
物によって手応えが全然違った。LED やラジオをつないだ時は軽かったけど、豆電球や電熱線をつないだ時は重かった。(変換)
物によって、必要な電気の量が違うのかな。安定して使うには、どうしたらよいのだろう。(蓄電)
指導におけるポイント
調査官からのワンポイント・アドバイス
国立教育政策研究所教育課程調査官
鳴川 哲也
自分の生活との関連を図りながら学習する
今回の小学校理科の学習指導要領の改訂では、理科を学ぶことの意義や有用性を実感することや、理科への関心を高める観点から、日常生活や社会との関連が重視されました。本単元「電気の利用」は、まさに、自分の生活との関連を図りながら学習することで、資質・能力の育成を目指すことができます。
子供たちにとって「電気」は身近です。しかし、電気を熱や光などに変換して使っているという意識はないと思います。そこで、活動アイディア①のように、手回し発電機や光電池を使って、自分たちで電気をつくり、自分たちが日常的に使用している電気で動くおもちゃや製品を動かしてみるという活動は、とても魅力的です。乾電池を入れて使用しているときには当たり前に作動するおもちゃであっても、正常に作動しない場合も出てきます。そこから問題が生まれてくるのです。改めて電気について考えを深めるよいきっかけとなるでしょう。
本展開例では、第三次においてさらに視野を広げ、自然エネルギーの有効利用について考える機会が設定されています。停電が起これば、たちまち日常生活に支障がでてしまいます。この単元を通して、電気を多面的に捉えることができるようになればよいですね。
イラスト/横井智美
『小六教育技術』2019年2/3月号より