道徳の授業 お悩みQ&A

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佐藤幸司

道徳が教科になり、しっかりと取り組まなければならない現状で、不安や戸惑いを持つ先生が多いようです。そこで、道徳教育研究サークル「道徳のチカラ」代表の佐藤幸司先生のもとに寄せられた道徳に関するお悩みに、佐藤先生がズバリ回答します。

執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司

佐藤幸司先生
佐藤幸司先生

Q.1 授業時数が足りないとき、道徳や学活を振り替えていましたが、道徳が「特別の教科」になり、そうもいかなくなりました。そもそもなぜ教科になったのですか。

A. 戦前、道徳教育は、修身科という教科を中心に行われていました。修身科の教科書には、国家主義的な教材も含まれていたため、終戦に際し、授業は中止されました。道徳の時間は、昭和33年に特設されました。当時は、「修身科の復活だ」という反対運動も起こり、道徳の時間はなかなか学校に定着しませんでした。

道徳の時間が特設されてから、今年で60年になります。ところが、学校現場には、未だに道徳がきちんと実施されていないという実態があります。これは、歴史的なことの影響というよりも、教師が道徳よりも各教科の授業を優先したり、行事などで忙しくなるとそのための時間に道徳を安易に振り替えたりしたことが原因です。道徳の教科化は、週1時間の道徳授業をきちんと実施してもらうための手段なのです。ですから、これまで道徳に真摯に取り組んできた教師は、何も不安がらずにこれまで通り授業を行っていけばいいのです(そうでない教師は、ここで心を入れ替えましょう!)。

道徳の教科化には、もっと大切な願いが込められています。それは、いじめ問題の解決です。道徳の教科化は、平成25年の教育再生実行会議で、道徳授業を活性化することによっていじめ問題を解決してほしいという願いが示されたことをきっかけとして進められました。心豊かな子供たちに育ってほしいと願わぬ人はいません。私たち教師は、自覚と責任をもって道徳授業に向かわなければなりません。

Q.2 道徳の教科書は、毎時間必ず使わなければならないのですか。

A. 結論から言えば、「いいえ、そんなことはありません」。教科書は、主たる教材とされています。ですから、基本は教科書を使って授業を行うことになります。けれども、必ず毎時間教科書を使うとか、教科書に載っている教材は残すことなくすべて授業で扱うとかいう縛りはありません。新しい学習指導要領の解説(特別の教科 道徳編)でも、第4章・第4節102ページで、魅力ある教材開発の大切さについて述べられています。教え残しがあってはならないのは、19の内容項目(1・2学年)なのです。教科書教材ではありません。教師が教材開発に積極的に取り組み、創意工夫ある授業を展開していけば、当然、教科書の中で扱わない教材も出てきます。授業を実施するには、教材が必要。だから、教科書を配付して、教科書を主たる教材として、毎週の授業を確実に実施してもらおう――。これが、教科書配付のもともとの意図です。

教科書を使いながら、同時に魅力ある教材を開発・活用して、子供たちが生き生きと学ぶ授業を展開していきましょう。

Q.3 評価をしなければならなくなりましたが、どんな評価をつければよいか、いつ、どのような点を見取るのか、自信がありません。評価の仕方について教えてください。

A. 道徳科の目標には、四つの学習活動(①~④)と四つの道徳性の様相(A~D)があります(便宜上、番号をつけて示します)。

①道徳的諸価値についての理解を基に、②自己を見つめ、③物事を多面的・多角的に考え、④自己の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な A:判断力、B:心情、C:実践意欲 と D:態度を育てる。

道徳性の様相(ありさま、あり方)には、さまざまな考え方があります。その中で、義務教育で育てるべき道徳性として選ばれたのが、「A:判断力・B:心情・C:実践意欲・D:態度」の四つなのです。道徳科の授業は、四つの学習活動(①~④)を通して、この四つの様相の中のどれか(または複数)を育てることを目標として実施されます。

ところが、道徳科では、授業の目標が達成されたかどうかについては評価しません。では、何を評価するのかというと、目標に向かう学びの姿を四つの学習活動に注目して評価します。その際、肯定的な目で子供を見取り、数値化等ではなく記述で表します。ここが、各教科の評価と大きく異なる点です。

道徳授業イメージ
撮影/大庭正美

Q.4 道徳の評価は、個人内評価すると聞きました。通知表や指導要録には、どんなことを書けばよいのですか。

A. 道徳科の評価は、19の内容項目(1・2学年)それぞれに行うのではありません。また、1時間ごとの学習の様子を単独に評価するのではありません。授業の積み重ねの中で、子供がどのように向上的に変容していったかを、大くくりなまとまりを踏まえて記述で評価します。ただし、ここで言っている「評価」というのは、指導要録に記載する評価のことです。通知表の所見ではありません。

通知表は、学校から保護者への「学校生活のお知らせ」です。公簿ではありません。ですから、通知表の所見は、基本的には要録の評価とは別物と考えてください。通知表は子供や保護者が読むので、具体的でわかりやすい記述が歓迎されます。通知表に関しては、具体的なテーマ(内容項目)や授業で使った教材名を挙げて子供のがんばりを記述するのもよい方法です。

ただし、通知表と要録に全く別のことを書くと、教師の負担が増します。仕事の能率をアップさせるためには、年間で配付する通知表のうち1回は、その子の学びの様子をある程度のスパンで肯定的に見取って所見を書きましょう。すると、その記述をギューッと縮めて指導要録用に転用できます。例えば、一学期は一つのテーマを取り上げて、二学期は具体的な教材名を入れて、三学期はその子の学びの様子をまとまったスパンで書く・・・というように、方針を決めておくことをお勧めします。

Q.5 話合いで意見を出し合うと、子供たちからは一般論的なよい意見ばかり出てきます。子供の本音を引き出すにはどうすればよいでしょう。

A. 子供の本音って、なんでしょうか。例えば、「泣いた赤鬼」の授業で、「青鬼みたいなことはできない」と語ることが本音なのでしょうか。「青鬼みたいに、友達のことを思って行動してみたい」と語るのは、「良い子の意見(建前)」なのでしょうか。おそらく子供は、「その時はそう思った」のでしょう。行動に移せるかどうかは別問題ととらえてください。道徳科では、その後の生活態度への改善も期待したいところですが、そこまでの評価は、1時間の中ではできません。<Q.3 & A.>で述べた四つの学習活動に着目すれば、「良い子の意見」を述べた子は、「道徳的価値の理解」はできたと考えることができます。

話合い活動には、二つのタイプがあります。一つは、対立する意見を交わす討論タイプです。討論タイプで話合いを進めるためには、意見が割れることが条件です。けれども、討論を仕組むことが大切なのではありません。つまらぬ葛藤(悩み)などないほうがいいのだ、とゆったりと構えてみましょう。もう一つは、相手の考えに共感する対話タイプです。対話タイプの話合いには、ほっこりとした空気が流れます。相手への反論ではなく、共感できることを認め合う話合いだからです。「良くなりたい・認められた」という子供の素朴な思いを受け止めてあげましょう。

Q.6 気持ちを聞く発問に終始してしまい、どうすればよいか悩んでいます。

A. 気持ちを直接問う発問をすると、子供たちからは、「うれしかった」「悲しかった」というような答えが返ってきます。それは確かに気持ちを端的に表す言葉なのですが、その一言で完結してしまい、学びが広がりません。そもそも、気持ちを表す言葉自体が少ないのです。他には、「楽しい」「くやしい」などでしょうか。気持ちを直接問わないで登場人物の心情を考えさせる発問の一つに、行為の理由を聞く発問があります。再び「泣いた赤鬼」を例に挙げれば、青鬼は、赤鬼が人間と友達になれるようにと、人間の家で暴れます。
 
ここで、「A.暴れている青鬼は、どんな気持ちでしょうか」と問えば、「これで赤鬼が人間となかよくなれればいいな」という返答があるでしょう。この問い(発問A)でも、子供たちは青鬼の気持ちになって、ある程度の発言をすることはできます。一方、「B.青鬼は、なぜ人間の家で暴れることを決めたのでしょうか」と問えば、そのとき(暴れているとき)の気持ちはもちろん、赤鬼の幸せを願う気持ちや、これまでの友情に感謝している気持ちなど、子供たちは多面的に青鬼の心情を考えるようになります。行為と心情は、表裏一体です。だから、その行為に至った理由を問うことは、人物の心情を想像することにつながっていくのです。

Q.7 教科書の読み物教材を使って楽しい授業をするコツを教えてください。

A. 授業の骨格は、発問と指示です。読み物教材を使う授業では、教材を読ませた後の発問が特に重要になります。低学年児童には、登場人物に望ましい行為を教えてあげる発問が有効です。私は、これをアドバイス発問と呼んでいます。

例えば、基本的な生活習慣について学習する教材(A節度、節制)には、整理整頓がうまくできずに困っている男の子がよく登場します(仮にK君とします)。

ここで、
△「Kくんは、今、どんな気持ちでしょうか」とは聞かずに(気持ちを直接聞く発問は原則しない)、
○「あなたなら、Kくんに、どんな言葉をかけてあげますか」と問いかけてください。
これがアドバイス発問です。

子供たちからは、
「だから、机の中は、きれいにしておいたほうがいいんだよ」というような、Kくんへのアドバイスがたくさん出されます。

発表後は、その言葉をかけてあげる(アドバイスする)理由を聞きます。理由の中には、子供たちのこれまでの経験がたくさん出されるはずです。経験を語るとは、自分の人生を語ることなのです。道徳の授業では、自分の人生を語り、友達の人生を受けとめます。そのことによって、教材と自分自身とがしっかりと結びつき、他人事ではない自分事として考えることができるようになります。

『小二教育技術』2018年10月号より

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