小1 国語科「たぬきの 糸車」全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小1国語科「たぬきの 糸車」(光村図書)の全時間の板書例、発問、想定される児童の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/相模女子大学学芸学部 子ども教育学科専任講師・成家雅史
執筆/東京学芸大学附属大泉小学校・土屋晴裕
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
小1の国語の学習ではこれまで、物語教材を「読むこと」において、場面の様子や登場人物の行動から内容の大体を捉えることができること、場面の様子に着目して登場人物の行動を具体的に想像できることを目指してきました。
また、「知識及び技能」においては、音読という言語活動を通して、語のまとまりや響きを意識して音読できるような学習を展開してきました。
一方、「おかゆのおなべ」では、外国のむかしばなしを読んで、文章の内容と自分の体験を結び付けて感想をもてること、文章を読んで感じたことや分かったことを共有できることを目指しました。
また、「知識及び技能」においては、学校図書館の利用と合わせて読書に親しむことができるようになることを目指しました。
本単元では、1年生の児童がこれまでの学習で身に付いた資質・能力を確かめながら、その力を発揮し、自分たちの成長が実感できるような指導を行い、主体的・対話的で深い学びを実現することを目指します。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
児童は、「たぬきの糸車」を昔話だと思って読むことでしょう。現代では使わなくなった道具や暮らしが描かれているからです。
糸車の実物を見ることや触ることは簡単にはできません。きこりという職業には馴染みがありませんし、おかみさんが糸車を回しているのが生計を助けるためであることも児童には分からないでしょう。雪が降り始めて夫婦が村へ下りていき、春になって山奥の小屋に戻ってくるという暮らしぶりについては、一読して大体は想像できるでしょう。
このように、物語を組み立てる細部について分からないことだらけの中、児童は昔話を読んで何を感じるのでしょうか。大抵の児童は、物語の筋書きの面白さや、登場人物の行動の面白さに魅力を感じることでしょう。
本単元では、「知識及び技能」において(1)ア、(3)アを指導事項に設定しています。その理由は、昔話によって伝承されてきた人間の営みや人の心を読むことを大切にしたいからです。
昔話を読むことを通して、きこりやおかみさんのような昔の人の暮らしや心、たぬきが身近にいるような環境について、場面の様子や登場人物の行動から想像するという言語活動自体に、昔話を読み継いでいく意味があります。物語だからこそ、その想像はより豊かなものになります。
この単元の学習が終わった後に児童が自ら昔話を手に取って読んだり、昔話を読み聞かせで聞くときに昔の時代を生きた人々に思いをはせながら想像したりする姿を目指したいものです。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉
主体的な学びとして、授業内における姿と授業外における姿、二つの姿を目指します。
授業内における主体的な学びとは、昔の道具や暮らしの様子に意識的に関わって、積極的に場面の様子や登場人物の行動を想像する姿です。
授業外における主体的な学びは、図書館に行って自ら昔話を探して読む姿や、教師の読み聞かせに目を輝かせていたり、教師に読んでほしいと言ったり、その際に自分の感じたことや分かったことを伝え合おうとする姿です。
〈対話的な学び〉
対話的な学びとしては、感じたことや分かったことを友達と共有することも大切な対話になりますが、そのために、児童一人一人がこの物語から何を読み取るかという、物語との対話をする時間もつくっていきます。
物語との対話を生むためには、みんなで考えたい、話し合いたいと思えるような問いが必要です。
答えが限定的になる問いではなく、一人一人の感じ方が異なるような、多様な答えが認められるような問いを考えたいものです。
具体的には、「山おくの一けんや」に住む夫婦と「まいばんのように」やってくるたぬきという物語が語られている場面設定について想像すること、おかみさんの糸車が気になってしかたがないたぬきと、温かい気持ちでそれを見守ったり助けたりするおかみさんとの関係について想像すること、一人で「山のように」糸の束を積んでいたたぬきが、おかみさんに分かってもらえたときの気持ちを想像することが、この昔話の面白さを引き出すことができる問いになるはずです。
〈深い学び〉
本単元における深い学びを具現化している児童の姿として、次のような姿を想定しています。
昔の道具や暮らしの様子を意識的に読み取り、積極的に場面の様子や登場人物の行動を想像している姿です。
具体的には、3時間目以降に示したように、昔話特有の魅力、例えば貧しい生活をしながらも懸命に暮らすきこりやおかみさん、たぬきがやってくるような動物と人間の暮らしの近さなどを意識して読むことで、たぬきとおかみさんの思いを想像することが楽しくなっていくでしょう。
また、書かれていることから「もしかしたら、こうだったんじゃないかな」と思いを巡らせて、互いの感じたことや分かったことを伝え合ったり、感想をもったりすることも深い学びと言えるでしょう。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
毎時間の振り返りでは、その時間の問いに対して自分の感じたことや分かったことを書くようにします。ノートや付箋に書く場合、教師が回収してつなぎ合わせたり印刷したりしなくては「共有」ができません。
そこで、端末を活用して共有します。手書きができるアプリケーションを使用して文字を書き、記録・保存する活動に、児童が授業を通して日常的に取り組んでいくことが大切です。
端末に記録・保存することによって、教師の手を介さなくても「共有」ができるようになります。
教師にとっても、端末からデータを入手して、それを一覧にして児童に返すことができるようになり、時間短縮につながるでしょう。
6. 単元の展開(8時間扱い)
単元名:「むかしの人のくらしやこころをよもう」
【主な学習活動】
・第一次(1時、2時)
①「むかしばなしをよもう」の単元や自分が知っている昔話について想起してから、「たぬきの糸車」を読んで、感想をもつ。
②「たぬきの糸車」の感想を発表し合い、内容の大体を捉える。
・第二次(3時、4時、5時、6時、7時)
③「たぬきの糸車」が昔話だと思うところについて、場面の様子や登場人物の行動から読み取る。
④⑤ おかみさんの糸車が気になってしかたがないたぬきと温かい気持ちでそれを見守ったり助けたりするおかみさんとの関係について想像する。
⑥⑦ 一人で「山のように」糸のたばをつんでいたたぬきがおかみさんに分かってもらったときの気持ちを想像する。
・第三次(8時)
⑧「たぬきの糸車」を読んで、昔の人の暮らしや心、物語のよさについて感じたことや分かったことを考え、共有する。
全時間の板書例と指導アイデア
●「主体的な学び」のために
これまでに読んできた昔話を想起して、経験を自信につなげて学びに向かいます。
各自の昔話の読書経験には差異が生じていると思われますが、「どんな昔話を知っているか。」と問えば、「おかゆのおなべ」など、単元での経験を想起できるでしょう。
そこから、自分たちがどれくらい昔話を読んだかということを振り返る時間になります。
主体的に学ぶためには、自分がこれまでに経験したことを振り返り、「これだけ学んだんだ」という自信をもてるようにすることが大切です。
「たぬきの糸車」についても、既に知っている児童がいることが想定できます。
知っていたとしても、「以前に読んだときと、みんなで学習していくときとでは、感じたり分かったりすることが違うかもしれませんね。」という期待を持たせて、学習に向かう気持ちを耕しましょう。
皆さんは、これまでたくさんの昔話を読んだと思いますが、思い出に残っているものはありますか。
前に授業でやった「おかゆのおなべ」がおもしろかったです。
先生、「おおきなかぶ」も民話だから昔話じゃないかなと家で話しました。
前の授業の後に、「ブレーメンのおんがくたい」を読んでみました。
(中略)
昔話と言ったらやっぱり「ももたろう」だと思います。
そうですね。日本にもたくさんの昔話がありますね。
「うらしまたろう」
それぞれがたくさんの昔話を知っていますね。
有名な「ももたろう」もそうですが、授業で読んだ「おかゆのおなべ」や、自分で昔話を探して読んでいた人もいましたね。素晴らしいですね。今日は…
「たぬきの糸車」
よくわかりましたね。
前に読んだことある。
そうですか、〇〇さんはもう読んだのですか。そのときに感じたことと、これから授業でみんなで学習して感じることが変わるかもしれませんね。
それでは、先生が読んでみますので、皆さんは教科書を開いて、目で追っていきますよ。
(教師による範読)
ぼくも読んでみたいです。
私も。
そうですか。では、みんなで声に出して読んでみましょう。
(児童による音読)
「たぬきの糸車」を読んで、どんな感想をもちましたか。皆さん、タブレットに感想を書けますか。
書きたい、書きたい。
手書き入力で書いて、先生に提出してください。ここが面白かったとか、ここが好きとか、ここをもっと詳しく読んでみたいとか、自分が感じたことや分かったこと、疑問に思ったことを書きましょうね。
イラスト/横井智美