小5国語「やなせたかしーアンパンマンの勇気」京女式板書の技術
今回の教材は、「やなせたかしーアンパンマンの勇気」です。第三次(発展)としての授業を考えました。著者の異なる、複数の伝記を読み、描き方のちがいを比べることをテーマにして、板書の言葉を拠り所に考える授業になることを願った板書を紹介します。
監修/京都女子大学附属小学校特命副校長・吉永幸司
執筆/京都女子大学附属小学校教頭・砂崎美由紀
教材名 「やなせたかしーアンパンマンの勇気」(光村図書)
目次
単元の計画(全6時間)
第一次 「やなせたかしーアンパンマンの勇気」を読む。
1 「やなせたかし―アンパンマンの勇気」を読み、伝記に取り上げている出来事を確かめる。
2 それぞれの出来事の際に「たかし」がしたことや考えたこと、「たかし」の人生においてどのような意味があったのかを考える。
3 筆者は「たかし」をどのような人物と考えているか、自分は「たかし」をどのような人物だと感じたかを書く。
第二次 伝記から読み取ったことを書く。
4・5 自分で選んだ伝記について、読み取ったことと、自分自身のことを関わらせて、考えたことを200字程度で書く。
第三次 書き手の違う伝記を読む。
6 書き手のちがう、複数の伝記を読み、描き方の違いを比べる。
板書の基本
〇授業が始まる前に考えること
教材研究の際に、この教材でつけたい力を考えます。今回は、つけたい力を「伝記の読み方」「文章を読んで理解したことに基づいて自分の考えをまとめる」としました。紹介する板書は、第三次のものです。「伝記の読み方」の1つとして、違う著者による伝記を読み比べ、描かれ方の違いを見つけます。それぞれの著者が何を伝えたいかを考えながら読むことで、深い学びのある学習へとつながります。
〇板書計画で考えておくこと
板書は、1時間の学習の方法と内容を可視化すると、子供にとってわかりやすくなります。本時では、2つの本を比べる方法で学習しますので、真ん中に比べる点(またはテーマ)を示し、その左右に比較する形でまとめるようにしました。比べたことでわかったことや、著者の伝えたいことを後から書き足せるように、空間を取りながら板書していくようにしました。
〇子供が課題を一目でわかる板書を
一斉学習で課題を捉え、その次は自分で課題に向かうという学習スタイルを継続して行います。1人学習の際に「てびき」となるよう、「学習の内容と学習の方法」が一目でわかるような板書が効果的です。先生が話した学習課題を聞いてわかったつもりでいても、「音声」は消えていきますから、子供たちは考えているうちに「今の課題は何だったかな」とわからなくなってしまうことがあります。そんな時に、板書を見ると課題がわかる、または方法がわかると、すぐに1人学習に取り組むことができます。板書の「記録性」を生かすことができます。
板書のコツ(6/6時前半)
板書のコツ①
「めあて」は「書き手のちがう伝記を読み、えがかれ方のちがいを比べる。」です。学習の内容は、「父についての記述」を、違う著者の文章を比べ、その違いから伝えたいことを考えます。黒板を左右に分け、本を開いたような絵を大きく2つかき、「2つの本を比べる」という学習方法を可視化できるようにしました。
板書のコツ②
黒板右の本の絵の中に、教科書の教材文の題名、著者名などを書きます。黒板左の本の絵の中には、右の板書を例として見ながら、自分でノートに書き込みます。違う著者の文章をプリントで読みながら、子供は1人学習でノートに書き込みます。比べる2つを左右に並べることで、左右が対応するように言葉を書き込むという学習活動が明確になります。
板書の真ん中に、「父についての記述」と板書し、今日の学習はそれぞれの文章から父についての記述を見つけ「比べる」のだという次の学習課題を示します。
板書のコツ(6/6時中盤)
板書のコツ①
右の著者では「父についての記述」が1か所しかないことを確かめます。対する左の著書では「お父さんはとてもやさしくて……」という表現があることを確かめます。このように左の著者で、「父についての記述」を探しながら読むという学習方法の理解を深めます。「父についての記述」を見つけたら、自分のノートに書くように促します。1人学習の時間を5分ほど設定し、クラスで確かめたものを板書します。こうして、1人学習の方法をまずは一斉学習で一緒に進め、理解を深めます。
板書のコツ②
1人学習の時間をとった後、全体で選んだ言葉を発表させます。
子供たちの見つけた言葉を板書する際、大きく分けて2つの方法が考えられます。1つ目は、子供の発表の直後に板書する方法です。机間指導をした際に、誰もが選んでいた言葉であれば、この方法で進めます。
もう1つは、数人の子供に発表させる間は聞くのみにして、ある程度の発表を聞いた後で、「どんな意見があったかな」と振り返りながら主な意見を板書する方法です。ここで一度振り返ることで、みんなの意見として選択されたものを板書することができます。
今回は、1つ目の方法で指導しました。子供のノートには、自分で見つけた言葉がすでに書かれています。選ぶ言葉が多くあるので、友達の発表や板書の言葉と違うところを選んでいる子もいます。「父についての記述」であればそれもよいことを伝えます。改めて板書を写す必要がなく、自分の気付きを大切にするように子供に伝えます。
ここまでのノートに書く言葉は、教材の言葉を選んで書く段階です。
板書のコツ(6/6時後半)
板書のコツ①
授業の後半は、これまで選び出した言葉を基に、自分の考えを深める段階です。2つの著者の文章を俯瞰的に見て、考えたことを一斉学習で意見を出し合って進めます。
右の本の著者の場合は、1文で淡々と父との別れが書かれているのに対して、左の本の著者では、数多くの文で「父についての記述」があることがわかりました。
また、左の著者の本では、父との思い出やエピソードなどより多くの説明がなされ、やなせたかしの人生に父の存在が深く関わっていたことが描かれています。そのことから、伝記として、たかしの生涯全般を満遍なく伝えたいと著者が思っていると想像できます。右の著者にとっては、父との関わりより、副題の「アンパンマンの勇気」を重視したいのではないか、との想像ができるのではないでしょうか。「板書に書かれた言葉を拠り所に、考えられる授業になればよい」と思いながら、そのヒントをちりばめる板書計画をしました。
板書のコツ②
板書を全員で見て、今日の学習を振り返ります。「書き手」の違う伝記を読み、描かれ方の違いを比べられたか、描かれ方の違いから「書き手」の伝えたいことを考えられたか、と問いかけます。「書き手」をキーワードとして板書します。このキーワードを入れて、自分の学習の振り返りを書くように促します。毎時間、振り返りを書く時間を3~5分と決め、設定します。3文で書くなどの約束を加えるのもよいでしょう。このような学習スタイルを継続することで、子供たちは学習のしかたを理解し、授業後半には板書全体を見渡して今日の学びを意識するようになります。
構成/浅原孝子