広域校内研修チームをつくってみませんか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #37】
多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第37回は、<広域校内研修チームをつくってみませんか?>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
学校外のチーム化
お陰様で、本連載も4期目を迎えることになりました。今期もよろしくお願いいたします。
これまでは主に学校内のチーム化について扱ってきましたが、今回は、学校を超えたチーム化について述べてみたいと思います。
私に校内研修のご依頼をくださる学校には、いくつか共通したテーマがあります。次のようなものです。
●学級経営力の向上
●子ども同士の人間関係の改善
●協同学習による授業改善
これらのテーマの根底にあるものは、「教室の人間関係の質的向上を基盤にした教育活動の改善」です。各学校のニーズによって、重点は異なります。学級改善に軸足を置く学校もあれば、授業改善に軸足を置く学校もあります。同じ学校内でも職員の教職年数や子どもたちの実態によって重点を変えることもあります。また、複数年関わらせていただく場合は、初年度は、先ず学級経営の改善から始め、徐々に授業改善にシフトしていくこともあります。取組の重点によって成果の現れ方は違いますが、主に報告されるのは、次のようなことです。
●子どもの学級適応感が向上する。
●不登校が減少する。
●飛び出し、立ち歩きなどの不適切行動が減少する。
●学習に意欲的になる。
●学力調査等で点数が向上する。
学習指導要領にはきらびやかな文言が並びますが、それらを実現するには、学習環境の安定が大前提です。私の関わる校内研修では、「学級経営を中核としたカリキュラム・マネジメント」をキーワードに、学習環境の改善に取り組んでいます。
しかし、こうした研究の道程は平坦ではありません。テーマが新しいので、モデルとなる実践や先進校がほとんどないのです。同時期に複数の学校から「視察をしたいのでよい学校があったら紹介してほしい」という相談があったので、ある学校を紹介させていただきました。本誌2019年4月号の特集2で紹介された、さいたま市立大宮小学校(石井寛校長)です。大宮小学校の実践については、本誌に詳細が掲載されておりますのでご覧いただきたいと思います。
校内研修で学校がつながる
学校間で連絡調整が進められ、2020年1月に視察が実現しました。大宮小学校に集まったのは、既に同テーマで取り組んでいる静岡県と沖縄県の小学校の研究部の先生方、そして、これから研究に取り組む予定のやはり沖縄県の校長、学級経営を研究テーマにしている山梨県の教職大学院の現職院生です。それらのメンバーが、大宮小学校の今年度最後の校内研修に参加するという形で行われました。授業を参観し、協議会に参加し、情報交換がなされました。ここから先は、大宮小学校の教務主任兼研究主任の深井正道氏からの情報に基づき、話を進めます。
話題の中心は「どのように教職員の意識をそろえていったのか」、「どのように研究計画や組識をつくっているのか」、「研究をどのように評価してフィードバックしているのか」、「小・中の接続をどのようにしていったらいいのか」、「人事異動がある中で研究をどのように続けていったらいいのか」でした。
こうした話題について意見を交わしながら、参加者の関心の中心になったのは「職員間の研修に対する温度差やベクトルの違いを、どのようにそろえるか」ということでした。研究の初年度は、「このままではいけない!」といった危機感のようなものを多くの職員が持っていて、比較的、意欲もベクトルも整えやすかったと言います。しかし、年数が経つごとに、成果が出る一方で、職員間の温度差やベクトルの違いが大きくなるのも現実でした。そして、研究を進める上で、もっとも障壁となるのが人事異動でした。
ここら辺の認識のズレを、メンバーは生々しく伝え合いました。従来からいる職員にとっては当たり前のことも、新任職員には「この研究がこの学校になぜ必要なのかわからない」、「新しく来た自分たちは蚊帳の外」との声も聞かれたそうです。研究開始から3年目くらいになると、初年度の職員の半分くらいが入れ替わってしまうので継続が難しいとのことでした。
このような話は多くの方々に共感していただけるのではないでしょうか。学校の教育成果は、人事異動によって少なからず影響を受けます。他ならぬ大宮小学校も、同じ悩みを持ち、そしてそれを乗り越えるために努力を重ねてきました。深井氏は、参加者に自校の取組を伝えました。深井氏はこの日のことを、次のように振り返ります。
「初対面であったが、私たちは打ち解けるまでに時間はかからなかった。それは、子どもたち同士がつながることの大切さがわかっていて、そのためには校内の教職員のベクトルを整えていくことが重要だということを知っていたからである。新たな刺激を互いにもらい全国に同じ志を持った仲間がいると知り、心強く思えた一日だった。」
著名な学校の研究会に参加して学ぶことが効果的であることを前提に申し上げます。子ども、地域の多様化に伴い、学校の課題は個別化しています。そうしたときに、課題の解決策の選択肢(最適解)は、同じような研究テーマに取り組む学校が持っていることがあります。校内研修でつながる広域チームのような組織をつくって交流すれば、更なる深まりや発展が期待できるのではないでしょうか。実際に集合しなくても、ICT環境次第で実現可能なはずです。
『総合教育技術』2020年4月号より
赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。