「校長は最後の砦」を問い直す【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #3】

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負の連鎖を止めるために今、できること 校長の責任はたったひとつ
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大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。
第3回は、<「校長は最後の砦」を問い直す>です。

「校長は最後の砦」。この言葉は従前の学校教育の中で踏襲されてきました。読者のみなさまは、この言葉をどのように受け止めておられるでしょうか。

これまでは「校長の後はないから校長は動かず、最終責任をとらなければならない」ですね。私も校長になるときは、そんなことを伝授された記憶があります。これだけ時代が激しく進化し、目指す子ども像が従前とは驚くほど変化しています。それなのに、なぜか「学校づくり」や「校長の資質」などは変化していないように感じます。まさに、上半身と下半身がねじれている状態が、困り感の一つではないかと危惧します。

校長は子どもの一番のミカタに

5年生の子どもがいじめられて自死してしまいました。ポケットに、いじめられて辛いことや自分の葬式にこの子たちはこさせないでとまで書いたメモを入れて、飛び降りてしまいました。子どもが、自分から命をなくしてしまうほど苦しんでいた事実を知らなかっただけではなく、「いじめはなかった」と校長や教育委員会が主張するのは何を守るためなのでしょう。校長は「最後の砦」だから「いじめがあった」と言ってはならないのでしょうか。今の学校現場は、このような子どもの事実を突きつけられるのは当たり前なのかもしれません。子どもの「自死」「不登校」「いじめ」が過去最多の報道を、子どもたちはどのように受け止めているでしょうか。自分がこの立場に置かれた校長なら、どう行動するだろうかといつも考えてしまいます。

子どもは校長の行動を見ている

校長時代に、自校の教員がバイクの「酒気帯び運転」で逮捕されました。一気にネットで拡散され、全国から心ない中傷や手紙が学校に届きました。開校から5年目のことです。教育委員会に即一報を入れると、教育委員会からは、保護者集会を開いて校長が説明責任を果たせとの指示がありました。私は指示通り行動しませんでした。

私が行動する優先順位は、まず、子どもたちがこの件に対して動揺し不安になっていることを、いかに学びにつなぐかでした。そのための「みんなの学校」です。翌日に、学校で学ぶすべての子どもと大人(保護者・地域住民)が集まって「全校道徳」の授業をしました。もちろん、前日に警察に行き詳しい事実を知り、教頭と二人でその現場に行き状況をつかみました。まずは詳しい事実をみんなに伝え、この事実を学びに変えるための授業をしたのです。この教員は信頼される仕事をしていました。子どもたちと共有したのは「一切心配しなくていい。先生はいい人です。先生の行動をやり直すために時間が必要なので学校には来ません」。法を守ることの大切さと、失敗はやり直せば成功体験に変わることをみんなで学び合いました。

数日後に、子どもが私のところに走ってきました。道で出会った人から「お前らの学校の先生はろくでもない。そんな学校に通っているお前らはかわいそうやな」と言われたそうで、どうしたらいいかとの相談です。次に同じようなことがあったら「その件は校長に言ってください」と返すように作戦を立てました。このときの事実は学校にとって大ピンチです。このようなことがあってはならないのではなく、こんなこともあって当たり前だと思っておかなければ、予測困難な時代を乗り切れません。このときは、周りの大人たちで子どもを守り切ろうという目的で、それぞれが行動しました。このピンチは「みんなの学校」を進化させるチャンスに変わりました。

ただ、このときの校長の行動は、教育委員会から厳しく評価されました。一番怒られたのは、自校の不祥事に対して、校長が教育委員会に謝罪に来ないことでした。現場が困っているときにこそ、助けに来るのが教育委員会の仕事です。一切心を痛めることはありませんでした。何よりの成功体験は、この教員が処罰を受け、しっかりやり直して現場に復帰したことです。前にも増して、信頼される教員になっていることが、子どもに返す校長の仕事です。

校長は子どもの「最後の砦」に

子どもはそれぞれに、親や教員に言えない困り感を持っているものです。親や教員がわかってくれなくても、校長は子どもを守り抜く存在であらねば、学校での子どもの「安心・安全」は保障されません。どんなに困ったことがあっても、校長のところに行けば何とかなると子どもが思ってくれる存在になることが、「最後の砦」なのではないでしょうか。もちろん、校長一人では何一つ解決できないかもしれません。しかし、子どもが「大丈夫」と言うまで、その子のそばで伴走することはできます。 保護者や教員からのクレームは、湯水のように止まるところを知らない状況であることや、教育委員会や外部からの圧も強くのしかかることは、現在の学校の当たり前なのかもしれません。気にならないと言えばうそになるでしょう。しかし、校長として優先するのは、自校の子どもの一番のミカタであるかどうかです。子どもは言葉にはしませんが、校長の行動を見て感じています。子どもにとっての「最後の砦」が校長であってほしいと切に願います。


 最後の砦」を問い直そう!
 校長は行動の優先順位を間違えてはいけない。
 子どもは毎日の学校生活の中で、言葉にしないけれど校長の行動を見ている。
 校長は困っている子どもの「最後の砦」になろう!

『総合教育技術』2022年秋号より


木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。


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