子どもたちが集団として成長するには?|アヤ&メグの新任教師お悩み相談⑤
新任教師のお悩みに2人の先輩がお答えするシリーズ第5回のテーマは、「子どもたちが集団として成長できる工夫」。教職15年目の樋口綾香先生と、11年目の竹澤萌(たけざわめぐみ)先生が、具体的な実践の紹介とともに、担任として意識したいポイントを教えてくれます。
Instagramでは2万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載! このシリーズのテーマは、「子どもの力を引き出す担任の在り方」。初任の先生の悩みや疑問をもとに、先輩教員2人が考え方や手法を提案します。答えるのは、15年目の樋口綾香先生と、11年目の竹澤萌先生。具体的な問題場面に対して、担任として意識したいポイントを提示し、2人の考えを共有します。
きっと、正解は一つではありません。状況によって、考えや行動は柔軟に変化させなければならないでしょう。目の前の子どもたちの力を最大限生かすための方法を、いっしょに考えていきましょう。
執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香
目次
今回の相談「もっと子どもたちの力を引き出したい」
[今回の相談]
学級じまいまで残り4か月。もっと子どもたちの力を引き出したいと考えています。子どもたちが集団として成長できる工夫には、どんなものがありますか?
第5回の相談は、学級の様子についてのお悩みです。
前回、11月は子どもたちが落ち着かなくなることもある一方で、子どもたちが大きく成長する実りの季節でもあるとお伝えしました。
担任としては、その成長をさらに加速させたいと願うものですが、子どもたちはどうでしょうか。教師と子どもの思いが一致しているとは限りません。できるだけ一人ひとりの思いを大切にしながら、学級、学年という集団で力を伸ばしていくには、どのようなことを意識し、どんな取り組みをすれば良いのでしょうか。
まずは竹澤先生に聞いてみましょう。
竹澤萌先生の回答
まず、子どもたち自身が「自分たちの暮らしをよりよくしようとする気持ち」をもっていることが重要だと考えています。この考え方が子どもたちの心にないと、「隣のクラスは楽しそうでいいな」「前の学年(先生)は○○だった」と、自分とは関係ないところを理由に不満を抱く傾向があるからです。
だから私は、「学校での楽しい暮らしは先生が与えてくれるものではなく、自分たちでつくりだすもの」ということを、学級を開いたときから子どもたちにくり返し伝えるようにしています。
その上で集団として成長するためには、
- 対話で課題解決に向かう力
- 企画・運営・表現する力
このような力が必要だと考え、担任として働きかけるようにしています。今回は、1~6年生のどの学年でも実践してきた二つのことを紹介します。
1 クラス会議で対話の力をつける
クラス会議とは、お楽しみ会の計画やスローガン決めなどの話合いに加え、子どもたちの「ちょっと困った」や「これってどうしたらいいかな」といった個々の悩みや困り感も全体で共有し、解決していくものです。
全員に発言の機会があることや、和やかな雰囲気で対話できるところがよい点です。
そして、自分たちだけで話し合って解決する経験の積み重ねが子どもたちの自信になり、集団の力を伸ばすことに繋がると考えています。
私のクラスでは、司会進行カードとしてスケッチブックを使用しています。
表には「今話し合っていること」を書き、今は何をすべきなのかを全員が視覚的に理解できるようにします。裏には、司会者の台詞が書かれています。台詞は教師側で全部を決めません。司会グループの子どもたちが、話合いの流れに沿って臨機応変に考えながら話せるように工夫しています。スケッチブックだと、話していても顔が自然と上がる点もオススメポイントです。
【参考文献】
いま「クラス会議」がすごい! 著:赤坂真二(学陽書房)
対話でみんながまとまる!たいち先生のクラス会議 著:深見太一(学陽書房)
2 係活動やプロジェクト活動で企画・運営・表現する力をつける
私は、1年生のときから自治的な係活動やプロジェクト活動を仕組むことで、クラスや学年のよりよい集団形成を目指しています。友達と一緒に何かを成し遂げる経験は、高学年になったときに異年齢集団のリーダーシップをとる力や、学校行事で大きな集団を動かす力にも繋がると考えているからです。
(1)係活動
まずは同じ係に所属した子ども同士でつながり、どんどん企画・運営してもらいます。
すると、たった数人の小集団活動でも、個々の考え方の違いやモチベーションの高低差などから、うまくいかないことがあります。そんなときこそ、自分たちで課題を見つけ修正し、折り合いをつけて解決していく経験をするチャンスです。
はじめは子どもたちだけの解決が難しそうなら、担任がサポートに入ります。次第に係活動が軌道に乗ってくると、係同士でコラボレーションした企画が行われたり、子ども新聞で発信したりと、表現方法を変えながらクラス全体へ繋がる姿が見られるようになってきます。
高学年担任をしているときには、係活動のアイデアがそのまま委員会活動へ転用され、学校全体に繋がったこともありました。日々、どこかの係が何かしらのイベントを開いているので、子ども同士のよい刺激にもなります。係活動を軸にすることで、楽しみながら集団力をアップさせることができます。
(2)プロジェクト活動
係活動は学級内にとどまってしまうことが多いので、学級・学年の垣根を越えてできる活動を取り入れます。それがプロジェクト活動です。
昨年度の4年生では「○○実行委員会」と名づけ、5年生での委員会活動のプレ活動にもなるように意識させていました。例えば、運動会の表現や宿泊行事のレク、自主学習選手権、なわとび選手権などを子どもたちが企画し、運営メンバーを決めて、学年で競い合ったり協力し合ったりしていました。また、「にこにこ(2年5年)プロジェクト」として、朝の学習の時間に5年生が2年生に勉強を教えに行く活動をしていたこともありました。企画・運営した結果の先に子どもたちの笑顔が見られることが、集団として成長するために大切なのではないかと感じています。
★自主学習選手権、フェスティバルの写真
樋口綾香先生の回答
2学期は、運動会、音楽会、林間学校、遠足、マラソン大会など、いろいろな行事が目白押しです。私の勤務校も例に漏れず、毎月のように学校行事を抱えている状態です。
このようなときに、子どもたちが自分自身の“今”を見つめながら、落ち着いて行動し、行事を通して“未来”の自分を想像できるように、私は次のような取り組みをしています。
行事で大切にしたいこと
今年度は、すべての行事において、以下の通りに進めています。
- 担任から行事の目的を伝える。
- 担任から、学年としてどのような姿を目指してほしいかを伝える。(子どもたちで考えを出し合う場合もある)
- 目指す姿から、個人の目標を立てる。
- 担任から、子どもたちの姿を見て気づいた、よい点を伝える。(練習中も伝える)
- 担任から、行事を通して成長した姿を毎日の生活につなげる意識をもたせる。(練習中も伝える)
- 目標に対する振り返りをする。
- 行事を通した自分の変容を中心に、作文を書く。
- 作文を読み合い、仲間のがんばりに気づく。
ポイントは、「目指す姿を明確にすること」と、「仲間と思いを共有すること」です。
行事は、何も考えずに行うこともできます。毎年のことだから、決まっているから、という考えで取り組んでしまうと、子どもたちが自己調整力を身につけることはできません。また、目指す姿を共有していなければ、仲間の努力に気づくことも難しくなります。
学習発表会 〜担任として感じたこと〜
先週終えた学習発表会でも、上記のような流れで、子どもたちと目指す姿を共有し、目標を立てました。
また、目標を達成するために努力できる点を考えさせるように、
- 好きな歌の歌詞
- 好きな理由
- どのような思いや意図をもって歌を歌うか
ということを、ワークシートに書くようにしました。
合奏においても自分の役割に合わせて、目標を立てました。
毎回、合唱の練習を終えると、歌声がどうであったか、聴いている人の立場から子どもたちに感想を伝えました。そして、立てた目標に対して、今日の歌い方はどうだったか、頑張れたところはどこかを自分で振り返るようにしました。
子どもたちは練習の度に、合唱も合奏も上達していきました。さらに、子どもたちの振り返りも豊かになっていきました。一人ひとりのがんばりが、全体の歌声を変え、響き方が変わっていることを感じていたのでしょう。
学習発表会を終え、作文を書きました。作文の条件は、以下のようにしました。
- 好きな歌詞とどんな想いや意図をもって歌ったかを入れる。
- 目標と目標に対する振り返りを書く。
- 情景描写を入れる。
子どもたちの作文を紹介します。
・Aさん
・Bさん
・Cさん
どの作文も、私はとても感動しました。目標を達成するために、子どもたちがどんなことをがんばっていたか、どんな思いでいたかを知ることができて、胸がいっぱいになったのです。また、来年度に思いを馳せていたり、一人では成し遂げられなかったということに気づいていたりすることに、子どもたちの成長を感じました。
私たち教師は、子どもたち一人ひとりのよいところに気づき、それを伝えることで子どもの力を引き出したいと願っています。しかし、それはそう簡単なことではありません。いつも難しさを感じ、何もできていない自分を責めたくなることもあります。
そんな中でも、作文を読んで私が感動したように、子どもたちにも仲間のがんばりに気づいて欲しいと思い、作文を共有しました。
子どもたちは、一人ひとりが抱えていた思いが違っていたことや、家でも一生懸命練習していた子がいたことなどを知ることができました。この気づきが、相手を認め、尊重することにつながります。相手を大切に思う気持ちが少しずつ積み重なることによって固い絆となり、集団としての大きな成長につながります。
このような機会をできるだけたくさんもちたいと、私は考えています。
クラス会議、係活動やプロジェクト活動、そして学校行事。これらの取り組みの中で、私たちが大切にすべきなのは「子どもたちの思い」ではないでしょうか。
今の自分はどうか、どうなりたいと願うかを具体的に考える。そのためにはどんな力が必要か、どう行動すればよいか、子どもたちが見通しをもつ。そうすることで自己調整力が身につき、力を高めていけるのです。
そして、仲間と協力・協働することの必要性やよさを実感できる場を設けることで、その達成感を味わい、協力・協働することの価値を一層高めることができます。
どんなことにも、「活動ありき」「行事ありき」で考えるのではなく、子どもを中心にして、取り組んでいきたいですね。
樋口先生が登壇されるイベントの紹介です。
2022年11月19日(土) 令和4年度 池田市立神田小学校 公開授業研究会
樋口 綾香
ひぐち・あやか。Instagramでは、@ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『子どもの気づきを引き出す! 国語授業の構造的板書』(学陽書房)ほか。編著・共著多数。
竹澤萌
たけざわ・めぐみ。11年目、支援学級担任(2022年現在)。栃木県で学年学級担任を10年間経験した後、結婚を機に大阪に転居。現在は樋口綾香先生と同じ学校で勤務中。Instagramでは、@mohepipipiとして、様々な実践を発信している。
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