箏で奏でる楽しい日本の音楽の授業
日本に生まれ育った子供は、日本古来の歌の一曲ぐらい、いつでもどこでも、胸を張って歌えるようであってほしい・・・そんな願いをもって音楽を指導してきた上野学園大学音楽学部教授の山内雅子先生が、30年の実践から日本の音楽の授業を紹介します。今回は、箏を使った、「こきりこ節」「越天楽今様」「さくらさくら」の授業実践例です。
目次
楽しい民謡の授業
自然で無理のない歌い方で歌うということは、学習指導要領によると、こうあります。
「児童一人一人の声の特徴を生かしつつも、力んで声帯を締め付けることなく音楽的には曲想に合った自然な歌い方で歌うことである。」
小学校学習指導要領解説音楽編より
民謡の授業は、リラックスした楽しい雰囲気の中で、目的意識をはっきりともって取り組めるよう、子供たちを肯定的な温かい目で見るとともに、メリハリのある授業を目指します。
民謡の授業 準備と実践
- 適切な音源(先生がよいと思う音源で、子供がいっしょに歌える声域のもの)を選ぶ。
- 音源を聴いて、できれば歌詞譜を先生がつくろう(母音部分をカタカナで書き入れることを忘れずに!)。
- 授業では、音源を聴く。→音源といっしょに歌う。→手拍子でリラックスして自分たちだけで歌う。
- 最終的には、自分の生まれもった声に自信をもって、堂々と独唱できるようにしたい。
「こきりこ節」について
「こきりこ節」は、富山県南砺市の五箇山地方に伝わる民謡です。「こきりこ」は山地に自生する竹ですが、合掌造りの天井に用いられ、囲炉裏の煙でいぶされて乾燥し、響きのよい音をだす燻竹となりました。これを楽器として生かした人々の知恵は素敵です。この民謡の由来は諸説ありますが、人々が身近にある鍬や手製の楽器を鳴らしながら五穀豊穣を祈って歌い踊った歌であることは確かでしょう。
今日は民謡に挑戦します!歌詞譜を見ながら、まずは聴いてみましょう。
声がお腹から出ている感じがして、気持ちよさそう!
旋律の動き方がクネッとしていて、おもしろい!
音源をまねして、歌ってみましょう。
子供はすぐに歌えます。「3回音源といっしょに歌ったら、4回目はみなさんだけで!」と見通しを持たせて、歌いはじめましょう。
和楽器の伴奏も平易です!
和太鼓を打つときは「腰を割る」(相撲で使う言葉で、両足を開き、ひざを曲げて腰を落とす)のがポイント。♪ドンドンカッカッドンカカカッカッと歌いながら。
箏が一面あれば、すぐに伴奏可能です!
とっても楽しい「越天楽今様」の授業
箏で伴奏すると素敵です。五線譜を使わず、旋律の抑揚にあわせた「歌詞譜」を用いると、より平安時代のゆったりとした雰囲気が自然に生まれてきます。
「越天楽今様」について
雅楽『越天楽』の旋律に今様(現代風)の歌詞を付けて歌われた、平安時代の流行歌です。様々な歌詞が今も残されていますが、教科書には、慈鎮和尚が作詞した春夏の歌詞が掲載されています。
♪きょうの給食 なんだろう~……
♪修学旅行が 楽しみだ~…
と七五調で、令和元年の歌詞を子供が自由に工夫して歌う活動も楽しいです。
【準備】一面の箏を準備し、調弦する(二面・三面を使っても可)
【実践】箏の伴奏にのって、のびやかに歌いましょう
模造紙に書いた歌詞譜を黒板に貼って、心も体も開いてのびやかに歌います。
下のイラストのように、大きく腕を回しながら歌う活動は、のびやかな歌声を引き出します。
【応用】1回目は斉唱で、2回目は輪唱にして歌ってみましょう
伴奏はひたすら〈トンカラリン、シャン、シュルルルルン〉の反復です。伴奏児童A「トンカラリン」の反復、伴奏児童B「シャン、シュルルルルン」の反復と分担してもよいでしょう。
「越天楽今様」は演奏会向きです! とても美しいです。
口唱歌を用いた「さくらさくら」の授業に挑戦
担任の先生が、複数の箏を準備するのは大変かもしれません。一面での挑戦、二~三面での挑戦、五~六面での挑戦、十面での挑戦! 学校によって、実態は様々かと思いますが、口唱歌(くちしょうが)を使うことで、必ずしもたくさんの箏がなくても実現可能な、箏曲「さくらさくら」の授業を紹介します!
口唱歌(くちしょうが)ってなに?
口唱歌とは、和楽器の伝承において用いられてきた学習方法で、リズムや旋律を「チン・トン・シャン」などの言葉に置き換えて唱えることである。口唱歌は、和楽器の学習だけではなく、音楽づくりにおけるお囃子づくりや、我が国の音楽の鑑賞の学習においても効果的な方法である。(小学校学習指導要領解説音楽編p.129)
口唱歌を用いることで、実際に和楽器がなくても、その音楽の本質的な部分を楽しく学ぶことができます。下の写真は、新卒3年目の、特に和楽器の学びはしてこなかった先生が、口唱歌を用いて楽しい「さくらさくら」の授業をしたときの写真です。4年生の子供たちは、それは楽しそうに大きな声で口唱歌で「さくらさくら」を歌いながら、曲想にふさわしい表現を工夫していました。口唱歌は和楽器の授業の要です!
【調弦】一面の箏が準備できたら・・・まずは調弦をします
●箏は、一面 ・ 二面というように数えます。
●糸に立てる白いものは、柱(じ)といいます。
●柱を倒さないよう、写真のようになるべく柱の下の方を持ちます。
【知識】弾く前に知っておきたい箏の知識
箏の流派には四角い「角爪(かくづめ)」で弾く生田流と、丸い「丸爪(まるづめ)」で弾く山田流があります。弾き方が違いますので、学校にある爪がどちらか、確認しましょう。角爪の学校が多いようです。
生田流では、斜めに座ることで爪の角が糸に当たり、よい音で奏でられます。
【練習】先生がまずは練習してみましょう
一つ一つの音の余韻を味わいながら、ゆっくりと弾いてみましょう。その際、「コロリン」は爪に体重をのせて、息を吐きながら、フレーズを感じて弾きます。
【授業】いよいよ授業です
黒板に歌詞譜を貼り、情景を思い浮かべながら、箏の伴奏にのって「さくらさくら」を歌います。伴奏者はもちろん先生です。二の糸と一の糸を、交互に弾くだけでも十分です! 目線は子供たちへ!
【口唱歌】ついに口唱歌
日本の伝統的な音楽の多くは、「口唱歌」と言って、音楽の音を言葉にして歌いながら、ずっと伝えられてきました。今日は、「さくらさくら」の口唱歌を覚えましょう。まず、先生が歌ってみますね。
ここで、先生が恥ずかしがらずに、大きな声で堂々と歌うことが授業成功の鍵です! 子供たちはにっこにこ! 次は、オウム返しで歌います。
♪コロリンのところは、どんな風に弾いたら、この曲に合うでしょう?
●2人に一面の箏を用いた岡本教諭は、口唱歌の「コロリン」の部分に焦点を当てて、ペアで歌ったり奏でたりして、「コロリン」の表現を試しながら、子供が主体的・協働的に表現を工夫するよう導きました。
●学級全体で一面、二面の箏での授業では、グループごとに口唱歌で歌い方を工夫し、「エア箏」で口唱歌で歌いながら発表するのも楽しいでしょう。グループの代表児童が前に出てきて、演奏にトライしてもOK! 5~6人に一面の箏があれば、グループで口唱歌と演奏を工夫することができるでしょう。
●全曲の演奏は、3人に一面の箏を準備できれば可能です。無理をしなくても、一面の箏で、上記の「伴奏」と「かざり」を順番に体験させるだけでも、十分よさを味わうことができます。
山内雅子 上野学園大学音楽学部教授。「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説音楽編」作成協力者。
監修・文部科学省教科調査官 志民一成
イラスト・かつまたひろこ
資料提供・株式会社全教図
『教育技術 小五小六』2019年9月号より