【相談募集中】校長先生から「来年度は更新するつもりがない」と言われました

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東京未来大学非常勤講師

山中伸之

臨時教員の女性教諭から「みん教相談室」に相談が寄せられました。来年度の更新を見送ると校長先生から告げられたそうです。この相談に対し東京未来大学非常勤講師 山中伸之先生の回答した内容をこちらでシェアします。

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Q. 臨時教員の更新が見送りになってしまいました

公立小学校で産育代替として、低学年担任をしています。年齢を経てからのスタートで、臨任は通算で7年半、特別支援学級から始まり、現在は通常学級を受け持ち5年が過ぎました。高齢者を相手に、まわりも教えにくいのだと思いますし、また私も、何をどう質問したらいいのか、わかってきたのがようやく今年度。ここ3年半ほどは、とても落ち着いて心優しい子供たち、保護者に恵まれ、ここまで来ました。

が、今年度、来年度も続く案件なのに、校長先生から「来年度は更新するつもりがない」と言われました。ほかにもっと評価の高い臨時任の人が見つかったため、ということのようでした。私は臨時の名簿登載者ですが、今それでは足りない、そんな状況でも更新されないのは、よほど低評価なのでしょう。

校長先生は他校に紹介することならできると仰ってくださいましたが、6年もやって、こんな状態の力では、子供たちに申し訳なく、教育現場は去る予定にしています。でもゆっくりしたら、考えたい。何をどうすれば、どんな難しい子のいるクラスでも潤滑に動かし、どんな難しい子であろうと子供の心をつかみ、どんなクラスでもよい学級経営ができるような力をつけられたのか。

もう、担任に戻る気はありません。でもまだ人生は続きます。今後にこの反省を生かしたいと思っています。 どんなふうにしたらいいのかと思っていますので、ご助言いただける方よろしくお願いします。(茉莉先生・40代女性)

A. 茉莉先生は「途上の教師」であり、教える権利を持っている選りすぐりの先生です

茉莉先生、このご相談をお送りくださった頃からは、少しでも心が落ち着いたでしょうか。おつらい気持ちが私にもよくわかります。私にも同じような体験がありますので。

ご相談に「どんなふうにしたらいいのかと思って」とあります。先生がまずおやりになった方がいいのは、ご自分を癒やすことではないかと思います。ご自分でご自分のことを「よくやっているね」「がんばっているね」「とてもいいよ」と認めてほめてあげてください。

もしかしたら、そんなことはできない、そんなことをしている場合ではない、とお思いになるかもしれません。そのときは、そのように思ったご自分を「そう思ってしまうよね」「そう思ってしまっても仕方がないよね」と認めてあげてください。

先生のご相談を拝見しますと、先生はすばらしいご実践をされていると思うのです。それは、「3年半ほどはとても落ち着いて心優しい子供たち、保護者に恵まれ、ここまで来ました」という部分です。

昨今の教育の現場は、「どんなに頑張っていても保護者からのクレームはあるもの」と思っていなければやっていられないほど厳しいです。そんな中で、落ち着いた学級をつくり、保護者との関係をつくって来られたのです。大いに自信を持ってしかるべきところだと敬服しています。

このような学級経営をされて来られたことが、そのまま先生の教育が間違っていなかったことの証明なのではないでしょうか。素晴らしい学級経営をされていると思います。

さて、昨今の研究では、人が成長していくためには、「やる気」「集中力」「粘り強さ」「協調性」「思いやり」などの、点数で表せない「非認知能力」が大きく関わっていることが分かってきました。これらは点数に表せませんので、点数化できず、見えにくい能力です。しかし、学力を下支えする大事な能力です。

私の想像ですが、茉莉先生はこの非認知能力を大事に育てられていらっしゃるのではないでしょうか。その成果が、落ち着いた子供たちや保護者との信頼関係に表れているのだと思います。

ところが、当たり前のことですが、世の中にはこの非認知能力を大事にする立場の人と、点数化できる認知能力を大事にする立場の人がいます。もしも校長先生が後者のお立場だとしたら、それは能力の問題ではなく、そもそもの教育観が異なっているのだと思います。

茉莉先生はご相談の中でこうおっしゃっています。「ほかにもっと評価の高い臨時任の人が見つかったため、ということのようでした。私は臨時の名簿登載者ですが、今それでは足りない、そんな状況でも更新されないのは、よほど低評価なのでしょう。」

ここに書いてあるのは先生の「推測」です。なぜ、そのように推測してしまったのかを考えてみることは、ひとつの明るい希望につながるように思います。やや理屈っぽいのですが、以下しばらくお付き合いください。

ABC理論というものがあります。A(出来事)、B(思考・考え方)、C(感情・行動)です。ある出来事の結果としてある感情・ある行動が起こるのですが、それはその人の思考・考え方によるというものです。

茉莉先生のご相談をこのABCに当てはめてみます。

A…今年度、来年度も続く案件なのに、校長先生から、来年度は更新するつもりがない、と言われた。
B…茉莉先生の思考・考え方(によって)
C…6年もやって、こんな状態の力では、子供たちに申し訳なく、教育現場は去る予定

ここでBの「茉莉先生の思考・考え方」を考えてみると、ここには次のような認知バイアスがあるのではないかと私は思います。

(1) 1人の人がそう考えていることを、みんながそう考えていると思いこんでしまう
⇒校長先生お1人の言葉を、みんなの言葉と考えてしまいます。
(2) 一部を全部だと思い込んでしまう。
⇒この学校に合わないということを、全部の学校に合わないと思ってしまいます
(3) 拡大解釈をしてしまう
⇒たまたま校長先生の考えに合わないことを自分の能力のせいにしてしまいます

このような認知のバイアスにお気づきになることで、先生のお気持ちやお考えが変わる部分もあるのではないかと思います。

次に、ご質問にあった「何をどうすれば、どんな難しい子のいるクラスでも潤滑に動かし、どんな難しい子であろうと子供の心をつかみ、どんなクラスでもよい学級経営ができるような力をつけられたのか。」についてです。

残念ですが、このご質問に答えることは私にはできません。なぜなら、おそらく、世の中の先生で、そのような力をもっている方は1人もいないと思うからです。お力のある先生でも、悩みながら試行錯誤しながら教育にあたっていると思います。

言うなれば、そういう先生方は「途上の人」です。最高の教師を目指して学び続けているからです。そして「途上の人」である先生こそが、素晴らしい先生なのだと私は思います。

ドイツの教育学者アドルフ・ディースターヴェークの言葉に次のようにあります。
「進みつつある教師のみ人を教うる権利あり」

「途上の教師」だけが教える権利をもっています。その意味では、茉莉先生は正しく「途上の教師」であり、教える権利をもっている選りすぐりの先生だと私は思います。

最後になりましたが、先生が教育現場には戻らないという決断をされたことを、私は否定しません。離れてみて分かること、離れてみて気付くことがたくさんあるということを私も身をもって経験しているからです。もし教育現場を離れたお立場になられた際には、多くのことを学びとっていただければ幸いに思います。

1つだけ、先生にご希望を申し上げます。

いつの日か(それは今すぐかもしれませんが)、「もう一度学級担任をしてみたい」という思いが、天啓のように閃く日が必ず来ます。そのときには、今回のご決断を微塵もお気になさらず、希望をもって学級担任に復帰されてください。過去にとらわれる必要はまったくありません。そういう考えを気にすることもまったくありません。そのように言う人に気兼ねすることもまったくありません。

茉莉先生のこれからの人生がより輝くことをお祈りしております。


みん教相談室では、現場をよく知る教育技術協力者の先生や、各部門の専門家の方が、教育現場で日々奮闘する相談者様のお悩みに答えてくれています。ぜひ、お気軽にご相談ください。

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