読み書き障害の特性と問題点とは~特別支援教育を知る①~

教育現場では、発達障害がある児童生徒の対応に苦慮している現実があります。今回、小社の『通常学級の発達障害児の「学び」を、どう保障するか』の発刊を記念して、専門家3人によるオンラインセミナーを開催しました。そのなかから、我が国の発達障害研究の第一人者である竹田契一氏による講座を2回に分けてお届けします。1回目は、読み書き障害の特性と問題点についてのお話です。

講師/大阪医科薬科大学LDセンター顧問、大阪教育大学名誉教授・竹田契一

LDで困っている子のイメージイラスト

1980年代に「LD」という言葉が登場

1980年代には、LDというセーフティネットが登場しました。大きな傘の下に、読み書きに特化したディスレクシア、ADHD、当時使っていた言葉でアスペルガー症候群、高機能自閉症など、すべて「LDですね」と言っていた時代でした。1980年代から1990年代には、ADHD、自閉症スペクトラム障害とはどういうものかがはっきりしてくるという時代があり、LD学会が設立した1992年あたりから、ADHD、自閉症スペクトラム障害の分け方が医学に沿って明確になっていきます。

子どもの最初の気付きは、成長の時期によって目立つ特性が異なります。幼児期は、行動面の問題が目立つ時期で、保護者が子どもを連れて、医者に行くと、「ADHDと言われた」と。同じ子が小学校に入って、読み書きが問題でLD と呼ばれたり、学年が上がり対人関係の問題が出てきたときには自閉症スペクトラム障害と呼ばれたりすることがあります。

保護者から「年齢によって名前が変わるんですか」と聞かれたことがあるのですが、そうではありません。このAさんという子は、幼児期にから3つとももっていたのですが、成長の時期によって、目立つ特性が変わってきているので、そのように診断名が変わるということが起きます。

LDの子どもには、小学生ごろから出てくる生きづらさの問題があります。

LDの教育定義(1999年)として、文部科学省が次のように定めています。

LDとは、「基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算するまたは推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。LDは、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない」

読み書き障害(ディスレクシア)の捉え方

ここでは読み書き障害について取り上げます。

読み書き障害とは次のような問題点が見られます。

読みの問題点

・たどり読みになる(逐次読み)
・読むのに時間がかかる
・読み誤る
・文字やことばを抜かして読む
・行を飛ばす、同じ行の頭に戻る
・読んでも、意味が分からない
・文章になると意味が分からない

書きの問題点

・文字を思い出せない、時間がかかる
・文字の形を誤る
・文字の選択を誤る
・字の大きさ、形が整わない
・行が乱れる
・文字、単語が抜ける
・文章が書けない、作文が書けない

読み書き障害を大きくまとめると次のような項目になります。

1言語の障害(Language based disorders)
2文字を音に変えるのが困難(Decoding)
3音韻処理・認識の障害(Phonological Processing)
4 流暢性に欠ける、処理速度の低下、理解は良好

文字を音に変えるのが困難というのは、「りんご」を「り」「ん」「ご」という音に一瞬のうちに全部変換する(専門用語で「ディコーディング」と言う)のが困難であるということです。

読み書き障害の場合、聴覚が問題になっている場合があります。そのため、次のような問題点が見られます。

私たちは、複数の音を同時に聞いているときに、重要な音に注意を向け、それ以外の音をカットするノイズカットができますが、聴覚に問題がある場合、ノイズカットが難しく、教師の声と周りの声がいっしょに入ってきます。そのため、集中ができず、学習が妨げられます。教室の中で教師の指示の聞き取りができないときは、前列中央に座席指定をすることが望ましいと言われています。

音韻認識の能力は、次のようなことで確認できます。

音韻認識の確認のしかた

1.音の取り出し…「あたま」の2番目の音は何ですか。→「た」が言えるか。
2.音の削除…「あたま」の「た」を抜いてください。→「あま」が言えるか。
3.音の逆唱…「リンゴ」「のりまき」を逆から言ってください。→「ゴンリ」「きまりの」が言えるか。
4.非意味語の繰り返し…意味のない言葉「るんねさ」を繰り返し言ってください。→「るんねさ」が繰り返し言えるか。

小1、小2では、最初の何回かはできないこともありますが、だんだん慣れて、できるようになっていきます。何回行っても時間がかかる場合、正確にできても時間がかかる場合は、音韻認識の問題を疑うようにします。

読みの基礎となる能力

・文章読みでは、知的能力、言語能力、文法理解などが必要。
・文章読みでは、眼球運動コントロールが必要。
・文章を読むには、まずは単語が読めることが基礎となる。
・単語を読むためには、漢字や仮名(清音、濁音、半濁音、拗音)が読めることが基礎となる。
・単音または単語読みには、音韻認識、視覚情報処理の能力が必要。
・文章の読みでは「まとまり」で読めることが必要(意味・イメージの一致)。
・文字を音に変換する速さ(ディコーディング・スピード)。

「ノートが取れない」要因

ノートが取れないという子は次のような要因が考えられます。

・音韻認識力が弱いため、先生の話が聞き取れない。
・近い音の弁別が困難で聞き間違える。
・ワーキングメモリが弱く、書き始めると忘れる。
・漢字が思い出せない(漢字のイメージが頭の中に思い浮かばない)。
・ディコーディングの障害があるため文字を音へ、音を文字に変換するのに時間がかかる。
・聞いたことをまとめること(再生)が困難。

こういう様々な問題からノートが取れなくなるということがあり、このような場合の支援策としてICTの技術を活用することが考えられます。

読み書き障害では、最近は見る力の問題を抱えている子がたくさんいることが分かってきました。

つまずきの背景にある「見る力」とは

ディコーディング(文字を1つひとつ音に変換するプロセス)の問題
単語認識(単語のまとまり読みプロセス)の問題
視知覚の問題(図形と素地の弁別の障害など)
眼球運動(視線を素早く正確にジャンプ、視線の固定、追視)のコントロールの問題
視力、屈折、調節(見ているものの距離に合わせてピントを合わせる)の問題
両眼視(両目のチームワーク、立体感)の問題 
(奥村2010)

これらがすべて読み書きに関係してきますので、調べておくことが大切です。

これらのことをしっかり分かった担任が必要です。読み書き障害ではどこでつまずいているかを、クラス担任がきちんと把握できるかどうかが、子どもの将来に大きく影響してきます。

(第2回目に続く)

竹田先生写真

プロフィール
竹田契一(たけだ けいいち)
大阪医科薬科大学LDセンター顧問、大阪教育大学名誉教授
1961年米国アズベリー大学卒業。1962年米国ピッツバーグ大学大学院語病理学科修了。1965年米国ミシガン大学大学院言語病理学科中途帰国。1975年慶應義塾大学医学部大学院医学研究科修了、医学博士。1975年大阪教育大学聴覚言語障害児教育教員養成課程助教授。1983年大阪教育大学障害児教育講座教授。2002年同大学定年退官。大阪教育大学名誉教授、大阪医科大学客員教授。2007年より大阪医科大学LDセンター顧問。一般社団法人日本LD学会副理事長、一般財団法人特別支援教育士資格認定協会理事長。主な著書に、『図説LD児の言語・コミュニケーション障害の理解と指導』(共著、文化科学社、2007年)、『高機能広汎性発達障害の教育的支援』(明治図書、2008年)など多数。

取材・文・構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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