「ネット・ゲーム依存」とは?【知っておきたい教育用語】
近年、児童生徒の「ネット依存」に関わる問題が深刻さを増しています。その実情や、依存によって生じるリスクなどについて正しく理解し、適切な指導に活かすことが必要です。
執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム
目次
ネット依存が疑われる子どもが増加
厚生労働省循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「飲酒や喫煙等の実態調査と生活習慣病予防のための減酒の効果的な介入方法の開発に関する研究」の平成29(2017)年度報告書によると、インターネットの「病的使用者(※)」の割合は、中学校では12.4%(男子10.6%、女子14.3%)、高校では16.0%(男子13.2%、女子18.9%)となっており、2012年度の調査結果(中学校6.0%、高校9.4%)と比べて大幅に上昇しました。
また、「不適応使用者(※)」の割合も、中学校では21.8%(男子20.8%、女子22.9%)、高校では27.1%(男子24.3%、女子29.9%)となっており、2012年度調査における中学校12.6%、高校18.5%と比べて高くなっています。
ここから、ネット依存が疑われる中学・高校生は2017年度時点で約93万人と推計されており、2012年度と比較して40万人以上増加しました。近年は、コロナ禍で在宅時間が増えたこと、さらに、GIGAスクール構想による1人1台端末やタブレットの持ち帰りなどによって、ネット依存が疑われる児童生徒のさらなる増加、深刻化に加えて、対象年齢の低下も予想されます。
※「ネット依存」の概念を提唱した、アメリカのキンバリー・ヤング博士が作成した8項目からなるネット依存のスクリーニングテストで、5項目以上該当した者を「病的使用者」、3、4項目該当した者を「不適応使用者」、2項目以下なら「適応使用者」としている。
子どものインターネット利用時間は増加傾向
内閣府が2022年に発表した「令和3年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」の調査結果によると、青少年(満10歳から満17歳)の97.7%が「インターネットを利用している」と回答し、校種別で見ると、高校生が99.2%、中学生が98.2%、小学生(10歳以上)が96.0%でした。
また、インターネットを利用していると回答した青少年の1日あたりの平均利用時間は、前年度と比べて約1時間増加し、約4時間24分。校種別でみても、いずれも前年度と比べて約1時間増加しており、高校生は約5時間31分。中学生は約4時間19分。小学生(10歳以上)は約3時間27分となっています。
もっと幼い層を見ても、インターネットを利用している低年齢層(0歳から満9歳)の子どもの1日あたりの平均利用時間は、前年度と比べて約7分増加し、約1時間50分となっています。
子どものインターネット利用時間は年々増え、利用対象となるコンテンツも多様化しており、それに伴ってネット依存のリスクも高まっていると捉えることができます。
「ゲーム障害」は国際的に疾患と認定
ネット依存は、ゲーム障害とあわせて「インターネット・ゲーム障害(Internet Gaming Disorder)」という名称で、一般的に「ネット・ゲーム依存」といわれます。
「依存症」は病気の一つであり、日々の生活や健康、大切な人間関係や仕事などに悪影響を及ぼしているにもかかわらず、特定の物質や行動をやめたくてもやめられない(コントロールできない)状態のことを指します。
依存の対象は、物質と物質でないものに大別され、前者の物質依存症にはアルコールやニコチン、薬物、そして後者の行動嗜癖にインターネットやゲーム、ギャンブルが含まれます。
ゲーム障害は、WHO(世界保健機関)が2019年6月に発表した、国際疾病分類の第11回改訂版「ICD-11」(2019年5月25日採択、2022年1月1日発効)において、新たな疾患として認定されました。
この国際疾病分類でのゲーム障害の定義は、以下の通りです。
① ゲームをする時間などを自分でコントロールできない。
② 日々の関心や活動よりもゲームを優先する。
③ 日常生活に悪影響を及ぼしているにもかかわらず、やめることができない。
④ ①~③の状態が12カ月続いている。
一方で、ネット依存は今のところ、診断基準が確立しておらず、明確な疾患としては認められていませんが、ゲーム障害と同様に、依存症となることで生活習慣に乱れが生じたり、心身の健康・発達や日常生活に悪影響を及ぼしたりします。学校生活においては、遅刻、欠席、居眠り、成績低下、さらにはコミュニケーションの低下や友人とのトラブルなどにつながる恐れがあり、不登校やひきこもりの要因となる場合もあります。
ネットに関して正しい理解を図り、適切な使用を促す
依存症は、短期間ではならない反面、なってしまうと短期間で回復することが非常に困難です。依存症が疑われる場合は、医療機関や保健所、精神保健福祉センターなどの専門機関に相談するなど、早期に適切な支援や治療を行うことが重要となります。
また、年齢が上がるにつれてインターネットの利用時間は増え、成長すればするほどインターネットやゲームとのつき合い方に他人が干渉することは難しくなるため、幼少期から正しい理解を図り、適切な使用を促すことで、予防に努めることが大切です。
生徒指導提要でも、第6章「Ⅱ 個別の課題を抱える児童生徒への指導」の「第7節 インターネット・携帯電話にかかわる課題」に「インターネット・携帯電話の普及に伴い、児童生徒の情報活用能力の育成が求められています。それらの使いすぎによって児童生徒の生活習慣が崩れるケースや、さらには後述のような深刻なトラブル(※ネット上の違法・有害情報へのアクセス、迷惑メールなどを介したトラブル被害、サイバー犯罪など)が発生しています。そのため、生徒指導の面では、使いすぎや学校などへの不必要な持ち込みなどを注意するとともに、利用時の危険回避など情報の正しく安全な利用を含めた情報モラル教育が不可欠」と記述されています。
理解を図るうえでは、ネット・ゲーム依存の実態をはじめ、過剰使用によって生じる可能性がある健康被害やトラブルなどのリスクについて学ぶことが必要となります。学校の教育課程においては、ネット・ゲーム依存の予防や改善を目的とした教科等横断的な学習を行うことも有効な対策と言えるでしょう。そうして児童生徒が自身の状態を自覚し、場合によっては行動の見直しを図ることが求められます。
さらに、そうした適切な生徒指導を行い、情報モラル教育を進めるためには、上記の生徒指導提要の項目にも具体的なポイントとして挙げられているように、教員が必要な知識を得ることも必要だといえます。
▼参考資料
内閣府(ウェブサイト)「青少年のインターネット利用環境実態調査」
厚生労働省(ウェブサイト)「第2回ゲーム依存症対策関係者連絡会議」
厚生労働省(ウェブサイト)「飲酒や喫煙等の実態調査と生活習慣病予防のための減酒の効果的な介入方法の開発に関する研究」
特定非営利活動法人ASK(ウェブサイト)「インターネット依存って何?」
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター(ウェブサイト)「インターネット依存治療部門 (TIAR)」
田中博之編著『図解でマスター! 実践教育法規2022』(小学館)