IQが高い子が、なぜ困る?【ギフ寺始動の秘密①】

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札幌には、通称「ギフ寺」と呼ばれる、ギフテッドのためのコミュニティがあります。かつて不登校を経験したギフ寺副住職(※)は、ギフ寺のことを、「いくら傘を差し出されても、歩きたくない時はある。ギフ寺では、傘を差し出されるのではなく、『自分で傘を買いに行こう!』と思える勇気をもらった」と、評していました。

ギフ寺とは、どんな場所なのでしょう? 「ギフ寺」の活動を始められた経緯などを全3回で、ギフ寺の「住職」こと、ギフテッド・LD発達援助センター主宰の小泉雅彦先生に伺います。

※ ギフ寺副住職 : みん教セミナー「ギフテッドの現場の声を聴こう!」(2021年12月開催)に登壇した中学3年生(当時)。

1998年から「特別な教育ニーズのある子」の支援活動をスタート

ー 支援活動に関わられた経緯を教えて下さい。

ギフ寺の前身ともいえる「北海道大学土曜教室(以下、土曜教室)」を始めたのは、1998年です。当時、私は札幌市立病院の施設である「静療院」で、小児精神科の院内学級の教員をしていました。

1990年頃から、田中哲医師(※)と一緒にLD(学習障害)の勉強を始めており、二人でこんな話をしていました。

※ 田中哲医師 : 子どもと家族のメンタルクリニックやまねこ院長

特別な教育ニーズのある子どもたちを集めて、学習や支援をする場を作りたい。

2000年に、室橋春光教授が北大に着任し、土曜教室に関わってくださるようになりました。2001年に田中医師が札幌を離れることになり、2002年より北大で土曜教室が運営されるようになりました。それ以降、土曜教室のメンバーは北大の室橋ゼミの学生が中心でした

ー 土曜教室では、どのようなことをされていたのですか?

土曜教室でとりわけ大切にしていたことは、「一人ひとりの認知の特性は違う。その子の認知特性を評価・分析して、その子との関わりに落とし込むこと」でした。

認知の特性」を知るWISC検査

ー 「認知」という言葉自体、あまり馴染みがありません。

認知とは、簡単に言えば「物事を認識・理解する心の働き」です。子どもたちと関わる中で、一斉指導や一般的な教授法だけでは、必要な学びに到達しきれない子が一定数いることに気がつきました。「それは、なぜなのだろう?」ということを理解するキーワードのひとつが、「認知」なんです。

― 小泉先生が、北大大学院で認知心理学の研究をされたこととも、それは関係がありますか?

はい。たくさんの子どもたちと接する中で、「子どもが困っている」のは分かるのです。けれども、その困難の背景と、学びの戦略(アセスメント)を立てるための知識が、自分は不足していると感じました。

そこで、教員生活と二足の草鞋で北大の大学院で学ぶことにしたのです。子どもの学び方を理解し、援助するためのツールとして、認知心理学は役に立つと思いました。

― 認知の特性の分析というのは、具体的にはどんなことをするのですか?

私が親しみを込めて“ボス”と呼んでいる室橋教授は、WISCというツールを使って、その子の「認知の傾向」や「認知の癖」に、耳を傾けることを大切にしていました。

WISCとは、国際的な知能検査の名称で、知能のほかに、下の表に示す指標を分析することができます。それが、子どもの認知の特性を知る一つの手がかりになるんです。

●WISCの指標

全検査IQ一般的に言われているIQ、知能指数の数値です。
言語理解指標(VCI)言葉で理解し表現したり、推論したりする能力を指します。ギフテッドは高いスコアを示します。
知覚推理指標(PRI)視覚で捉えた事物を構成し直したり、関係性を推論したりする能力を指します。
ワーキングメモリ―指標(WMI)聴覚に入力された情報を頭に留めて記憶したり、情報を頭の中で入れ替える操作をする能力を指します。
処理速度指標(PSI)制限時間内になるべく早く正確に作業を遂行できるか、主に手先を使って作業をする能力を指します。
一般知能能力指標(GAI)言語理解指標と知覚推理指標を合わせた指標です。問題解決力や推理能力などに関係する能力です。
認知熟達度指標(CPI)ワーキングメモリ―指標と処理速度指標を合わせた指標です。学習の基礎的な力に関係する能力です。

(『ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法』より筆者抜粋)

― 認知の傾向は、人によって、そんなに違うものなのですか?

もちろんです。日本の公教育は、いわゆる「ふつう」を基準に組み立てられた枠組みですが、認知の特性がそこからはみ出てしまう子は、たくさんいます。

ギフテッドの中には、認知に特性がある子も多いんです。もっとも私が最初にギフテッドと思われる子と出会った20年前は、そんな意識すら持ててはいませんでしたが……。

20年前に初めて出会ったギフテッド

― 今から20年前! 20年前から、ギフテッドという概念はあったのですか? 

ありません。今、思えば、という話です。私が最初に出会った「ギフテッドだと思われる子」は、前述の土曜教室のメンバーでした。独創的なアイデアで手作りのベイブレードや自動販売機、フレフレ機能がついたシャープペンシルなどを創り上げ、「先生、どう?」と見せてくれるのです。

― 面白そうな子ですね。

とても面白い子でしたよ。ただ、私が、彼をギフテッドと認識するまでには、時間が必要でした。彼は、字を書くのは苦手でしたが、高い推理能力や想像力、豊富な語彙力があるので、成績は常に上位だったんです。ですから、当初、私は、彼が困っていることを、さほど気にかけていませんでした。

多少、困っていることがあったとしても、高い知的能力でカバーできると思ったからです。けれども、成長とともに、彼が立ち止まる場面に何度か遭遇しました。

その都度、彼と丁寧に関わってはきましたが、IQの高さに隠れてしまっている「困っていること」「違和感を感じていること」に対して、手当てができていれば、彼はもっと楽に過ごせたのではないだろうか?という自問自答を、今でもしているんです。

― 彼との出会いは大きかったのですか?

そうですね。彼との関わりを通して、ギフテッド教育の可能性について考えることがたくさんあり、北大の論文(※)にもまとめました。

※小泉雅彦(2010)「軽度発達障害児への教育的支援 : 土曜教室における支援を通して特別支援教育を考える」

IQは高くても困っている子どもたち

― IQは高くても、困っている子どもがいるのですね……。

はい。学力というよりも、日常場面や学校生活の中で「困っていること」「違和感を感じていること」、そんな気持ちを独りで抱えている子どもは、たくさんいます。

私が支援に関わったある子は、テストで高い点数をとっても満足できず、間違ったことを引きずっていました。当時の彼の姿を見ていると、どんなに楽しいことがあっても、ちょっとした躓きで、オセロの駒のように感情が一気に変わってしまうという印象でした。

― 感情の起伏が激しいと、本人も周りも大変ですね

感情の起伏の激しさは、ギフテッドの特性のひとつである「過度激動」に由来する可能性もあります。

知能が高く繊細なギフテッドは、周りとの「違い」を幼いながらに感じる子も多いです。

みんなと私は違う。だから、私はふつうじゃない

こんなふうに、異質感を訴えて、学校に行けなくなってしまう子も多いんです。

「学校に行けない」ということに対して、本人は罪悪感を抱えていることが多いので、学校に行けなくなると、家から出ることすら難しくなってしまう子もいます。次回は、不登校の子どもが求めているものについて引き続き小泉先生にお話を伺います。

ギフ寺始動の話(全3回)
次回、「第2回 不登校の子どもが求めているものとは?」の公開予定は、6月14日(火)です。

小泉雅彦(こいずみまさひこ)
ギフテッド・LD発達援助センター主宰。ギフ寺住職。北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位修得退学。専門は特別支援教育、認知心理学。

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