小二道徳授業ルポ「ごめんね、もえちゃん」相手にとっての親切とは何かを考えさせる
道徳の研究に力を入れている小学校へ文部科学省の浅見哲也教科調査官にご同行いただき、その授業実践をご紹介するルポ。今回は東京都台東区立根岸小学校です。
目次
教材
教材名:「ごめんね、 もえちゃん」(学校図書)
主題:あいてのために 〈 B親切、 思いやり 〉
導入
本時のねらい
自分の力で色塗りを完成させたもえちゃんの喜びを見て、親切の意味に気付いたけんちゃんの心の動きを考えることで、相手の気持ちを思いやって人と接していこうという心情を育てる。
1 親切にされた経験を話し合う
「困っているとき、誰かに親切にされたことがありますか。また、そのときどんな気持ちでしたか」と子供たちに聞き、親切にされた経験とその気持ちを想起させ、発表させます。
子供たちの発言
重い水を持つのを助けてくれて、うれしかった。
転んだときに「大丈夫?」と声をかけてもらった。
展開
2 教材「ごめんね、もえちゃん」を読み、話し合う
子供たちが内容を理解しやすいように、 大型モニターに教材の絵を映し出します。その後、「けんちゃんはどんな気持ちでもえちゃんの画用紙に色を塗ったのでしょう」という発問によって、けんちゃんが親切のつもりで色を塗ったことに気付かせます。
発問
自分で塗り直せてうれしそうなもえちゃんを見て、自分のしたことがはずかしくなったけんちゃんはどんな気持ちでしょう。
子供たちの発言
自分でやりたかったの。
手伝ったけど、だめだったのかな。
中心発問
もえちゃんのとびきりの笑顔を見て、けんちゃんはどんな気持ちになったでしょう。
子供たちの発言
口で教えてあげたほうがよかったんだ。
笑ってくれてよかった。ありがとう。
また教えてあげよう。
ずうっと好き。
展開の後半につなぐ「もえちゃんが喜んでくれたのは、けんちゃんのどんなところがよかったからなのかな」という発問によって、 自分の気持ちだけでなく、相手の気持ちを考え、行動することが相手の気持ちに寄り添う親切だということに気付くようにします。
子供たちの発言
口で教えてあげたらよかった。
けんちゃんがアドバイスすると、もえちゃんのやりたいことが自由にできる。
授業の工夫
本教材では、親切のあり方を考えるけんちゃんの姿から、「親切」について自分自身のこととして考えさせるようにしたいと思いました。そのなかで、自分本位な思いやりは、相手に親切な行動とはならない場合もあることに気付き、相手にとっての親切とは何かを考えさせるように発問を組み立てました。
浅見先生の花まるポイント
子供たちにとってどういう親切がよいのかはっきりと分かっていなかったときに、「けんちゃんのどんなところがよかったのか」という発問をすることによって、子供たちが本当の親切について深く考えられるきっかけとなりました。
3 自己の経験をふり返って話し合う
相手の気持ちを考えた行動に着目させ、そのときの気持ちを問い、どんな気持ちでがんばったのかをふり返り、ワー クシートに書かせます。
発問
これまで親切にしたことがありますか。
子供たちのワークシートから
とう校のとき、○○さんがおくれそうになっていてぼくがまっていました。すると、○○さんに「まっててくれてありがとう」と言われました。とてもうれしかったです。
しん切にしたことはあると思うけど、思いだせないので、こんど、しん切にできることがあったら、けんちゃんのようにやって、人をえがおにできるような人になりたいです 。
終末
4 教師の説話を聞く
教師自身の小二のときの体験から、ただ相手が与えてくれる親切より、されてうれしかったという話をすることによって、本日のねらいに迫って授業を締めくくりました。
文部科学省教科調査官 浅見哲也先生からのアドバイス
発問を取り入れて、子供たちが、よい親切とはどういうものなのかを考えられるようにする
道徳科の授業では、個人の道徳的価値観を押し付けることはふさわしくありません。ですから教師が教えることをためらいがちになりますが、低学年の場合、何がよいことなのかをしっかりと考えることは必要なことです。そこで、太田先生は、「どっちのけんちゃんのやり方がよかったのかな?」「どんなところがよかったのかな?」という発問を取り入れ、子供たちが、よい親切とはどういうものなのかを考えられるようにし、そのうえで自分のこれまでの体験を想起し、ねらいに迫っていました。
取材・文・構成/浅原孝子 撮影/北村瑞斗
『教育技術 小一小二』 2021年10/11月号より