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学習効果の高い「間のある授業」、残念な「間抜けな授業」

2019/7/23

「授業に間が大事なことは分かるが、どう間をとればよいのか」そういう声を耳にします。 学校取材歴二十余年。これまで1000以上の授業を取材してきた、『教育技術』の教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之さんが、 授業における「間」について考察します。

三角定規で算数を解いている子ども
撮影/金川秀人

「間」のない授業は「間抜けな授業」

先日、新潟市の授業名人(新潟市にはマイスターという制度がある)である、佐藤昌寿先生の授業取材を終えた後、教育雑談をしていた時の話です。

その中で、授業における間が重要だという話になりました。先生が発問した時、子供がすぐに反応を見せず、黙っていることがあります。その時、子供が考えようとして黙っているのか、発問の意味を理解できず困っているのかを見極め、考えようとしている時にはしっかり間を与えてあげることが大切だと佐藤先生は話されます。

「でも、私自身も若い頃は、発問をした後、少し間ができてしまうと不安になって、つい余計な説明を続けたりしちゃってました」とも話してくださいました。しかし、経験を積むにつれて、子供たちが考える糸口をつかめているのか、いないのかを見極め、考えようとしているならば間をとり、しっかり考えさせることができるようになっていったそうです(その見極めのポイントについては、後で触れたいと思います)。このような声は、これまで取材で話を伺ってきた多くの優秀な先生方が、異口同音に話されていました。

実は、今回の学習指導要領改訂の出発点となった、「アクティブ・ラーニング」の視点による教育改革を提唱した、鈴木寛教授(東京大学大学院、慶應義塾大学)も、以前の取材で、間の重要性についてお話をされていました。

新学習指導要領が示された後の『総合教育技術2017年8月号』の取材の中で、デジタル・テクノロジーやAIの加速度的な進化について触れた後、「人間の仕事として残ることは何かと言えば、AIを使いこなすことと、AIにできないことを行うこと」と話され、「これまで重視されてきた問題の処理等よりも、問題の発見や設定が重要になってくる」と強調されました。そして、そのような学びを行うためには、授業における間が重要であり、間のない授業を「間抜けな授業」という、と冗談めかして語られたことを覚えています。

ネズミの学習でも間が重要

さて、ここまで間の重要性についてお話をしてきましたが、読者の中には、「何となく、間を与えることの必要性は感じている。でも、なぜ間が重要だと言えるのだろうか」と考える方も少なくないのではないでしょうか。

この疑問に対する、直接的な答えとは言えませんが、非常に示唆に富んだ、動物を使った学習についての実験結果が出ています。こちらの記事にある、東京大学の池谷裕二教授の研究室での学習実験の結果です。

池谷教授は、ネズミを使って、2つの学習の実験をされています。ごく乱暴に端折って説明するならば、そのひとつは学習の初期段階で、多様に多く間違えたネズミほど学習が速まるというもの。そして、もうひとつは、難しい学習に取り組む時、問題提示から行動開始までに間のある(熟考しているように見える)ネズミほど、学習が速まるというものです。

ネズミの学習効果を説明するイメージ
じっくり考えて失敗する方が、学びの効果は高い イラスト/高橋将暉

読者の中には、「それは、ネズミの話でしょ?」と思われる方がいるかもしれません。しかし、基本的に哺乳類の脳や学習のあり方は同じなのだそうです。もちろん、ネズミには言語や計算等の高度な学習はできません。しかし、食事や睡眠時間等に大きく左右される人間を、学習の実験に使うよりも、ネズミ等を使った実験の方が、より正確な実験結果が得られるのだそうです。

この実験の結果と、優秀な先生方の実感とが、何となく合致していると思われませんか?

間を与える時の判断材料は……

もちろん、読者の中には、「間が大事なことは分かるが、何を見て、間をとるかどうかを判断すればよいのか」と思う方もいるでしょう。そこで、この機会に、冒頭でご紹介した佐藤先生他、何人かの授業力の高いベテランの先生に、子供たちに間を与えるかどうか、何を見て判断しているのかを聞いてみました。すると、「学級の空気を読む」「子供たちの視線を見る」「子供たちの言動を見る」といった言葉が返ってきました。

さらに、詳しく聞いてみると、「『えっ?』という、どうしていいか分からないような教室の空気を感じた時には、『何が分からない?』と問い返す」、「子供たちの視線が、ひとところを見てじっと考えている様子なら間を与え、泳いでいるようなら分からないと判断する」、「教科書やノートをめくって、考えるためのヒントや根拠を探そうとしている時は間を与え、ただペラペラとめくっている時は、考えているふりだと判断する」等と話してくださいました。

それに加えて「まず、分からない時に、安心して『分からない』と言える学級の環境を整えることが大事」、「子供の反応は一人ひとり違うので、担任をしている先生がそれを見とる目を養うことが大事」という話も出てきました。

●・●・●・●・●

先日、首都圏の電車の中吊りで、「即レスしなかった程度で失われるものを、友情とは呼ばない」という広告が並んだことがありました。

これは、携帯電話の大手キャリア共同での、「歩きスマホ」撲滅のための広告でした。しかし、この広告が必要になるくらい、多くの人が「即レス」に支配されているということも、一面の真実ではないでしょうか。私も含め、現代人から、「知らず知らずに熟考する間が奪われているのではないか」という不安を感じてしまいます。

もちろん、大人であれば仕事や家族、友人関係等々、必要があって、それが求められていることもあるでしょう。それでも、流れ来る情報から少し間を置いて、じっくりと考える時間をとることも必要ではないかと思います。

身の回りのすべてが学びとなる時期の子供であれば、なおさらではないでしょうか。この機会に、学習場面における熟考のための「間」について、少し考えていただければ嬉しい限りです。

文/矢ノ浦勝之(教育ジャーナリスト )

教育技術小三小四 2019年7/8月号表紙

●佐藤昌寿先生の授業にご興味のある方は、「教育技術 小三小四」2019年7/8月号掲載された拙著の「全国優秀教師発 厳選・授業レポート」をご覧ください。
「教育技術 小三小四」2019年7/8月号

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