1学期末、高学年の教室に飛び交う言葉を見直そう!

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東京都公立小学校主幹教諭

丹野裕基

学級経営上、1学期の振り返りをしっかりと行ったうえで夏休みに入ることが大切です。一人一人が大きく成長する2学期、3学期に向かって、学級に飛び交う言葉を見直してみませんか? 高学年の学級にすてきな言葉があふれるための授業アイデアを、子供の自尊感情や学級の集団力を高める実践に定評のある丹野裕基先生が解説します。教室内の言葉に着目して、プラスの集団をつくりまっしょう!

丹野裕基(たんの・ゆうき)●1986年、東京都生まれ。東京都公立小学校主幹教諭。菊池道場東京支部支部長。総合質問紙『i-check』商品開発協力委員(東京書籍)。学級経営機関誌『げんきの根っこ』(東京書籍)、『温かい人間関係を築き上げる「コミュニケーション科」の授業』 『「白熱する教室」を創る8つの視点』(中村堂)などに分担執筆者として参加。

「教師が教えやすい教室」になっていないか?

「教師が教えやすい教室」
「子供が学びやすい教室」
この二つが意味することは同じでしょうか。

私は折を見て、この二つが意味することの差異を意識して、自分の指導を見直すようにしています。

それは、教師の強いリーダーシップで言って聞かせ、「できない」「やらない」「うまくいかない」場面を打開したくなるという感覚をどこかでもっているからです。

教師が言って聞かせ、子供にやらせるような指導を続けるだけでは、本質的な子供の成長にはつながらないと分かってはいても、いざ子どもを目の前にすると、拙速に子供を変容させようと、「〇〇はやめなさい」「○○しなさい」といった言葉を使って、子供を集団として整えがちです。

しかし、そうした状況で行う指導の多くは、「教師が教えやすい教室」をつくるためのものなのかもしれないと思っています。

目の前の子供一人一人は、一般化された存在としての子供ではなく、この世に一人しかいないかけがえのない「○○さん」です。だからこそ、その○○さんの心の葛藤や、ほんの僅かな変容に寄り添いながら、その子供の成長を支えたいと思っています。

そのために大切にしているのが、教室の中にある「言葉」を見直す授業です。1学期末の指導のポイントとして提案します。

学級にどんな言葉があふれているか振り返ろう

教室には今、どのような言葉があるでしょうか。少し振り返ってみてください。

登校してきた子供たちに「おはよう」の言葉はありますか?
学習中の子供たちに「ここが分からないんだけど教えて」とヘルプを出す言葉はありますか?
子供の中に、互いの意欲を掻き立てるような「がんばろう!」「いいね」といった言葉はありますか?
「面倒くさい」「やりたくない」「どうせ」「無理」といった言葉が日常になっていませんか?

教室にある言葉は、子供の心や子供同士、担任との関係性が表れるものです。例えば、自分の力を精一杯に出してがんばれるかどうかも、周りにいる友達からの言葉や反応に大きく左右されます。教室の中にある「言葉」を見直すことで、教室の雰囲気はガラッと変わります。子供たちと教室にある言葉を大切にしていくことを考えるきっかけとして、2つの授業を紹介します。

授業例1「一秒の言葉」

【授業展開】

朝、教室に飛び交った「おはよう」の言葉が「いいものか」「よくないものか」を考え、友達とその理由を交流した後、全体で共有する。

よりよく成長していくために、小泉吉宏さんの詩「一秒の言葉」にある力を考えるという本時の授業のめあてを確かめる。

たった一秒足らずの言葉の中にも、2種類の言葉があることを知る。

先生は、言葉には2種類あると思っています。どんなふうに分けていると思いますか?

いい言葉と悪い言葉かな?

プラスの言葉とマイナスの言葉?

なるほどね。先生が考えていることを話すね。一つは、言った人も言われた人も、聞いていた人もいい気持ちになる言葉。もう一つは、言った人も言われた人も、聞いていた人も嫌な気持ちになる言葉です

Aの言葉:言った人も言われた人も聞いていた人もいい気持ちになる言葉
Bの言葉:言った人も言われた人も聞いていた人も嫌な気持ちになる言葉

④Aの言葉とBの言葉それぞれ思い付くものをノートに書く。

Aの言葉:ありがとう、いっしょにやろう、おはよう、また明日、いいね、がんばろう など
Bの言葉:嫌い、消えろ、死ね、どっか行け、あっち行って、来ないで など

⑤少人数に分かれ、④で書いた言葉を交流する。

⑥Aの言葉とBの言葉それぞれを全体の前で発表する。

⑦Aの言葉の中で、最も好きな言葉を一つ選び、短冊に書く。

⑧短冊を黒板に貼り、全体で共有する。

「一秒の言葉」の授業の板書

⑨黒板に出されたような、多くの人の考え方や行動をプラスに導く言葉がある一方で、その力をマイナスに振りかざすことで、人を傷つけ、時に命さえ奪ってしまうことがあることについての話を担任から聞く。

⑩小泉吉宏さんの詩「一秒の言葉」を知る。
※書籍『一秒の言葉』(メディアファクトリー)を基に、カギ括弧に入る言葉を空欄にしたものを作成。一人一人に印刷したプリントを配付。

⑪カギ括弧に入る言葉を個人で考える。

「    」
この一秒ほどの短い言葉に、一生のときめきを感じることがある


この一つ目の「 」の中にどのような言葉が入ると思いますか?

「最高」はどうかな

「すごい!」じゃないかな

私は「大好きだよ」だと思うな

⑫3~4人の少人数のグループになり、カギ括弧に入る言葉を相談し、グループとしての考えをつくり、紙に書く。

⑬机上に置かれた他のグループの考えが書かれた紙を見て回る。

⑭小泉吉宏さんの「一秒の言葉」の範読を聞く。

⑮ノートにこの時間の感想を書く。

『一秒の言葉』とは?
ブッタとシッタカブッタ』(KADOKAWA/メディアファクトリー)シリーズなどで知られる作家・漫画家の小泉吉宏さんの詩。1985年『ゆく年くる年』内で、たった一度だけ放送されたSEIKOのテレビCMで使用された。瞬く間に評判となり、道徳の教科書に掲載されるほか、結婚式の祝辞や校長の講話の定番に。2009年にはメディアファクトリーから単行本化された。

授業例2「教室にあふれさせたい言葉、教室からなくしたい言葉」

【授業展開】

教室には、2種類の言葉があったことを確かめる。

Aの言葉:言った人も言われた人も聞いていた人もいい気持ちになる言葉
Bの言葉:言った人も言われた人も聞いていた人も嫌な気持ちになる言葉

教室にあふれさせたいのは、Aの言葉か、Bの言葉かを考える。

よりよく成長していくために、教室にあふれさせたい言葉となくしたい言葉を考えるという本時の授業のめあてを確かめる。

④「教室にあふれさせたい言葉」と「なくしたい言葉」をそれぞれ考え、ノートになるべくたくさん書く。

⑤3~4名の少人数のグループになり、個人で考えた言葉を交流させる。

⑥考えた言葉を発表する(私は、子供に順番で黒板に書かせました)。

⑦出された「教室にあふれさせたい言葉」「教室からなくしたい言葉」の中からそれぞれ一番を選び、ノートに書く。

※アンケート結果は、担任が集計し、後日発表。それを模造紙に書いて掲示し、学級全体でことあるごとに確認する。

教室にあふれさせたい言葉の1位「ありがとう」、2位「楽しいな」。教室からなくしたい言葉の1位「死ね」、2位「おまえなんかいらない」

⑧□と〇〇に入る言葉を考える。
「□が荒れると ○○が乱れ  □が静まると○○が優しくなる 見えない□なのに ○○で見える」

⑨□には「心」が、○○には「言葉」が入ることを知る。

⑩ノートに「言葉を大切にできたら、どんな一年になるか」というテーマで考えを書かせる。

「言葉を大切にできたら、どんな一年になるか」のテーマで、自分の考えを書いた子供のノート。
5年生で実践したときの二人の子供のノート。

※「教室にあふれさせたい言葉、教室からなくしたい言葉」の授業の詳細は、菊池省三『温かい人間関係を築き上げる「コミュニケーション科」の授業』(中村堂)にあります。

プラスの言葉があふれる集団をめざそう

言葉には力があります。教室にある言葉の質によって、子供の成長が大きく左右されると言っても過言ではありません。世の中にある名言と呼ばれる言葉が、多くの人の考え方や行動をプラスに導いている一方で、言葉の力をマイナスに振りかざすことで、人を傷つけ、時に命さえ奪ってしまう現実もあるのです。

教室の中にはたくさんの言葉が飛び交いますが、子供同士の関係性を豊かにし、よりよく成長していこうとする心を育んでいくために、今回紹介した授業も参考にしながら、教室にある言葉を見直して、子供たちと共に、プラスの言葉があふれる集団を目指しましょう。

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