教師に高いEQ(感じる力)が必要なわけ
EQという言葉を知っていますか? EQ(Emotional Inteligence Quotient)とは、心の知能を測定する指標で、「心の知能指数(感情知能)」とも呼ばれ、現在注目されている概念です。これからの教師には、このEQの高さが求められてくるといいます。
執筆/山形県公立小学校校長 佐藤幸司
目次
EQに向き合おう
今まで、教師のセンスや人間力という言葉で語られることが多かったのでしょうが、心の知能指数(EQ)は学習や訓練によって高めていくことが可能だということが最近の研究結果でわかってきました。
昨今、AI(人工知能)が目覚ましい進歩を続けています。マニュアル通りに正確に教える授業などでは、人間はAIにはかなわないかもしれません。
けれども、相手の気持ちを感じ、思いやる心や臨機応変に対応できる柔軟さ(すなわち、それは心の知能指数の高さと言えます)は、人間だけがもち得るものです。
私たち教師は、日々、人間(子ども)相手に仕事をしています。人間は、感情の生き物と言われます。子どもであればなおさら、感情の起伏が激しかったり、ほんの少しの誤解で深く傷ついたりすることもあります。ですから、教師は高いEQがなければ子どもの感情を理解し、真意を伝え諭すことはできません。
最近の若い教師は、まじめに自分の仕事に取り組み、優秀な人が多いと感じています。採用枠の少ない時代に試験を突破し、憧れの教師になったのだと思います。その身に付けた知識や技能を、子どもたちの成長のためにうまく働かせるために必要なのが、EQなのです。自分のEQを高めていきましょう。
EQの高め方
1.感情的・威圧的な指導を超える
学校生活の大部分は授業時間で占められています。ですから、秩序が保たれた授業を行うのは、子どもたちが安心して学校生活を送るための大きな要因です。
では、授業の秩序づくり、すなわち学習のルールを定着させるとき、どのような指導を行うべきでしょうか。
よく目にするのは、ルールを破った子を厳しく叱るやり方です。悪いことをしたら叱る。これは、当然のことです。秩序づくりには、教師の威厳も必要です。
けれども、教師が大声で怒鳴りつけてばかりいると、今度は子どもが教師に対して安心感をもてなくなります。それが、教師への不信感や反発という形で進展してしまうこともあります。
怒鳴るのは、感情的な行為であり、すぐ感情的になる人は、幼稚に見られます。幼い子ども相手に、教師が幼稚に見られる行為を頻繁に行ってはなりません。それは、EQの低い教師の愚行です。
秩序づくりで心がけたいのは、頑張っている子を認め、ほめるという教師の姿勢です。
「子どものよさを認め、ほめる」というブレない指導を続けていくと、叱らなくても授業の秩序を築くことができます。ピリッとした秩序が保たれ、それでいて温かさが感じられる学級をつくっている先生は、例外なく認め上手・ほめ上手です。
2.否定語ではなく肯定語で指導する
叱るという行為は、子どもに否定語を浴びせかけることではありません。肯定語で叱ることだって、十分可能なのです。
小学校の1時間の授業は45分です。授業の終盤、30分を過ぎたあたりから、姿勢が悪くなった子がいました。「姿勢が悪い。だらしないぞ」と言うのは、否定語による叱り方です。そんな時はまず、椅子を引いて、両足をべったり床に着け、背筋をしゃんと伸ばさせます。
その後は、時々その子の様子を見ながら、声をかけたり、指名して発言させたりしていきます。そして、最後まで頑張れたことを認めてあげます。子どもを信じる気持ちをもつと、肯定的な叱り方が見えてきます。
良心に語りかける指導とEQの高まり
子どもたちは、みんな「よい子になりたい」と思っています。「悪い子になりたい」なんて思っている子は、一人もいません。それは、誰にでも良心があるからです。
良心とは、よいことをしようとする心の働きです。子どもの心に響く指導とは、すなわち良心に語りかける指導です。
何か悪さをした子がいたら、「何やっているんだ!」と怒鳴りつけるのではなく、「こんなことをしてどういう気持ちだった? うれしかった?」と聞いてあげてください。子どもは、「嫌な気持ちだった。本当は、こんなことをしたくなかった」と答えるはずです。教師の言葉が子どもの心に響きます。
子どもに確かな学力を付けることは、もちろん大切です。同時に(ある意味それ以上に)大切なのは、心の育成です。
EQの高い教師は、子どもを信じ、子どもの良心に語りかける指導を行います。教師のEQは、子どもたちとの信頼関係の深まりに比例しながら高められていきます。
『小三教育技術』2018年9月号より
イラスト/terumi