大学で学ぶ教育学だけでは現場の仕事をこなせない!?
教員免許を取得し、4月から教師デビュー。そんな新任教師は、不安がいっぱいでしょう。実際のところ、大学で学んだ教育学だけでは、子どもたちに十分な学びを保障するのは難しいのが実情。そんな新任教師を支えるバイブルともいえるのが、和歌山大学教職大学院の13人の教授陣が執筆した『教師になる「教科書」』(小学館)です。執筆者の一人・谷尻治先生(和歌山大学教職大学院教授)にお話しを伺いました。
谷尻治(たにじり・おさむ)さん
和歌山大学教職大学院 教授
目次
大学で学んだことと学校での日々の教育には隙間がある
――『教師になる「教科書」』には、小中学校の教師が教壇に立ってすぐにでも役立つような具体的な実務方法が盛りだくさんですね。谷尻先生をはじめ、この本の執筆者グループの和歌山大学教職大学院の教授陣は、普段から教員を目指す学生を指導されている立場から、どのようなことを特にお書きになりたいと思われたのでしょうか。
谷尻 このムック本は、若い先生と教師を目指す学生向けの“教科書”です。
大学の一般的な教科書とは異なり、単なるハウツーでもなく、理論に戻り省察することを想定した、実践的な内容となっています。
大学では、「教職論」「教育原理」「教育心理」などを学びますが、それらは教師を育成するための重要な基盤であるものの、学校現場には直接つながらない面があります。
そこで、私たちが長年の教員生活で得た経験を踏まえて、大学で学んだことと学校現場での日々の仕事との隙間を埋めようと試みたのが本書『教師になる「教科書」』です。
また、学校現場はとても大変というイメージが先行しがちですが、若い方に「教師という仕事は素晴らしいな、教育って素敵だな」と、夢と希望をもってもらいたいというメッセージも随所に込めました。
教職大学院の「初任者研修プログラム」が成果を上げている
――教育学部で学んだことだけでは、教師としての日々の授業や学級経営をしていくのは困難だろうなというのは、編集部としても感じています。そのギャップをどうにかしなければならないというお考えを、和歌山大学教職大学院の先生方もおもちなのでしょうか。
谷尻 そもそもこの本の企画は、和歌山大学教職大学院が実施している「初任者研修プログラム」が高い成果をあげていることがきっかけでした。
実際に、毎月のように初任者が大学院に集まり、院生とともに講義を受講しています。
そして、そこで得た学びを現場に反映し、どんどん成長しているのです。
それで、このプログラムの成果をまとめてみようと考えたのです。
教員の世代交代が進み、若い先生向けの教育書が、ここ数年、再びたくさん出版されるようになってきました。しかし、それらを見てまず感じるのは「ハウツー本」が多いということです。
この本では、手法だけに偏らず、教育観・子供観・教師観といった教育の本質=魂となる部分を大切にしたつもりです。
初任者が陥りやすいポイントを明示して解説
――教育大学で学びきれないことで、新任の先生がお困りになっているのは、どんなことが挙げられますか。
谷尻 若手教員の悩みの中心は「学級づくり」「授業づくり」の2本柱です。
まず、このジャンルに多くのページ数を割いています。
「学級づくり」では「実際にこのような状況でどんな指導をすればよいか」といったケースを設定し、それを自分なりに考察した後、実際の現場ではどうなったのかを紹介。
そして、その指導のポイントを解説する工夫をしています。
「授業づくり」では、「授業案」と「授業評価シート」が特徴です。
授業案では初任者が陥りそうな授業計画を提示し、どこがよくないのか、気付きやすいように明示してあります。
その上で、改善策となる授業案を提示し、改善のポイントを明確にしてあります。
「授業評価シート」は教師の授業技術全般を細分化し、レベル別に整理したものです。
実際に初任者の授業指導や大学院の模擬授業などでも、これを使っています。
チェックしてみると、授業者の到達度と課題が客観的に把握できるでしょう。
さらにQ&Aでは、上から目線で若い先生方を追い込むような助言ではなく、本質的なことを具体的に解説し、さらに温かい励ましの言葉でヒントを与えるように意識しています。
――和歌山大学教職大学院で使われている授業評価シートが、そのまま掲載されていますね。これは、現場の先生方に役立ちそうです。教師が自らの授業を客観的に評価することができれば、授業力の向上と自信をもつことが望めそうですね。
<教育技術ムック>
-未来の教師・新任教師 困らないための必修実務-
教師になる「教科書」 小学校中学校実践編
和歌山大学教職大学院/著 定価:2,300円+税 ISBN978-4-09-105068-7 https://www.shogakukan.co.jp/books/09105068
初任教師が教壇に初めて立つとき、どのように児童・生徒と接し、どのような授業を行い、どのように学級を運営していくのか、不安でいっぱいなことでしょう。教育学部や教職大学院で学んだことで、教師としてやっていけるのだろうか……と。
実際の教室では、不測の事態も次々と起こりえます。児童・生徒の実態に合わせて、授業の取り組みや対応を変えていくことが求められます。それらに対する手立てを事前に知識としてもっていれば、初任者でも慌てることなく、対応の方法を探れるはずです。
本書は、和歌山大学教職大学院の初任研修プログラム等で得られた「初任教師らはどんなことに困っているのか、悩んでいるのか」という知見をもとに、教師の仕事全般に渡って実践的な指導法を説明した、実務家教師を育成するための教科書です。
インタビュー/EDUPEDIA まとめ/出浦文絵
●これと関連したインタビュー記事が「EDUPEDIA」でも配信されます。
『小一~小六教育技術』2018年10月号より