やる気が出ない、ストレスも… ネガティブ感情の対処法とは?【前編】中野信子のDo you脳「人のココロ」?Vol.3
小学校の先生方が抱えがちな悩みや問題を、脳科学者・中野信子先生が脳科学の視点から分析。悩みの原因とその対処法を科学的に解き明かします。
今回は、 「やる気が出ない」「ストレスを感じる」…、そんなときにどんな対処法が効果的なのか、脳科学の視点から前編・後編に渡り対処法をアドバイスいただきました。
目次
何かを始めるときに脳はストレスを感じる
秋から冬にかけて、さらに5月から6月は、「やる気が出ない」「ストレスを感じる」など、ネガティブな気持ちになりがちな時季です。この時季、「学年末はやることがたくさんあるのに、やる気が出ない」「理由はわからないけれど、気力が出ずにストレスを感じる」という先生もいるのではないでしょうか。今回はこの時季に有効な、脳が元気になる方法を紹介します。
まず脳のメカニズムから解説すると、人が何かを始めるときにストレスを感じるのは、当たり前のことなのです。何かをするとき、脳内ではコルチゾールというストレスホルモンが分泌されています。それが心理的ハードルになるのです。
やる気を出すためには、とりあえずやってみる
このときにやる気を出す方法としては、このストレスを無視して「とりあえずやってみる」ことがおすすめです。心理学者クレペリンが発見した「作業興奮」を利用するのです。これは、とりあえず手足を動かして作業してみると、興奮してやる気が出てくるというものです。
脳科学的には、やり始めることで、最初は出ていなかったドーパミンというやる気のホルモンが、脳の側坐核という部分から出てくる状態です。具体的に動くことで、「嫌だと思っていた仕事だけど、体が動いているということは、本当は楽しいと思っているのかもしれないぞ」と、体が脳にフィードバックすることで、側坐核が刺激され、ドーパミンが出るのです。これはガッツポーズをとるだけでも有効です。
セロトニンの分泌が減るとストレスを受けやすい
前述したように、実はストレスを感じやすい、ネガティブになりやすい体質や時季というものがあります。ネガティブになりやすい体質は複数の系列がありますが、一つには、精神をリラックスさせるセロトニンというホルモンの分泌量が少なかったり、分泌量に問題があったりするタイプの人が挙げられます。例えば、女性は生理前などにはセロトニンの分泌量が減るので、男性よりもストレスの影響を受けやすいと言えます。
また、セロトニンは太陽を浴びることで分泌が促されるので、男性でも日照時間が劇的に変わるような雨季、秋や冬などには影響を受けやすくなります。ですから、もしネガティブな気持ちになってしまった時には、無理に原因を探して落ち込むよりも、「一時的な脳の変化かもしれない」と考えるのも対応策の一つだと思います。
次回は、セロトニンを増やす生活習慣のアイディアと、心理的ストレスの対処法を紹介します。
中野信子(なかの のぶこ)● 1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。著書に『ヒトは「いじめ」をやめられない』『キレる!』『「嫌いっ!」の運用』(いずれも小学館)等がある。
取材・構成・文/出浦文絵
※この記事は2016年『小二教育技術』に連載された記事に加筆修正したものです。