「探究学習」を有意義なものにするためのポイント|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
子供たちの自主性を引き出す斬新でユニークな実践が話題の「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生 。今回は、ぬまっち先生がいま注目の「探究学習」についてどう捉えているのか、また「探究学習」を有意義な時間にするためのポイントを聞きました。
目次
なぜ今「探究学習」が注目されているのか
学習指導要領の改訂によって注目を浴びるようになった「探究学習」。
探究学習とは、一方的に与えられる教科学習や知識詰込み型教育と違って、あくまでも子供たちが主体的に学びを深めていくプロセスを重要視した学習法だ。
従来の教科知識の範囲を超えて自分で問いや課題を見つけ、その課題解決に向けて情報を収集・整理しながら、他者と議論・協力して最適な答えを見つけていく学びを通して、新たな問題に立ち向かう力や協働的に課題解決する力を育むねらいがある。
研究開発校であるボクの学校も以前から「探究学習」は取り入れていたけれど、2年前からより強化していくことになった。
「知識詰め込み型教育」はもう不要なのか
では、もう「知識詰め込み型教育」は必要ないのかと言えば、ボクはそう思わない。
世界と比べても日本の学力水準は高いと言えるだろう。それは、知識詰め込み型教育の成功によるところも大きいはずだ。
問題は、暗記ばかりでは自分で考える力が身につかないこと。
しかし、物事を深く考えたり、表現するためのベースとなる基礎知識はやはり必要だと思う。基礎知識もなく、探究だけをやっていても、中身のないカサカサの探究学習になるだけ。「ない袖」は振れないからね。
だから深掘りして考えるために必要な基礎知識を身に付けるいわゆる「詰め込み型教育」と並行して「探究学習」を行い、その知識を活用しながら自ら考え、表現し、ふり返りをする……そのくり返しが理想的な学びの姿だと思っている。
探究型学習「ビジネスラボ」
前述したように、ボクの学校では、探究中心の教育課程へとシフトしようとしている。
例えば、週2~3回ほど学年や教科の枠組みを超えた協働的探究を行う「ラボ」という時間を設けている。「ラボ」の時間は、子供たちは自分の興味のあるラボに所属し、4年~6年生の異学年で自ら学びを深めていく活動を行っている。
ラボは20種類ほどあるが、ボクが担当しているのは「ビジネスラボ」。
「街のブティックはなぜつぶれないのか」「ラーメン屋は一番出店数が多いのになぜ一番つぶれるのか」など、毎回テーマを設けて子供たちと議論をし、校外で取材を行ったりしながら自ら情報収集してまとめ、ふり返る活動を行っている。
社会で起きていることを「自分事化」させる
ラボの活動については、また別の機会に詳しく紹介しようと思っているが、ボクは探究学習をより有意義なものにするために最も重要なことは、「自分事化すること」だと思っている。
仮説を立てるにせよ、調べるにせよ、その事柄が自分事化できていないと、その学びを自分の生活に活かそうとする意欲を伸ばすことは難しいし、未知の状況にも対応できる思考力や判断力もあまり身につかないだろう。
例えば、ボクの世代が飲み会などで集まると、「これ飲むと太らない」とか「あれを食べると健康に良い。 高血圧にならない。」など、健康に関する話題に事欠かず、しかも専門家レベルの知識を披露する人も多い。
なぜならボクの年代になるとどこかしら病気や健康面の不安を抱えるようになるので、「健康問題」が自分事化され、常にアンテナを張り真剣に情報収集をするのでとても詳しくなる。そしてある事を深掘りして調べて自分にとって役に立ったと実感すると、誰かに共有したくなるんだよね。
だからボクは、子供たちが主体的に課題に取り組み、自ら学びを深める力を身につけていくためには、身近に起きていることに対して興味をもち、自分に置き換えて「なぜだろう」「自分だったらどうするだろう」と考えさせることが大切だと思う。
そして教師として探究の時間に限らず、子供たちの周りに基礎知識という種をたくさん撒き、知的好奇心という水をたっぷりと注ぎ続け、様々なことを自分事化できるきっかけを与えてあげたいと思っている。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/
取材・構成・文/出浦文絵